第3話「出逢っちゃいましたか」
そんなある日のことだった。
休日に騎士団に所属する兄の様子を母と共に見に行ったときのこと。普段来ない場所だったため、ステラは周囲を見て回りたいと母に一声かけて訓練所を探検しに行った。
城の敷地内にあり、少し歩くと様々な花が綺麗に咲いている中庭に出た。あまりにも幻想的な雰囲気に、ステラは目を奪われた。
こんな場所で撮影会をしたら相当映えるだろうな、なんて前世でのことを思い出しながら日傘をくるくると回しながら花壇を一つ一つ見ていく。
「……そこで何をしている」
ふと声を掛けられ、ステラはビクッと肩を震わせた。
勝手に入ってはマズかったのだろうか。ここで自分が問題を起こしたら、兄たちにも迷惑がかかる。
ステラは慌てて頭を下げて謝罪した。
「も、申し訳ありません! 無断で入ってきてしまって……!」
「ああ、すまない。決して怒っている訳じゃ……」
お咎めを食らうことはなさそうで、ステラはホッと胸を撫で下ろした。こんなところで第二の人生を終えるなんて悲しすぎる。首の皮が繋がっていることに安心して顔を上げると、ステラはもう一度驚くことになった。
「……ノ、ノックス王子……」
前世で散々見た顔が、そこにはあった。
『君と恋と運命の物語』に登場する、攻略対象の一人、ノックスだ。今まで遠目で見たことはあったが、まさか直接出会う日が来るとは思ってもみなかった。
ステラは前世で一度だけ珍しく男キャラのである彼のコスプレをしたことがあったが、本物は比べ物にならないくらい美しい。その切れ長の瞳も、艶のある漆黒の髪も、コスプレとではクオリティの差が段違いだ。当時、結構な反響があったが本物には勝てない。ステラは心の中で白旗を上げた。
「見かけない顔だが、君は……?」
「あ、あの……カーライル家の三男、ステラと申します。今日は兄の訓練を見学に来ていて……」
「ああ、ローグとハインの……三男?」
ノックスは一瞬流しそうになったが、遅れて違和感に気付く。
目の前にいる可憐な美少女はいま、自分のことを三男と言った。どこからどう見ても、少女にしか見えないというのに。
ステラは驚かせてしまったことに気付き、もう一度頭を下げた。
「紛らわしい格好で申し訳ありません。えっと、俺はこう見えても男で……この格好は趣味というか……」
「しゅ、趣味……そうか、よく似合っているな……」
まだ頭の中で整理が出来ていないのか、ノックスは何度も瞬きを繰り返してステラのことをジーッと見つめている。
初対面の人は大抵驚くが、最近はステラのことを知っている人物としか交流がなかったので、こういう反応は新鮮だった。
「えっと、それじゃあ……母が心配するので俺は失礼します」
「訓練所に行くんだろう? だったら俺も一緒に行こう」
「え」
「どうかしたか?」
「あ、いえ……王子様も訓練所に用事が?」
「ああ」
行き先が同じなのであれば断るのも不自然だ。ステラは少し落ち着かないがノックスと共に行動することにした。
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