第5話

「今日は…帰ったらそのままバーに行くよ。」



「あぁ、分かった。」



湊はバーを経営していて、出勤は夕方で帰りは朝。



それなのに、私の生活リズムに合わせて朝弱い私を起こしてくれたり大学まで送ってくれたりしている。



流石に湊も体調を崩すと思って断ろうとしたことがあったけど、それくらいやらせてくれと言われてしまいなんだかんだ甘えてこの生活を送っている。



「今日の講義…先生が面倒臭いんだっけ?」



「そ…。話難しくて何言ってるか分からないのに課題も大量に出してくるの。」



「それは大変だな。」



湊が苦笑しながらコーヒーを飲む。



その姿だけでも様になるんだから羨ましい。



「ほら、食い終わったなら身支度してこい。あんまり可愛すぎないように。」



「はーい。」



“あんまり可愛すぎないように”



これは湊の口癖。



大学に行って、何処の馬の骨かも分からない男に私を見られるくらいならむしろダサさMAXの格好で行ってほしいくらいだ、とまで言われたことがある。



その結果、私がおしゃれするのは自然と湊と出かける時だけになった。



湊に買ってもらった服も、湊と一緒に選んだ服も、大学には着ていかない。



全て…湊の隣を歩くとき用のものだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る