第3話

湊の部屋は、甘いけどほろ苦い…そんな不思議な香りがした。



最初はタバコの香りだと思ったそれは、湊が使っていたマルジェラのジャズクラブという香水だったと後で知った。



『男の部屋に上がる、ってどういう意味か分かって来てるんだよな。』



『…私に手出しても別に意味ないと思うけど。』



『男はそんなに物事を理性的に考える生き物じゃねぇんだよ。』



沈められる身体、軋むベッド。



私の身体を包み込む、甘くてほろ苦いジャズクラブの香り。



私を見下ろす湊の顔は、暗くてよく見えなかったけれど少なくとも優しげな顔をしていないことくらいは分かった。



『…いいけど、私処女だよ。』



『あんなに大人ぶってた癖に随分と初心うぶなんだな。』



『めんどくさくないの?』



『なにが。』



『処女って…色々とめんどくさいってクラスの男子が言ってたから。』



『別に…めんどくさいなんて思わないけど。』



『そう…。』



『もういいだろ、大人しく抱かれてろ。』



そう言った湊は強引に、私の言葉を飲み込むようにキスをしてきた。



キスもセックスも初めてだった私は、どうしていいか分からずに、ただ目を閉じていた。



結局、流されるまま私はその夜、処女を手放した。

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