四十九、論理くん、私たちと将来を語りあう
次の日の日曜日はすぐにやってきた。今日も私は、Baby, the Stars Shine Brightの服を着ていくことにした。今日は、青い長袖のワンピース。セーラーカラーになっていて、セーラー服のワンピースバージョンみたい。襟や袖や裾にはかわいいフリルがたくさん付いていて、すっごく愛らしいんだよ。論理がこれを見たら、きっと私にまた惚れ直しちゃうかもね!なんて。
「ああ、ちょっと早く着きすぎちゃったなあ」
時計を見ると、十時三十分。でも、私はもうカカちゃん人形の近くまで来てしまっていた。さすがにまだみんな来てないよね…。と思っていると、カカちゃん人形の下に、佐伯さんがちょこんと立っていた。佐伯さん!私は、少し怖かったけれど、佐伯さんに近づいていく。
「佐伯さん…お、おはよう!」
私が声をかけると、佐伯さんは私に気付いてくれた。でもその目は、犬が猿を見る目をしている。
「………………」
そして何も言ってくれない。でも私は、怯まずに会話を続けた。
「さ、佐伯さんも、結局みんなと図書館行くことにしてくれたんだね!うん、よかったよかった」
「…あたしはただ秀馬と一緒にいてぇだけだ」
「さ、佐伯さん、よっぽど秀馬くんのことが好きなんだね!」
その私の一言は、佐伯さんの怒りの導火線に火をつけてしまったようで、佐伯さんの顔が見る間に燃えていく。
「うるせえっ‼︎秀馬はあたしのものなのに、てめぇらが奪ったんだろ!返せっ!秀馬を返せよぉぉっ‼︎」
佐伯さんの大声に、街行く人たちが振り返っていく。
「ご、ごめん、佐伯さん…」
「ちっ‼︎うるせえこのやろう‼︎」
佐伯さんは、拳を振り上げた。ああ、また、殴られる──!
「なにしていやがる。このゴキブリ女」
聞き慣れた声が聞こえた。目を開けると、論理が、佐伯さんの腕を固く握っている。
「論理!」
「てめぇ、‼︎放せ‼︎」
「黙れ糞虫‼︎」
論理は、佐伯さんの髪をつかむと、激しく左右に振った。
「こ、この野郎‼︎い、痛ぇ!痛ぇっ!」
「てめぇ、文香に何をした。ゴミ女、火葬場へ行け‼︎」
論理はそう叫んで、佐伯さんを、地面に叩きつけた。
「あうっ‼︎痛ぇ!なにすんだ‼︎」
佐伯さんが立ち上がろうとしたとき、後ろから秀馬くんの声がした。
「おいおい、どうした」
振り返ると、秀馬くんと優衣と沢田くんがいる。
「秀馬‼︎あたしね、あたしね、太田にいじめられたの!」
佐伯さんは、秀馬くんの腕に飛びついた。でも秀馬くんは、それを冷たく突き放す。
「いや、論理は訳もなく人をいじめるやつじゃない。論理、一体何があったんだ」
「俺が待ち合わせ場所に行ったら、こいつが、文香に殴りかかっていたから、止めて、少し懲らしめた」
「なに?じゃあ、文香はどうして、遥に殴りかかられるようなことになったんだ?」
「え、えっと…佐伯さんに、よっぽど秀馬くんのことが好きなんだね、って言ったの…それで怒らせちゃったみたい…」
秀馬くんは、佐伯さんを睨んだ。
「遥、それで間違いないんだな?」
「はい…間違いありません…。私は、こいつらと喧嘩した悪い糞虫です。だからどうぞ私をぶって下さい」
佐伯さんは、秀馬くんの前に跪いて、まるで犬がちんちんするときのような格好をとる。
「よし、じゃあ行くぞ」
秀馬くんはそんな佐伯さんを、道端の石ころのように無視して、みんなに声をかけた。そして私たち四人は、秀馬くんについて歩き始めた。背後で佐伯さんが、なにやらきゃーきゃー言っていたけれど、やがて、私たちの後ろについて歩いてきた。こうして、私たち六人の、三条地図書館旅行が始まった。
新尾風駅から菜津宮行きの急行に乗る。おなじみの、グランドフォンをバックに、急行は快適に走る。車内の席は四人がけで、通路の右側に、私と論理、優衣と沢田くん、通路の左側に、秀馬くんと佐伯さんが座った。
「ねえねえ、秀馬、あたしの今日の服かわいいでしょ!ちょっとおしゃれしてみたんだよ!どうかな…」
「ああそうだな」
「見て見て!ここのおちょんぼのゴムね、この前雑貨屋さんでかわいいの見つけたから今日秀馬に見てもらいたくてしてきたの!」
「そうか」
「この時計も、大事にしてるんだよ。秀馬との初デートのときに秀馬がお小遣いを貯めて買ってくれた時計…。あたし、一生大事にするからね!」
「そりゃ嬉しいな」
佐伯さんの、甲高いベビーソプラノが車内に響く。秀馬くんへのマシンガントークが止まらない。秀馬くんは、腕組みをしながら顔を背け、鬱陶しそうにしていながらも、相槌だけは打っている。秀馬くん、もうちょっと話の相手になってあげればいいのに。一方の私たち四人の席では、クリスマスの話になっていた。クリスマスイブの二十四日は終業式だけれど、クリスマスの二十五日からは冬休みだ。
「ねえ、ぶんちゃんたちは、クリスマス何か予定あるの?もちろん、論理と過ごすわよね!」
「え、まだ決めてない」
「えーっ!決めてないの?二人で過ごす初めてのクリスマスでしょ⁉︎」
「う、うん…」
私は、論理を見つめる。二人でクリスマス過ごせるのかな…。
「俺が今思っているのは、南志賀(みなみしが)通りのイルミネーションを二人で見て歩くことだ」
論理は、歯切れよくそう言ってくれた。
「論理、私とクリスマス一緒に過ごしてくれるの?」
「もちろんだ。文香以外の誰と過ごすと言うんだ」
「やったあ!嬉しい…論理と過ごす初めてのクリスマスかあ…しかも、あそこのイルミネーションを見て歩くなんて、今から考えるだけでロマンチックな気持ちになれるよぉ」
一つ一つの光が青く輝く南志賀通りのイルミネーション。その中にいると、まるで自分が恋愛映画のヒロインになったような気分になれる。そこを、論理と二人で歩く姿を想像してみる。ああ、ロミオに恋するジュリエットよりも、私は論理に恋をしている。
「これこれ、そこの君。なにをうっとりしているのかね」
いきなり優衣に声をかけられて、私は我に返った。
「私は一世一代の恋をしているってことだよ優衣。じゃあ論理、二十四日の夜は、イルミネーション見ようね!それで、私の家でケーキ食べて、一緒にお泊まりして、それで…」
それで…あとは、性なるクリスマスだよね。きゃっ!恥ずかしい!
「うん、楽しみにしてるよ」
論理は、私のそんな内心を知ってか知らずか、明るく爽やかに答えてくれた。
「優衣と沢田くんはクリスマスどうするの?」
「俺たちは、二十四日の夜は優衣ん家でケーキ食べて、二十五日は親父とお袋と俺と優衣で、舟川(ふなかわ)温泉行くんだ」
沢田くんは、自慢げにそう語る。
「温泉⁉︎いいなあ」
私も論理と温泉行きたいよぉ。
「親父とお袋が、優衣を招待してくれたんだ。おかげで、優衣とゆったり温泉だよ。優衣の浴衣姿が見られるぜ!やっほーい!」
「もう、なに調子に乗ってるんだか。義久はただ、よいではないかよいではないか、あ〜れ〜ってやつをやりたいだけでしょ」
「バレたか。もちろんやらせてくれるよな!」
「知らないわよ!当日のお楽しみじゃないの〜?」
盛り上がる二人を見ながら、論理が、ポツリとつぶやいた。
「いいなあ、二人は」
「ん?論理どうしたの?」
私がそう尋ねると、論理は、車窓の外を見ながら、こんなことを言った。
「沢田と向坂さんは、もう家どうしの付きあいだもんな」
あ…そうか。
「わ、私、全然そんなこと気にしてないから!むしろ、こんなこと言っちゃ悪いけど、論理の家族と付きあいがなくてほんとによかったと思ってるくらいだから」
「そりゃあ、あんな家族ではなあ…。俺が思うのは、俺の家族が、もっと真っ当なものになっていたら、沢田と向坂さんみたいな付きあいもできただろうにということだよ」
まあ確かに、そんなことができていたら、どれだけいいことか…。でも…。私は大きく口を開いて、「すはあああっ」と息を吸い込む。私独特のブレス音に、論理への気持ちをこめて。
「でもさ、論理の家族は論理の家族で、世界にひとつしかない家族なんだよ。あんな形の家族だけどさ、論理にとってはかけがえのないものだと思う。それに、私は、論理をここまで育ててくれた論理のお父さんやお母さん、お姉さんに、ありがとうって言いたい気持ちだよ。…まあ、いろいろやられてはきたけどね」
論理は、微かに寂しげな色を浮かべて、微笑んだ。
「そういうところ、文香らしいな。その文香らしさが、俺は大好きだ。でもその優しさは、俺の家族には、もったいなさすぎる」
「ねえ論理、前にも言ったかもしれないけど、人を変えるには、まず、自分が変わらないといけないんだよ。そうすることで、人も変わっていくんだよ」
「確かにそうだろうけど、それで?」
「何が言いたいかって言うと…、論理が愛情を持って、家族と接することができたら、家族も変わっていくんじゃないかなって、思ったの…」
論理は、腕組みをしてしばらく黙って車窓を見ていた。電車のスピードが落ちて、駅に入っていく。下瀬古(しもせこ)という駅名が読めた。今度は論理が、胸と肩をふくらませて「はあああっ」と息を吸い込む。
「残念だが、逆だ。俺は変わったが、文香の言う方向とは逆な方向に変わった。俺は家族に愛情ではなく、より深い憎しみを持つ方向に変わっている。その結果、家族は一層酷いものになったが、俺はそれでも守り抜いたものがあると思っている」
「守り抜いたものって?」
「うん。俺は、母親を一層憎むことで、母親からの重圧を跳ね除けた。だから、文香との関係も、あの母親の攻撃から守り抜くことができた」
静かに淡々と言うその論理の横顔には、見えない涙が流れていた。論理の渇いた心には、お母さんの暴圧という名の棘が無数に刺さっている。私は、その棘を抜いてあげることができるのだろうか…。電車は、下瀬古を出て、スピードを上げていた。次の停車駅は、終点の菜津宮であることを、アナウンスが告げていた。
三条地の図書館では、特に科目も決めず、各々がやりたい科目に取り組んだ。ちなみに私は英語。論理は数学。それぞれの一番苦手な科目だ。私は佐伯さんに叱られながら、冷や汗たらたらで勉強したけれど、佐伯さんは口は乱暴ながら、教え方は結構わかりやすかった。論理は相変わらず優衣に呆れられながら教わっている。そんな風に、六人で長いこと勉強したので、勉強会が終わる頃には、一応対策は立て尽くした形になった。明日からの期末試験も、これでなんとか大丈夫だろう。午後五時、私たちは、図書館をあとにした。
三条地の駅に続く真っ直ぐな一本道を、六人で歩く。もう北風が本当に冷たくて、風に雪のかけらが混じっているんじゃないかと思った。みんなで上着の襟を立てたり、フードを被ったりして歩く。日はもうすでに暮れて、私たちの行く手は街路灯頼みだった。
「いよいよこれで勉強会も終わりだな。みんな明日からがんばろう」
秀馬くんが、そう言って景気付けてくれる。ああ、明日から期末試験か。その成績で、私たちの進路もだんだんと決まっていくんだなあ。そういえば、前に三条地に来たとき、論理と二人で将来のことを話したんだっけ。今みんな、進路はどんなふうに考えているのかな。
「あのさ、みんな、進路や将来、どう考えてる?」
私がそう聞くと、佐伯さんが、「はーい!」と言って手を挙げた。
「秀馬と同じところに行って、秀馬と結婚して、秀馬の病院で働くの!」
声も口調も甘ったるく佐伯さんはそう言うと、小動物のようにぴょんぴょんと跳ねて秀馬くんの腕にひっつく。秀馬くんは大きなため息をついて、もう呆れ果てたのか、佐伯さんを振り払おうともしない。
「じゃ、じゃあ、その秀馬くんはどうするの?」
「志望校は花宮だ。そのあとは、尾風大学の医学部に進みたいと思っている。親父の診療所を継ぎたいからな」
論理は、羨ましそうな目を秀馬くんに向けた。
「医者か。秀馬ならなれるよ。じゃあ白い巨塔とか見てただろ」
「ああ。間違っても財前(ざいぜん)みたいな医者にはならない」
秀馬くんは、みんなの笑いを誘った。
「じゃあ優衣は?」
「私は、義久と二人で滝部に行くの。一緒の高校行くんだよね!ね、義久!」
「そうだな。優衣と同じ高校で学校生活を送りたい。それと将来は、家業を継ぐという点では坂口と同じだ。『Food Salon Yaoteru』の、オーナーになりたい。優衣も、俺と結婚したあとは、そこで一緒に働いてくれるらしい」
優衣は、顔を赤らめる。この二人なら、あのきれいなお店が一層輝くだろう。
「ところで文香は、やっぱり教師志望なのか?」
秀馬くんにそう聞かれて、私はうなずいた。
「うん。論理と同じ青島高校から、二人で尾教大に行って、一緒に教師になるの」
私はそう言って、論理を見た。論理は、大きくうなずいた。
「うん、やっぱり、俺の進む道は、文香と二人で教師になることだ。それにしても、みんな将来をしっかり見据えていて、すごいと思う」
私たちの前を、北風が吹き抜けていった。私たちの将来も、こんな北風が吹き付けるほど厳しいものかもしれない。でも、どれだけ風に吹かれようとも、乗り越えていくんだ、論理と二人で!
それから私たちは、電車に乗って尾風に帰った。車内では、みんな疲れていたのか、口数少なく過ごした。夜七時、尾風駅からみんなそれぞれに家路につく。論理は、私を家まで送ってくれた。
「論理、明日からの期末試験がんばろうね!」
「うん。俺は文香ほどできないけど、ベストを尽くしたい。がんばろうぜ!」
私たちは、ハイタッチを交わした。相変わらず北風が強いけれど、それをものともしない勇気が出てきた。
期末試験は、国・社・数・英・理・音・技術家庭・美・保体の、九百点満点だ。先生方の採点は早く、週明けの月曜日には答案が返ってきて、一人一人の総合成績が出た。私たちの中では、やっぱり秀馬くんがトップで、合計八百九十四点。国語以外校内最高。学年一位だった。続いて佐伯さんが、八百九十点。社数理音校内二位。総合計でも学年二位だった。私は今回よくできて、総合で八百十点。苦手な英語と数学ができたのが大きかった。順位は、二百三十人中十七位で、前回より十八位上げることができた。論理は、総合四百六十五点。 国語は百点。社会と理科はまあまあできた。順位は九十七位で、前回よりも十五位上がっている。優衣は、四百五十点。数学九十五点だったけれど、他がふるわなかった。でも順位は百十位で、前回より十二位上げた。沢田くんは、総合で四百十二点。英語が落ちてしまって、その分順位が下がる。百三十六位で、前回と比べて十七位下がった。
「おう、池田、ちょっといいか?」
廊下を歩いているとき、倉橋先生に声をかけられた。倉橋先生はあまり生徒思いな先生ではないので、私は、倉橋先生のことはそれほど好きじゃない。
「なんでしょうか」
「池田、期末試験の結果、ずいぶん伸びてきたじゃないか。今、どのあたりを狙っているんだ?」
「青島高校です」
すると先生は、小さくため息をついた。
「太田の影響か」
「はい」
先生の言い方が気になったけれど、私は毅然と振る舞う。
「池田。進学というのはな、もっと大きな視点で捉えるべきものだ。その高校に行ったら、そのあとの人生がどうなっていくのかを深く考えないといけない」
「…青島高校で論理と一緒の人生を歩むと思ってはいけないんですか?」
先生は、字を書いていたら鉛筆の芯が折れてしまったときのような顔をした。
「池田、お前確か教員志望だったな。だとしたら将来の進学先は尾風大学や尾教大になる。青島からこれらの学校へ進学するのは厳しいぞ」
そんなことは先生に言われなくてもわかってる。
「私なりに一生懸命考えての決断です」
「…それに、こう言っちゃ悪いが、太田との関係が長く続くとは限らんだろう」
「はあ⁉︎」
なに言い出すのこの人!
「もし太田との関係が、急速に始まって急速に終わる関係だととしたら、進学しにくい青島高校に捨て置かれて、恋もできないわ、進学も困難だわってことになるかもしれん。中学生の恋愛なんぞ所詮イニシエーションにしか過ぎない。お前たち、まさか結婚前提に交際してるのか?馬鹿馬鹿しい」
先生の世迷言が火を起こし、私の怒りが沸点に達した。
「……決めつけるんですか?」
「なに?」
「どうしてそうやって、決めつけるんですか⁉︎」
「いや別に決めつけてはおらんぞ」
「決めつけてるじゃないですか!急速に始まって急速に終わるってなんですか⁉︎馬鹿馬鹿しいってなんですか⁉︎私そんな気持ちで論理と付き合ったこと、一瞬だってありません‼︎私は論理の好きな青島に行きます。どんなに進学がしにくたって、二人でやり遂げます‼︎誰にも文句は言わせません‼︎」
私はもう沸騰しているので、言葉の熱湯を先生に浴びせた。廊下に私の大声が響き渡り、通りすぎる生徒たちはみんなこちらをちらちらと見ている。先生は、おろおろしている。
「ああわかったわかった。それなら青島を受ければいい。それで苦労して、進学も報われず、恋も失って、途方に暮れろ。そのとき先生の言ったことがわかるだろう」
先生は、私の激怒のスイッチを押す決定打となる言葉を、平然と言い放った。
「先生、そんなことまで言うんですね…。いいです!もう先生には相談しません!まあ、最初から相談する気もありませんでしたが!私たちはかならず二人で青島に進学します!わかりましたか‼︎」
私はそう啖呵を切り、駆け足で走り去った。
帰り道、論理と歩くいつもの道。ピンと張り詰めた冬の空気が、顔に突き刺さって痛い。空はどんよりと曇っていて、雪が降りそうなくらいだ。
「……っく、ううぅ…あんなこと…言わなくたっていいのに」
私は、さっき廊下で先生に言われたことを、論理に話していた。
「倉橋も呆れたやつだな。あんなやつが教員やっていられるんだから、俺たちが先生になったら名教師でいられるさ」
論理も、私の怒りを共有してくれた。
「倉橋が金八先生みたいな先生だったらよかったのに!まるで私たちが別れるといいみたいな口調だったよ‼︎」
白い息が、私の口から出ては消えていく。私たちの関係は、そんな儚いものには絶対にならない!
「文香、今度の期末十七位じゃん。学校側にしてみたら、自分たちの進学実績を上げるために、文香にはもっといいところへ行ってほしいんだろう。そのためには邪魔な彼氏をなんとかしなければ、と」
「邪魔じゃないよ‼︎私論理と同じ高校行けなかったら、もう私学校行く意味ない…」
私は、繋いでいた手を離し、論理の腕にしがみついた。論理は、そんな私の頭をなでなでしてくれる。
「そうだよな。俺も心底そう思う。文香が青島の夏服を着て、それを後ろから抱きしめられたら…。もう何も言うことはない!」
論理ったら。よっぽどそれ見たいんだね、かわいいなあ。
「ねえ、倉橋、私をどこに行かせたがってるんだろう」
「平均九十、順位十七位がずっと続くのなら、明立や村原(そんばら)というところか。誰かさんが死ぬほど俺を行かせたがっている、あの明立だな。菊山や明戸あたりも考えられる。無論、何にしても俺なんかには到底手は届かない」
「そんなところにはいかないよ!…私、誰が何と言っても青島を受けて、青島に行くんだ!」
「うん…。きっと一緒に青島に行こう。とはいえ、俺が受かるかどうか覚束ないが」
「そんな!論理ぃ!小舟に乗ってたらサメの集団に襲われたときみたいなこと言わないでぇ!」
でも、受験は本当に天命に任せるしかない。もし、論理が青島に落ちて、滑り止めの尾州に行かざるを得なくなったらどうしよう…いや、今はそんなこと考えたくない!
「ごめん。でも…文香、信じよう。大丈夫、きっとうまくいくって!」
私は少し驚いた。そして、論理のその言葉は、私をそう信じさせるのに十分値するものだった。だって、あんなにネガティブだった論理が、大丈夫と言ってくれることが、嬉しかったから。
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