第18話「ようやく見つけたんじゃないか」




「……え、あの……君は……」

「って、え? その声……男の人ですか?」


 ステラがスマホを拾って手渡すと、少女はさらに驚いてまたスマホを落としそうになった。

 確かに見た目は完全に女子。しかし声は中世的とは違うしっかり低音の男性声だ。


「あー、えっと、ごめん。こんな格好だけど、俺は男で……人を探していたんだけど……」

「ステラ様、何してるんですか」


 ステラが言葉に詰まっていると、買い物を済ませたジェイクが追いついた。

 少女は女の格好をした男と執事に、完全に困惑していた。それでなくてもお互いにスマホという単語で動揺している。


「あ」

「え?」


 ふと、少女はジェイクの持つ本を見て声を漏らした。


「それ、私の描いた……」

「え!? マジで!? じゃあ、君がハルさん?」

「は、はい……」

「すげぇ! 俺、この世界でまた漫画が読めるとは思ってなかったよ! 絵も上手いし話も面白かった!」

「え、え、あ、ありがとうございます」


 ステラの素直な感想に、少女、ハルは少し頬を赤らめて照れた表情を見せた。

 思わずオタク心が前に出てしまったが、本題はそこではない。


「そ、そうじゃなかった……えと、そのスマホは君のものってことでいいのかな」

「は、はい……じゃあ、貴方も私と同じく急にこの世界に来ちゃった人なんですか?」

「いや、俺は……」


 転生の話をしようとして、慌てて口を抑えた。

 ジェイクの前で変な話はできない。前世の話は誰にもしたことがないし、異世界の話をしたところで信じてもらえるか分からない。

 ステラはハルにだけ聞こえるように、こそっと耳打ちをした。


「生まれたときから前世の記憶があるんだよ」


 そう言うと、ハルは納得したのか数回頷いた。


「ちょっと話がしたいんだけど……どうしようかな、いきなり女の子を家に呼ぶのはちょっとよくない、かな」

「あー……えっと、じゃあこの先に私が住まわせてもらっているおうちがあるんで、そこでもいいですか?」

「俺は構わないよ。ジェイク、帰りが遅くなるって報告しておいてくれる?」

「分かりました。あとで迎えに行きますね」

「ありがとう」


 屋敷に戻るジェイクの背中を見送り、ステラはハルに案内されて彼女の住む花屋へと向かった。

 花屋を営む夫婦はステラのことを知っていたため、ハルと一緒に帰ってきたことに驚いていたが、本屋で彼女の本を見つけてその話がしたいと説明すると喜んで部屋に通してくれた。


「優しそうな人だな」

「ええ。一ヶ月くらい前、ですかね。この世界に来たばかりで何も分からない私のことを拾ってくれて、帰り方が分かるまで置いてくれるって……」

「あの二人に話したのか?」

「一応……どこまで信じてくれているのか分からないですけど、当時は私もかなりテンパっていたので、知らない世界に来ちゃったーってずっと言ってたので……」


 ステラはハルが持ってきたクッションに座り、苦労したんだなと呟いた。


「それで、貴方は……」

「あ、俺はステラ。ステラ・カーライル。俺の場合は前世で事故死して、気付いたらこっちの世界に転生してたって感じ。君と違って赤ん坊の状態で異世界に来たから苦労することはなかったかな」

「そうなですね。私は篠塚遥しのづかはるかです。ハルでいいですよ」

「じゃあ、ハル。とりあえず俺が知ってることを全部話すよ」


 ハル、改め遥が頷き、ステラは生まれてからこれまでのことを説明した。

 ここが乙女ゲームの世界であること、攻略対象である王子、ノックスとのこと。そしてもしかしたら遥が本来のヒロインなのではないかということを。



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