第14話「そんなに俺が好きか」
一週間後、久しぶりに花束を抱えたノックスがステラの元を訪ねた。
その表情はとても晴れやかで、その微笑みを見ているだけで眩暈がしそうなほど眩しかった。
「まず、君が一番気になっているだろうミゼットのことだが」
中庭に案内し、用意してもらった紅茶を一口飲むとノックスが話し始めた。
「結論から言って、彼女はソリス兄さんと婚約するととなった。彼女が成人したら結婚式を挙げるそうだ」
「え?」
「驚くのも無理ないが、元々ソリス兄さんはミゼットに好意を持っていたんだ。だが兄さんには既に決められた婚約者がいて、ミゼットはオレの婚約者となった」
「それじゃあ、ソリス殿下の婚約者は?」
「これは内密にな話なんだが、実は数年前にその婚約者が他の男性と駆け落ちをしているんだ。兄は想い合っている相手と引き裂くようなことはしたくないと婚約は解消したんだが、さすがに次期国王の婚約者が消えたなんて噂になれると色々と問題があるだろう? だから公にはしていなかったんだ」
「そ、そんなことがあったんですか……」
まさか婚約者関係のトラブルが他にも起きていたとは思わず、ステラは思わず紅茶を吹き出しそうになったがグッと耐えた。
「それで、俺がミゼットとの婚約を解消したいと話をしたとき、ソリス兄さんが相談に乗ってくれていたんだ。ミゼットも兄さんが相手だったら安心だろうと思って、俺も気が緩んでいたんだろうな。これで何もかもが上手くいくと浮かれて、君に会いに行っていたんだ。兄さんのことはまだ話し合いの最中だったから君にもミゼットにも言えなかったんだが、そのせいで混乱を招いてしまった。これも俺が軽率な真似をしたせいだ。本当にすまない」
「いえ……それで、ミゼット様は?」
「あれから何度も頭を下げて、一応は許してもらったよ。彼女も兄となら、と受け入れてくれた。ミゼットも幼い頃から兄さんとは仲が良いし、俺といるよりきっと幸せだろう。俺は……彼女の思いを受け入れず、仕事のような感覚で接してしまっていたからな……」
それを後悔しているのか、ノックスは泣き出しそうな表情で言った。
結果として、ミゼットのことは本人も納得いく形で解決できた。あの日以来、ミゼットと顔を合わせていない。もう一度謝りたい気持ちがあったが、ミゼットがまだそれを望んでいないらしい。
あんなことをした手前、合わせる顔がないと言っているそうだ。申し訳ないことをしたのは自分の方なのにとステラは思ったが、無理強いはできない。会いたいと言ってもらえるまで待つつもりだ。
「そういう訳だから、改めて君にプロポーズをさせてほしい」
「おう!?」
「ミゼットからの許しも得た。きちんと反省して、ステラには自分と同じようなことをしないようにと」
「ぶっ、ゴホッゴホッ!」
ミゼットの後押しがあることに驚き、ついに紅茶を吹き出してしまった。
ここで断ろうものなら、今度こそミゼットに恨まれる。
しかしまだ、心の準備が出来ていない。ここで頷くのは良いのだろうか。男の自分が王子の婚約者になるのは正しい選択なのか。今後の展開にどう影響するのか、何も予想が出来ない。
言葉に詰まっていると、ノックスは椅子から立ち上がり、ステラの手を取って跪いた。
「初めて見たときから、君のことが好きだ。これから先の未来、君と共に生きていきたい。どうか、この想いを受け取ってくれるだろうか。ステラ、俺だけの星……愛してる」
完璧な王子様ムーブに、ステラはもう抗うことが出来なかった。
湯気が出そうなほど顔を真っ赤にしながら差し出された手を取ると、嬉しそうに微笑むノックスに手の甲にキスをされた。
「ありがとう、ステラ。一生、君を大切にするよ」
「で、でも本当にいいのか? 俺、男なんだけど……」
「君はそれを気にするね。そんな些細なこと、好きだという気持ちの前で何の意味があると言うんだ? 俺は男とか女とか関係なく、君が好きなんだ。その美しさも、それにかける情熱も、努力も、全てが愛おしいんだ」
「……え?」
「最初は一目惚れだった。こんなにも美しい人がこの世にいるのかと、胸を打たれたよ。それから、君のことを見てきた。一つ一つの美しい所作を身に付けるのに、どれほど努力したか俺には想像も出来ない。そういうところも、尊敬する」
ストレートな告白に、ステラは顔を隠したかった。だがノックスに手を握られているせいでそれも出来ない。
真っ赤な顔を見られながら、数十分間ノックスの告白を聞き続けた。
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