第8話
大学も終わり、少し肌寒い道を1人で歩く。
湊のバーは私たちが初めて会った場所からそう遠くない位置にあり、大学からも歩いて行けない距離ではなかった。
まぁ、だからこの大学を選んだっていうのもあるんだけど。
程なくして、店のある通りを歩いていると、遠目からでも目立つ男性が立っていた。
「みーなーと。」
小走りで近づくと、湊は愛おしそうに私を見て微笑んだ。
「お疲れ様。大学はどうだった?」
「うん、相変わらずって感じ。あの先生の話は疲れるね。」
「そうか。」
湊は私の肩を抱き寄せると、そのままバーに向かって歩き始めた。
「ねぇ、湊。今日…なんかかっこよすぎじゃない?女性客がメロメロになっちゃうよ…。」
「なんだ、嫉妬か?」
「悪い?」
「いーや、涙が出るほど嬉しいよ。」
2人で笑い合いながら、バーまでの道を歩くこの時が、私の好きな時間のひとつ。
湊はただでさえかっこいいから、女性客の注目の的になることも多い。
手足が長くて身長も高い、細身だけどちゃんと筋肉もついた身体。
女性の求める理想像みたいな湊が、モテないはずないけど…それでも女の人と仲良さげに話してるのを見ると心臓を潰された気分になる。
バーで湊の帰りを待つ時間は別に嫌い、ってほどまでじゃないけど自分に余裕が無いと、ほんとに苦痛の時間へと変化する。
「今日は…忙しくなりそう?」
「どうだろうな…でもまぁ金曜日だからそれなりに客は来るんじゃないか?」
「そっ、か…。」
キッチンを担当している湊がバーテンダーとして立つのはお客さんが多くて店が回らない時だけ。
でもそうすると、私はとても辛くなる。
どうしてもちょっとモヤモヤとした気持ちを抱えてしまう私は、やっぱりまだ弱い。
「いい子で待ってられたら、今夜は眠る暇もやらねぇくらいドロドロに愛してやる。」
私の表情に気がついたのか、耳元に顔を寄せてそう、呟いてくれる湊。
「うん…分かった。」
大丈夫、という代わりに湊の方を向いて軽く微笑むと、それに応えるように湊も微笑む。
私はきっと…こうやって湊に出会った頃から何でも見透かされてるんだろうな。
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