第7話

『死にたいのか。』



怖かった。



真っ直ぐに見つめられて、別に何も悪いことなんてしてないのに追い詰められているような気分になった。



私はその視線から逃れるように下を向いた。



すると、湊は隣に座って持っていたレジ袋をがさごそと漁り始めた。



『飲むか?』



そう言って差し出されたのは少し汗のかいた缶ビールだった。



ビールは苦手だったけど、私は無言でそれを受け取り、開けることも無くそのまま両手で包み込んだ。



『こんな時間に女ひとりでいると危ねーぞ。』



“わかってるよ…そんなこと。”



そう返したかったけど、言葉が喉につっかえて上手く出てこなかった。



『いつもここにいるのか?』



『…う、ん。』



ようやく絞り出せた声で返事をすると、そうか。と一言呟いた湊。



初めて会った時から、湊の隣は息がしやすかった。



その事に戸惑ったせいで、言葉が上手く紡げなかったんだと思う。



いつもの息苦しさが、ないから。



『いつも、ここで何してんの?』



『…人間観察。』



『楽しいか?』



『…それなりに。』



あの夜、交わした言葉は少なかったけど、不思議と海の底から引き上げられたような…そんな感覚がした。

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