第4話「王子に惚れられたってことですか」




「お母様、遅くなってごめん」

「あら。もうどこ行ってたの? 戻ってこないからお兄ちゃんを行かせるところだったわよ」

「ごめんごめん、ちょっと離れたところまで行きすぎちゃって」

「そう。えっと、それよりもステラ? 後ろのお方は……」


 母がチラチラとステラの後ろにいる人物を見ている。

 無理もないことだろう。まさか息子が戻ってきたら後ろにこの国の王子様を連れてきているのだから。何か悪い事でもしたのではないかと母はダラダラと冷や汗をかいている。


「突然すみません、彼がお母様とこちらにいらしていると聞いたので、ご挨拶をさせていただければと思いまして」

「……挨拶、ですか? ああ、もしかして息子たちのことでしょうか?」


 母はそう言って離れたところで訓練をしている兄たちを指差したが、ノックスは首を横に振った。


「いえ。確かにローグとハインは優秀な団員ですが、今回はこちらの彼のことでご挨拶が出来ればと思いまして」

「は?」


 どういうことだと、ステラは首を傾げた。

 たまたま目的地が同じだったから一緒に来たと思っていたのに、彼の用事が自分のことで母に挨拶をすることだったなんて変な話だ。二人はついさっき出会ったばかり。話の流れ的にも粗相などはなかったはず。ステラはノックスが何を言っているのか理解できず、頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされていった。


「えっと……うちの子が何か……」

「いいえ。ただ、これから長い付き合いになると思ったので」

「それはどういうことでしょうか?」

「はい。実は、彼に結婚の申し出をしたいと思っていまして」

「はあああああ!?」


 信じられない出来事に、ステラは思わず大きな声を出してしまった。

 どうしてそんな展開になるのだ。彼はヒロインの攻略対象であって、モブである自分とは無関係のはず。一切関わりのない人生を送ると思っていたのに、色々なものを飛び越えて一気に婚約だなんて信じられるわけがない。

 ステラは思わず母の後ろに隠れ、こっそりとノックスの顔を見る。真剣な顔をして、冗談で言っているようには見えない。だが、いくら王子が相手でもその申し出をすんなりと受け入れるわけにはいかない。


「ちょ、ちょっと待ってください。ノックス王子……俺はさっきも言った通り、男ですし……そもそも、王子にはもう婚約者がいますよね? 俺を側室にってことですか?」

「いや、君が頷いてくれれば彼女との婚約は解消する」

「は!? なんでだよ!?」


 予想外の返答に思わず敬語が抜けてしまい、咄嗟に口を押えたが本人は全く気にしている様子はない。


「一目惚れだ」

「はいぃ?」

「こんな気持ちは生まれて初めてだ。君を一目見た瞬間、俺は君と運命を共にしたいと思った」

「いやいやいや、おかしいって! 言ったじゃん、俺は男だって! 王子様の相手が男なんて反感を買うだろ!? それに、ミゼットとは学年は違うけど同じ学校なんだぞ!? 気まずいじゃん! 嫌だよ俺、国民から石投げられるの! 炎上したくないもん! 昔だって炎上しないようにって私生活も色々気にしながら生きてきたのに!」


 あまりにも展開が急すぎて、ステラは前世のことを口走ってしまったが、母も混乱しているのか全く話が頭に入ってきていない。

 肝心のノックスもステラに夢中なのか、タメ口なことも全く気にしていない。


「君に害が及ばないように俺が対処する。ミゼットとの婚姻関係もすぐに切る。婚約を破棄出来たら、周囲を説得出来たら、俺のこの気持ちを受け入れてくれるか?」


 ノックスは跪き、ステラの手を取って甲にキスをした。

 これがゲームだったら完全に一枚絵が出てきた、なんて思いながら、ステラはノックスの完璧な王子様ポーズに思わず心が奪われそうになった。

 無理もないこと。ステラは前世で唯一男性キャラのコスプレをしたのがノックス。それくらい、一番好きだったキャラクターなのだ。

 推しからのプロポーズに、男と言えどトキメかないなんて無理な話だった。



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