第17話「これスマホじゃないのか」



 翌日の放課後。

 学校帰りに執事のジェイクと共に城下町にある本屋へと立ち寄っていた。

 この世界に漫画はないが小説はある。前世で好きだった少年誌のようなバトル要素のある小説がなくて最初はガッカリしていたが、恋愛ものやおとぎ話のような話も嫌いではない。今では推しの作家を見つけ、新刊が出るたびに買っている。


「ん?」


 ふと、隅の方に平積みで置かれた一冊の本が目に入った。

 他のものとは雰囲気の違う、タイトルのない本。その表紙には、前世で見てきた漫画のような絵柄が載っていた。

 まさか。そんな風に思いながら、ステラはその本を手に取る。この世界で様々な本を見てきたが、絵だけ載った本は見たことがない。パラパラとページを捲ると、そこには文字こそなかったが完全に漫画のコマ割りで描かれた絵物語があった。


「ま、漫画だ……でも、なんで……あ、あの!!」


 ステラは慌ててその本を店主に持っていった。

 この作者は、この漫画を描いたのは一体誰なのか。気にならないはずがない。


「ああ、これですか。最近、ここに来る女の子が描いたものなんですよ。絵を描くのが好きらしく、私が良かったらうちで売ってみないかと声を掛けましてね。そしたら絵で物語を書くじゃないですか。珍しくて買ってく人も多くてねぇ」

「そ、それで、その人は!?」

「ハルですか? さっき帰ったところなんですよ。確かリファナさんのところで居候してるとか……」

「リファナ……って、確か花屋を経営してる夫婦の奥さんか」

「そうです、そうです。ついさっき帰ったところなので、今ならまだ追いつくんじゃないですか?」

「そうか、ありがとう! 行くぞジェイク! あ、その本を買っておいてくれ!」


 ステラはジェイクにハルという少女が描いたという本を渡し、急いで花屋の方へと走った。

 この世界は絵を描く人は沢山あるが、漫画を描く人はいない。

 もしかしたら、自分と同じく転生してきた人か。それとも、探し求めていた相手か。

 まだ分からないが、僅かな希望に縋り付くしかない。


「っうわぁ!」

「きゃ!」


 ステラが角を曲がろうとすると、向かい側から走ってきた子とぶつかった。

 ぶつかってしまった子はそのまま尻もちをつき、手に持っていた荷物を落としてしまった。


「ご、ごめん! 急いでて……」

「いたた……いえ、私もちゃんと前を見てなかったので……」


 ステラは自分の足元に落ちた彼女の荷物を拾おうとしゃがんで手を伸ばした。


「……スマホ?」


 見覚えのあるそれに、時間が一時停止したんじゃないかと思えるほど、思考が固まった。

 見間違えではない。それは確かに、前世でも使っていたもの。


「……なんで知ってるんですか?」


 少女の声に、ステラは顔を上げる。

 きっと自分も同じような顔をしているんだろう。驚いて目を見開いている少女を見て、ステラはそう思った。




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