第12話

「辛かった?」



「そりゃぁ…ね。多少は。」



「強がらなくていいよ。」



「強がってないもん…。」



湊は私が嫉妬していたことにはすぐ気づくけど、別にどうこうするわけでもなく、ただ淡々と仕事をしていただけだった。



でもこれはいつものことで、湊が下手に私をフォローしたりしないから、私も私でいつも嫉妬してしまう自分に嫌悪感を募らせている。



あっという間にバーの営業時間も終わり、駐車場に停めてあった湊の車に乗り込む。



「今日は客が多かったなぁ…。」



「疲れた?」



「ん、まぁな。」



「私の事なんて気にしないで寝た方がいいよ。最近寝不足でしょ、隈ひどいよ。」



「“私の事なんて”って言うなよ。俺の大事な翠を気にするのは俺の勝手だろ。」



「……。」



「早く帰ってお前を抱きたい。」



「…シャワー浴びてからね。」



女の人の甘ったるい香水に包まれている湊に抱かれるなんて嫌。



私の好きな、あのジャズクラブの香りがする湊がいい。



あの香りに包まれると、不思議と心が落ち着くから。

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