二十九、論理くん、私と夏休み最後の日を過ごす
翌日も、翌々日も、そのまた翌日も、論理くんからは何も連絡はなかった。私も、なんだか気まずくて連絡できなかった。あー、やっぱり怒ってるのかなぁ…。私なんであんなことしたんだろう…。論理くんに会いたいよ…。はぁ…憂鬱だ。そして四日目の朝、スマホが鳴った。論理くんだ。論理くん!漫画を読んでいた私は、漫画を投げ捨てた。論理くん!論理くんが通話してきてくれた!
「もしもしっ!論理くん⁉︎」
『あ、池田さん』
論理くんの声!何年ぶりかに聞いたような気がする!
「論理くん!論理くん!この前は、ごめんね」
『ああ、いいよ。それよりさ、また図書館行かない?』
「うん!もちろん行くよ!今度はどこに行く?」
『菜津宮の、可南(かな)の図書館が結構気持ちのいいところだから、そこはどうかな?』
「うん!論理くんがそう言うなら一緒に行きたい!」
『ありがと。宿題が溜まっていて困ってたんだ』
「じゃあ、私の見せてあげるね!」
『頼りにしてるよ。じゃあ早速だけど、今日行ける?』
今日!今日論理くんに会えるんだ!やったー!
「全然大丈夫!行けるよ!」
『それなら、十一時にカカちゃん人形の下でね』
「おっけー!」
通話を切る。論理くんとデート!二人きりは久しぶりだよね。私は、鼻歌交じりにさっそく出かける準備を始めた。念入りにヘアブローしておかっぱを整える。服は何がいいかな。あれこれ悩んだけれど、一昨日お母さんと買い物したときに買った、後ろファスナーの黄色い花柄のワンピースにした。麦わら帽子をかぶって行こうかと思ったけれど、おかっぱが見えなくなっちゃうからあえてかぶらない。よし、決まった!次に私は、鞄に宿題を入れた。夏休みの宿題はもう全部やってしまってある。これで支度は整った。私は、重い鞄を肩に掛けて、玄関に降りていった。
「あら、お姉ちゃんお出かけ?」
「うん。論理くんと菜津宮の可南っていうところの図書館まで勉強しに行ってくる」
「そう。気をつけてね。帰りはあまり遅くならないようにね」
「はーい!行ってきまーす!」
論理くんと久しぶりに会える!私の心はスタッカートのように弾んでいた。
市バスに乗って、駅に着くまでがもどかしかった。駅のバスターミナルから、小走りにカカちゃん人形のところまで向かう。かなりの距離なので、カカちゃんの下に着く頃には私は汗まみれだった。
「池田さん!」
背後から呼ばれて振り向く。そこには、望んで止まなかった論理くんの笑顔があった。
「論理くん!お久しぶり!」
私は、すぐにでも論理くんに抱きつきたかったけれど、人が多かったのでできなかった。
「そうだね、ちょっとお久しぶりだったよね。連絡せずにいてごめんね」
「いいよ!でも、寂しかったよぉ」
「ごめんごめん。この三日間くらいお袋が荒れててさ、簡単に連絡できなかったんだ」
「そりゃあそうだよね…。でも、論理くん大丈夫だった?またお母さんに何かされなかった?」
「外出禁止はくらってるよ。でも、親父が『勉強しに外に出るのを禁止するというのは筋が通らんだろう』って言ったら、渋々黙った。ただ、図書館がらみじゃない普通のデートとかはちょっと難しくなったかもしれない」
論理くんはそう言って、悔しそうに目を伏せた。
「そっか…。じゃあ、もうすぐ夏休みも終わりだし、夏休みに会うのはこれで最後になるかな」
「そうだな。残念だけど、九月一日を待つことになりそうだ」
そっかぁ…。夏休みはあと三日あるけど、もう論理くんと会えないのか…悲しい…。こんなに早く夏休みが終わってほしいなんて思ったことはないよ。
「じゃあ、今日はいっぱい楽しく勉強しようね!」
「うん。ところで池田さん、汗まみれじゃない。今日はそれほど暑くないよね」
あっ、汗まみれなの論理くんにバレちゃった。恥ずかしい…。
「あはは、ちょっと走ってきたから汗かいちゃった」
私は、恥ずかしさを隠すために笑った。
「そっか。池田さん、一生懸命走ってきてくれたんだ」
論理くんはそう言うと、瞬時に私のうなじに指を這わせて、汗を掻き取り、美味しそうにそれを舐めた。
「きゃっ!論理くんなにするの〜!」
「池田さんが、俺のために汗でうなじを濡らした。そんな貴重な汗を、舐めない道理は無いだろう」
論理くんは愉快げに微笑みながら、意気揚々とそう言ってくれた。論理くんったら…そんなこと言ってくれるのは論理くんだけだよ、かっこいい…。
「あぅぅ…恥ずかしいけど…ありがと…」
論理くんは、恥ずかしがる私の肩にさりげなく腕を回した。
「さぁそろそろ行こうか。鉄道の入り口、こっちだよ」
私たちは、夏休み最後の二人きりの時間を一緒に歩き出した。
新尾風の駅は相変わらずせわしなくて、どこから乗ればいいのか私一人ではさっぱりわからない。でも論理くんは、乗車位置をよくわかっていて、私を正しい場所に導いてくれる。まもなく、嵩町(たけまち)行きの特急が入ってきて、私たちの目の前で扉が開いた。グランドカーだ、やったぁ!私たちは一番前の席に陣取る。グランドカーというだけあって、本当に眺望が良い。
「いいとこ座れたね、池田さん」
「うん、これなら景色がよく見れるね」
扉が閉まって、特急が発車していく。頭の上の運転室から、ブーっという警笛が聞こえて、グランドカーが動き出した。
『本日もご利用いただきまして、ありがとうございます。嵩町行きの特急です。次は、岩下に停車をいたします』
岩下といえば、確か論理くんのお母さんの実家のあるところじゃなかったっけ…。
「聞き覚えのある地名じゃない?」
論理くんは、まるで私の心の中を見透かしたように、ニヤリと笑ってそう言った。
「うん、論理くんのお母さんの実家があるところだよね?」
「そうだよ。姉貴の実家でもあるよ」
「あ、そういえばお姉さん帰ってきた?」
「合唱コンクールの日の夜になんとか岩下から連れ戻されてきたよ。お袋も、やつも、譲らない者どうしで、未だに家の中は緊張している」
お姉さん帰ってきたんだ…。私は、なんとなくホッとした。
「お姉さん、家のこととかお母さんの介護とか、ちゃんとやってるの?」
「親父と叔父が何度も話し合ったんだけど、叔父は、『絵美、何かあったらいつでも帰ってこい』の一点張りだし、親父の方は、お袋の具合から見て今やつに出ていかれたら困る。結局は、『今度岩下に逃げてきたら、養子縁組は解消する』ということになって、やつは連れ戻された。やつにとっては少し有利な話ということもあって、表向きは平穏に家事も介護もやっている」
自分の作った料理をひっくり返されたのに、平穏に家事も介護もできるって、さすがお姉さんだなぁ。私のカレーのときは、平穏になんかできなかった。それとも、何か企みがあるのだろうか。
「お姉さんも大変だね…」
眼前に目をやる。特急は猛スピードで下河原(しもがわら)の駅を駆け抜けた。その様子を、論理くんも眺める。
「それもしかたがない。やつが自分で選んだ道だ。小学生のときだって、中学生のときだって、高校や短大のときだって、岩下に戻ろうと思えばできたはずだ。それでもそうしなかったのだから、それはやつ自身のせいだ」
「どうしてお姉さんは、岩下に戻らなかったんだろう?論理くんの家はあんなに厳しいのに」
「どうしてだろうな…。俺の家は、やつにとって暮らしやすい家だとは決して言えないはずなのにな」
「……自分の存在価値を見出したかったのかもしれない」
ふと、私はそんなことが頭に浮かんで、ポツリと論理くんに言った。
「俺の家にいることが、どうしてやつの存在価値に繋がるの?俺が生まれることで、やつの価値は地に落ちたはずだよ」
「だからだよ。だからお姉さんは、家事や介護をすることに自分の価値を見出そうとしているんじゃないかな」
「料理をひっくり返されても、そこに価値を見出さなければいけないのか…」
論理くんは、押し黙って物思いにふける様子だった。なんだかお姉さんも、悲しい人生だよね…。そのせいでお姉さんも性格が歪んじゃうし…。すべてはあの鬼ババアのせいか…。いや、誰のせいでもないよね…。私たちはそれからしばらく無言だった。岩下に着く一つ手前の駅が、太中寺(だいちゅうじ)という名前で、実家の最寄りの駅なんだけど駅から歩いてたっぷり二十分はかかる。と、論理くんが教えてくれた。そしてまもなくグランドカーは、岩下の駅に着く。何人かのお客さんが乗ってきて、私たちの周りの席も埋まった。短い停車時間を経て、特急は再び発車する。
『次は、恋野(こいの)に停車をいたします。この先、猿池(さるいけ)、猿池遊園(さるいけゆうえん)、新古本(しんふるもと)の順に止まってまいります』
「ねぇ池田さん、今北(いまきた)高校って知ってる?」
「知ってる。昔女子校だったんでしょ?」
「うん、今北女子高校って言ってた。恋野の手前の、智保(ともやす)の駅の近くにある。お袋の母校だ」
「そこけっこうレベルの高い学校だったって聞いたよ?お母さん頭良かったの?」
論理くんは、露骨に苦笑いした。
「だろうな。お袋本人が、『私はよくできた、努力した』とほざくから、そうなんじゃないのか。まぁ俺も、昔の人間じゃないから実のところはよくわからんが」
「へぇ、お母さん頭よかったんだね。だから論理くんも頭いいのかな」
「俺が頭がいいかどうかはよくわからない。ただ俺は、努力が嫌いだし、たとえ努力したとしても、それを人にひけらかしたくはないだけだ」
論理くんは、また少し怖い顔をしてまっすぐ前を見つめている。石宮(いしみや)の駅が、飛びすさっていった。論理くん、どうしてそんな顔をしてるんだろう。
「努力をひけらかしたくないって、どういうこと?」
論理くんは、まだ前を向いたまま、口を大きく開いて息を吸った。胸がふくらみ、肩が上がる。論理くんの胸式呼吸、久々に見た気がする。深い呼吸感のある「はあああっ」というブレス音も。
「お袋の志望校は、今北女子だったんだが、なかなか簡単には入れなかったらしい。当然、努力がいる。しかしお袋の家は大きな農家で、それなりに忙しい。お袋も手伝いに駆り出される。それで、受験勉強ができるのは、みんなが寝静まったあとの夜中に限られる。お袋が言うには、家族のいびきを聞きながら、何時間も努力なさったということだ」
「お母さんすごいじゃん!私は、夜は寝ないとだめだなぁ」
「まぁお袋がそんなナポレオンみたいなことを本当にしたのかどうかはわからんが、とにもかくにも、あいつは今北女子に受かったからそれなりのことはしたんだろう。だがこの武勇伝を、耳にタコができるくらい聞かされていれば、どんなご立派な話でも嫌になってくる」
「そんなに聞かされてるんだ…。お母さん、自分が努力したってことを自慢したいのかな」
「自慢したいと言うこともあるし、自分が努力した通りに子どもにも努力させようと言うんだろう。あのババアにとって俺は、操り人形のようなものだからな。だけど、操り人形は操り人形なりに考えるところがある」
特急電車は、その今北女子の最寄駅、智保を通過した。まもなく恋野という案内が流れてくる。操り人形か…。でも、今の論理くんはそうじゃなくなってきてるような気がする。論理くんはまた「はあああっ」と深く息を吸い込んで、こう話し続ける。
「少し話が変わるけれど、お袋の主治医は、『太田さんは、リハビリをすれば歩けるようになる。それをしないのは、太田さんが甘えているからだ』と言い切っている。実際俺は、子どもの頃から今までお袋が歩行訓練をしているのをたった一度しか見たことがない。それに、お袋は実は車椅子にも乗れる。しかしこれも、俺の前で車椅子に乗ったのはほんの二、三度だ。どうやら車椅子が怖いらしい。自分の身の安全を車椅子を押す人に委ねるのが嫌なんだろう」
「そうだったんだ…」
どうしてリハビリをしないんだろう。甘えているからか…。でも、何か他の理由がある気がするけど違うのかな…。それにお母さんって、人を信用していないんだなぁ…。
「ここで池田さん。聞くけど、あのババアは今、何にいちばん努力しなきゃいけない?」
「え…性格を直すこと?」
「まぁそれもあるけど…」
論理くんは苦笑いした。停車した特急の扉が開く。恋野だ。
「お袋がああいう性格になったのも、リウマチのせいだ。だからあいつは、リウマチを治すことに必死の努力を払わなければいけない。人に昔の努力を語って悦に入る暇があるのなら、自分の障害を克服しようとすればいい。馬鹿な武勇伝を一万回語られるよりも、懸命な歩行訓練を一回見せられるほうが、遥かに俺は努力をしようと思うだろう。今のように、努力をひけらかすようなやつに俺は決してなりたくないし、努力をしようとも思わない」
論理くんは、したり顔でそう喝破した。恋野でさらにお客さんが乗ってきて、席はほぼ埋まり、立ち席の人も見受けられる。
「論理くん、それをお母さんに言ったの?」
「ああ、言った」
しれっと、自慢げに言う論理くん。え、言ったの…?論理くん、相当勇気がいったんじゃ…。それにお母さんにしてみれば、自分のプライドに関わることだからそれを論理くんに指摘されるのは、とてもつらいはずだけど…。
「そしたらお母さんなんて?」
「あの白豚、生っ白い顔を茹でダコみたいにしやがって、『あんたは、誰に育てられてここまで生きていると思っているの!よくも親の生き様をそこまで馬鹿にできるとは!何様になったつもりなの!』と、吠えてたよ」
「殴られたりはしなかった?」
「あいつに手足がきいたら間違いなく殴り合いになっていただろうな。昔の俺ならこんなこと怖くて言えないだろうけれど、今の俺には、池田さんがいる。もうあいつの飼い犬じゃないんだ」
中学生であるにもかかわらず世界チャンピオンを数回ノックアウトしたような顔付きで、論理くんは晴れ晴れとそう言った。
「論理くん…よく言ったね。でも、なんだか私のせいで、お母さんがどんどんかわいそうになっていくけど大丈夫かな…」
「かわいそうなんじゃない。今の親子関係が普通なんだ。親も子も対等だ。理不尽なことを言われたら反発する。今までその当たり前のことが、できなかった」
「まぁそうだよね…。私も、お母さんに反発することあるし。親に反発ができないのは、ちょっとおかしいよね」
でも、もしこれから論理くんがお母さんに反発するようになったとしても、今さらいい親子関係を築くことができるのだろうか…。と、私は不安になる。
「ただ、さすがに今回の俺の言葉は行き過ぎていたようで、そのあと親父に言われた。『論理、お前の言ったことは正しいが、それはお前が言うことじゃない。罰として、夏休み中の外出禁止には従わなければいけないぞ』と言うことだ。池田さんに会いにくくなるのは悔しいけれど、親父の言うことももっともだと思う」
罰かぁ…やっぱり、力と力の世界なんだなぁ…。
「お母さんは、論理くんに言われて、改心しないのかな」
「太田家はね、『謝ったら負け』で動いている家なんだよ。そういう世界だから、言われて謝るとか改心するとかはあり得ない」
「そっか…。人を変えることはできないよね…。でも、自分を変えることはできるから、そうしたら、お母さんも変わっていくかもね…」
電車は、一面の田んぼの中を疾走していく。夏休みの初めごろは、田んぼもまだ緑が深かった。でも今は、だんだんと稲穂の色に染まっていく。初秋の情景になりつつある。そのときふと、私の頭にある俳句が浮かんだ。
「ねぇ論理くん、『実るほど こうべを垂れる 稲穂かな』っていう俳句知ってる?」
論理くんは、苦笑いした。
「知ってるよ。俺はこうべを垂れてないねぇ。でもねぇ池田さん、その句、クソババアが大好きなんだ。もうどれだけ聞かされたかしれない。もしあいつが、実ってこうべを垂れているやつなら、俺は一生天に向かって突ん立っていたい」
「あ、そうなんだ…」
私は首をすくめた。論理くんに、もっと柔らかな人になってほしいと思って言ったんだけれど、お母さんに先を取られていたか…。論理くんの行く手も厳しいなぁ。私は、黙って車窓を眺めた。
新可南(しんかな)の駅に着いた。わりとたくさんのお客さんが降りて、忙しげに私たちを追い抜いていく。改札の出口を出ると、大きな通りが一本通っているのが見えた。
「池田さん、こっちだよ」
論理くんが、その通りの行く手を指差す。私はそれに付いていった。図書館まではそれほどの距離はなく、五分ちょっとで着いてしまった。
「論理くん、ここが図書館?」
「うん。こぢんまりしてるけどなかなか立派でしょ。鶴賀中央図書館を小さくした感じに見えない?」
「あ、たしかにそうかも」
私たちは図書館に入った。自習室もちゃんと作ってあって、数多くの学生が勉強に励んでいる。私たちもその中に加わった。鞄の中から夏休みの宿題を取り出す。
「論理くん、宿題どれくらいまでやったの?」
「それが…」
バツの悪そうな論理くん。もしかして…。
「どれどれ、見てあげよう」
論理くんの宿題を手に取り、ページを開く。真っ白なページが続いていた。
「論理くん、全然やってないじゃん」
私は苦笑いしながら、論理くんに宿題を返した。
「論理くん、宿題できなかったの?」
「言い訳だけどさ、俺の家、夏休み中立て込み通しだったから…」
「…たしかにあんな状況じゃ、宿題もできないよね」
「ごめん池田さん、写させてくれるかな。今日中に全部完成させたい。池田さんと夏休み中に勉強できるのは、今日で最後だと思うから…」
論理くんは、差し迫った表情を見せた。私は、論理くんが安心するように大きくうなづく。
「うん、いいよ、がんばろう!でも、そっくりそのまま写さないようにね、先生にバレたら怒られそうだから」
「わかった、適当に間違えて写す。池田さん、ありがとう。地獄に仏とはこのことだよ」
「ありがとう。よし、じゃあ始めよう」
論理くんは手元の宿題を手に取り、一生懸命に書き写し始めた。こういう形なので、私はやることがない。真剣な論理くんをじっと眺める。こうやって見てると、論理くん結構かっこいい。論理くんの目鼻立ちを改めて見てみる。論理くんの目は二重で大きい。私は、一重で小さくてかわいくないから論理くんが羨ましいよ。鼻筋は、かなり曲がっている。どうしてこうなったかは以前論理くんから聞いた。お姉さんに殴られたらしい。怖いなぁ…。口は、への字口で、仏頂面をしているように見える。鼻にしても口にしてもこうなんだけれど、私には、それでも愛おしくてならない。やだ、私、論理くんの顔をこんなまじまじと見たことなかったかも。でも、なんだか恥ずかしくなってきた。さすがに見ていられなくなったので、私は人間観察をすることにした。自習室には、小学生ふうの子が十数人いて、中学生ふうの子が半分くらい。高校生ふうの人が残り半分で埋め尽くされている。一人で勉強している人もいれば、友だちどうしや男女で勉強している人もいた。高校生ふうのカップルらしき男女を眺める。あぁ、私も高校生になったら、論理くんとこんなふうになれるのかな…。と、物思いにふける。
「もーっ、みーくんったら何させるの、ここ図書館だよ」
「俺、なっちゃんのうなじ見てたら、興奮してきちまってよぉ」
声が聞こえてきたので、私は視線を送る。斜め右向かいの中学生ふうのカップルらしき人たちが何か揉めていて、机の下で何やらごそごそとやっている。うなじ?興奮?うなじに興奮するといっても、この人、おかっぱじゃなくてポニーテールなのに…。あ、そうか、ポニーテール!ポニテのうなじが好きって人、結構いるよね。それにしてもなにやってるんだろう。
「なっちゃん、ちょっとだけ、ちょっとだけだから」
「えー、じゃあ、ちょっとだけだよ…って、もうそんな大きくなってるの?」
「すまんな、先っぽの方」
私は耳をそばだてる。え…あの机の下で何やってるの?まさか…。私は、全神経を耳に集中させた。
「みーくん、この辺り?」
「あっ、そこそこ、あっ…、根元から、先っぽにかけて、さっさっと、そうそう、あっあぅ」
これは間違いない!あの机の下で、女の子が男の子のを触ってるんだ!こんなところで⁉︎他の人は気付いてないのかな…。私は周りを見渡すけれど、私たちとあのカップルの周りは人がいなくて、誰かが気付いている様子はない。論理くんを見ると、書き写すのに集中していてこれまた気付いていない。
「なっちゃん、はぁはぁ…もっと、もっと早く…ぅあっ」
「これ以上だめだよ、気づかれちゃうよ」
いやもう気づいてるんですけど私が!その瞬間、女の子のなっちゃんと目が合ってしまった。あっ、やばっ!なっちゃんは、怯えた顔をして、手を動かすのをやめた様子だった。
「おい、こんなところでやめるのか、いかせてくれよ」
「いや、もう気づかれてるからさ、だめだって」
「そんなの関係ねぇ‼︎」
男の子のみーくんの痛切な大声が、自習室中に響き渡る。みんなが二人を見た。論理くんも、顔を上げてこのカップルを見ている。みーくんは、なっちゃんの肩をがっしりとつかみ、乱暴に揺すりながら激しい口調で喚き出した。
「俺が、なっちゃんにちんこを触らせるのは、俺がなっちゃんを愛しているからじゃないか!俺のちんこが立つのも、ポニーテールのなっちゃんのうなじがかわいくてしかたがないからじゃないか!なっちゃんは、俺の彼女なんだから、俺の愛情を受け取る義務がある!ここが図書館だろうと、誰に気付かれていようと、俺のちんこをさすっていればいいんだ!俺のちんこが…」
「ちょっと待てぇぇぇぇっっっ‼︎」
論理くんの絶叫。論理くん⁉︎あぁ…この人にはおとなしくしていてほしいのに…。
「さっきから聞いていれば、はしたないことをほざきやがってなんのつもりだ!ここが図書館だとわかっているのか!勉強の邪魔をするのもいい加減にしろ!いやらしいことをするなら外でやれ!」
論理くん、銀水の図書館のこと忘れたの?人のこと言えた義理じゃないのに…。
「それに貴様、そもそも言っていることがおかしいんだ!ポニテのうなじなんか、問題じゃない!うなじは、おかっぱに限るんだぁぁぁぁっっっ‼︎」
論理くんが大見得を切る。あぁ…みんな、口をポカリと開けて、顔を凍らせている。みーくんとなっちゃんも、魂を射抜かれたように言葉がない。異様な沈黙が広がる。論理くんはその中心で、般若のように怒りを放ちながら肩で息をしていた。
数時間後。論理くんは、また宿題に集中していた。みーくんとなっちゃんは、論理くんに気圧されて逃げるようにいなくなった。周りの人も、誰も論理くんに出て行けとは言えない。それまで通りの静寂が図書館に戻って、時間が経った。
「論理くん、どこまで進んだ?」
私は、論理くんの脇に置かれた宿題を手に取って確かめる。全体の八割くらいといったところだ。これなら、閉館時間までには余裕で終わるだろう。それにしても、さっきの騒ぎからいろんな人の視線を感じる。さっき目立っちゃったからなぁ…。でも論理くんは宿題に集中していて、そんなことはお構いなし。いつもそうだよね、人の目を気にするのは私だけ。論理くんは周りの目を全然気にしない。それが羨ましくもあり、もう少し気にしたらどうかなという懸念もあった。
「終わったー!」
論理くんは、気持ちよさそうに大きな伸びをする。閉館時間までまだ余裕があるけれど、どうやら宿題は終わったみたいだ。
「お疲れ論理くん!がんばったね!」
「ありがとう池田さん。こんな量の宿題、今から自力でやることなんて絶対できない。池田さんのおかげだよ」
「ほんとはこんなことしちゃいけないんだぞ」
私は、拳を論理くんの頭に軽く当て、おちゃらけた風に言った。
「ごめん。家が揉めすぎない限り、普通に自力でやるよ」
「また揉めたらいつでも手伝うからね。じゃあ、そろそろ帰ろっか」
私たちは図書館を出て、手を繋いで駅前に続く通りを歩き始めた。
帰り道は、来た道と同じように特急で新尾風まで戻ってきた。カカちゃん人形の下まで来る。あぁ、もう論理くんとお別れか…寂しいな…。もう二学期まで会えないなんて悲しい…。論理くん、今日もうちょっとだけ、私と一緒にいてくれないかな…。私は、勇気を振り絞る。
「ねぇ、論理くん、もう、お別れかな」
「まだ時間はあるよ。宿題も早めに終わったし、どっかに寄ってこうか」
論理くんの嬉しい返事に、私はきっと顔を輝かすのを隠しきれなかっただろう。
「ありがとう!じゃあ、論理くんの家の近くの公園でしゃべらない?」
「あそこか。ああ、いいよ。でも…」
論理くんは、顔を曇らせた。
「でも?」
「あの公園さ、夜に浮浪者がやって来ることが多いんだ。それがあまり気にならないようなら、行ってもいいよ」
「そんなの全然気にしないよ!行こ行こ!」
私は、論理くんの手を引っ張るようにして、バスターミナルに向かって歩き出した。
公園にやってきた。街路灯が一本だけ立っていて、その灯に向けて、蛾が何匹も飛んでいる。私たちはブランコに座る。そういえば、ここで論理くんが泣いたんだっけ…。あの頃の論理くんと比べて、今の論理くんは変わったと思う。今日のような大見得は、あの頃の論理くんには絶対無理だろうな。論理くんが変わったのは、私の影響だよね。それが誇らしくもあり、こんなことしてしまっていいのかなという気もある。
「昔ここでね、隣近所の子どもと一緒に野球をやって遊んだものだよ。この公園、正方形をしてるじゃない。野球をやるのに向いているんだよ。軟式テニスのボールを使って、バットじゃなくて、手で打ってた」
「へぇ、みんな仲良しだったんだね」
「いや、そうでもない。俺はよく、仲間外れにされることがあって、いじめられることもあった」
「えっ、そうだったんだ…。論理くんって昔から嫌われやすいんだ…」
「俺自身、性格が曲がっていたから付き合いやすい子どもではなかったと思う。でもそんな俺でも、いじめられればしょげるし、泣く。そうやって家にとぼとぼ帰ってきたことが何度もあった」
論理くんはそう言って唇を噛んだ。私は、ブランコを少しこぐ。ブランコの金属音が、薄闇の中に溶け込んでいく。
「そういうとき、お母さんはやっぱり優しくはしてくれなかったのかな」
「優しいときもある。そして気分次第で激しく叱りつけるときもある。俺はいじめられることもつらかったが、そのあと、今日はお母さんに優しくしてもらえるのか叱りつけられるのかが、いつも不安なのが何よりもつらかった」
「そんなにつらいなら、遊びに行かなければよかったじゃん」
「確かにそうかもしれないけど、あれでも寂しかったんだろうな。家に引きこもることより、外に行くことを選びがちだった」
「そうなんだ…」
論理くんは、家でも外でも傷つけられやすい。どうしてここまで人間関係に恵まれないんだろう。私は、少し悲しくなった。
「俺は傷ついたときも、こうして不安の中にいるしかなかった。だけど今、池田さんと出会って、いつも優しく受け入れられる安心感の中にいる。これはかつて、子どもの自分が欲しくてたまらない安心感そのものだ」
長い台詞を言うときの、素早い論理くんの息継ぎ。「はあっ」というブレス音と上がる肩が愛しい。論理くんが私の両手をぎゅっと握りしめる。
「その安心感をくれる池田さんが、俺は本当に愛おしい。ありがとう、池田さん!」
静まりかえった夜の公園に響く論理くんの愛情深い声。その手の温もりが、脈打つように私に伝わる。
「私は論理くんのことが好きなだけだよ。…でも、もし私たちが、もっと昔に出会っていたら、論理くんの人生は変わっていたかな。私のおかげで!なんてね」
「感謝しております、お嬢様」
論理くんは、おどけてそう言ったあと、再び真剣な顔をした。
「昔出会えていればそれだけ変わっていただろうけど、でも俺は、今池田さんに出会えたことが、本当に嬉しくてならない」
論理くんの言葉は燃え立ってきていた。ブランコから立ち上がった論理くんは、背後から私をきつく抱きしめてくれた。私は、それに応えるように論理くんの腕に手を添えた。しばらくそうしていたけど、視界の片隅に何かが動いた。えっ、なに⁉︎見ると、薄暗い街路灯の光の下のベンチに、浮浪者が一人いる。
「論理くん!出た!浮浪者!」
「やっぱり。ここにはよくいるんだよ。でも、こちらに危害を与えてくる人は少ない」
「どうする論理くん、帰る?」
「まさか。せっかくここまで来たのに」
論理くんにそう言われて、改めて自分の背中に固い感触を感じた。論理くんのあの二十センチ。
「え、論理くん、まさかここで⁉︎」
「当たり前じゃない」
「えっ、ちょっと待ってよ、ここ公園だよ⁉︎それに浮浪者もいるし、他にも人は通るかもしれないし!」
「人の目なんてものは気にしていてもしかたがない。それより自分のやりたいことをやるべきだ」
論理くんは力強くそう言うと、自ら地面に仰向けに寝転がる。
「さぁ池田さん、俺の顔の上で大きく股を広げて」
「えーっ、そんなことできないよぉ、浮浪者が見てるし!」
「入試会場に行ったとき、よく『他の受験者はカボチャだと思え』って言うじゃない。それと同じだよ。浮浪者も通行人もみんなカボチャだよ、カボチャ」
「そんなの暴論だよ!無理無理、できない!」
「池田さん。さぁ、みんなカボチャなの。大丈夫なの」
論理くんはそう言って、体を少し起こし、私の足をつかんで引っ張る。
「あっ、やめてよ論理くん〜!」
と言いながら引っ張られる私であった。論理くんの強引さに負け、渋々私は論理くんの顔の上に立ち、股を広げた。
「まだまだ池田さん、もっと大きく広げて」
「えええっ」
私は、できる限り大きく股を広げた。何する気なの論理くん。それに今日一日汗かいたし、汚いのにぃ…。
「はい、ありがとう池田さん。池田さんのパンツがすぐ目の前にあるよ」
論理くんの指が、私のショーツの上を這っていく。
「あっ!だめだめ!汚い!」
「それがいいんじゃない」
論理くんの指が、二回、三回、四回と、私のショーツの上を撫でていく。私のおまんこの溝に指が添えられる。
「あぅ…論理くん…ダメだよぉ、私その気になっちゃう…」
「なれよ。そのためにやってるんだから。さぁ、脇へずらすぞ」
論理くんの指が私のショーツに引っかかり、そっとショーツをずらしていく。
「だめ!汚いから!触らないで!お願い!」
「池田さんの汚さがいいんだ」
論理くんはそう言って、二本の指で私の溝を嬲る。
「あっ…あぁっ…あっ!」
声が出てきてしまう。浮浪者は、依然としてそこにいて、こっちを見てさえいる。あぁ、喘ぎ声聞かれちゃうよ。でも、まぁいいか!あとは、他に人が通らないことを願う!周りを見ると、明かりを消したタクシーが公園を取り囲むように止まっている。なにこのタクシー…。とりあえず、中に誰もいませんように。
「一体どれくらいにおっているの池田さん。ちょっと嗅いでやろう」
論理くんの指が、一瞬、私から離れる。
「あっ!やめて論理くん!恥ずかしいぃ…」
私がそう言う間も無く、論理くんはにおいを嗅いでしまった。
「おお、香ばしい。この鼻にツンとくる匂いが、池田さんの匂いだよ」
「やめてぇぇ…」
一体どんなにおいなの…。私は、顔を両手で覆う。
「さぁ、ちょっと責めるぞ」
論理くんは、ずらしたショーツの脇からのぞいたおまんこに、指を二本突っ込んだ。久しぶりの快楽が湧き上がる。
「んんぁあっ!」
論理くんは、膣の中を抉って掻き出すように指を動かす。一度そうされるごとに、地面の底から頭のてっぺんにかけて電撃のような快楽が突き上がってくる。
「あふっ!あぅっ!ぁあっ!あんんっ!」
二本の指が、膣のあちこちを掻き出しながら激しく動く。私は、立っていられなくなってきたので、足に力を入れて踏ん張った。
「池田さん!池田さん!」
「ろぉんりくぅぅんっ!あっ!んぁっ!あぁっ!」
論理くんはさらに指を激しく動かす。私の足の力が抜けて、とうとう私は崩れ落ちてしまった。イってはいないけれど、激しく息を弾ませながらしばし座り込んでいた。すると、私の真下から、「池田さん」と、くぐもった声が聞こえる。ハッとして、立ち上がる。するとそこには、論理くんの嬉しそうな顔。
「あぁ池田さんのおまんこと匂い、ぶちゅっと顔を付けて楽しませてもらったよ」
あぁ…論理くんの顔の上に座り込むなんて、私ったらなにやってるの〜!恥ずかしさから、一気に体が熱くなった。
「さぁ、次は、池田さんパンツを脱いで。俺も…」
論理くんはそう言って、ファスナーを下ろした。中から、論理くんのそそり立った巨大なものが現れる。私は、よろよろとしながらショーツを脱いだ。
「論理くん、これからどうするの?」
「人から聞いた遊び方なんだけど、まず俺が仰向けに寝るんだ」
その言葉通り論理くんは、公園の地面にもう一度仰向けになった。そのとき、論理くんはポケットからコンドームを取り出し、素早く装着した。
「池田さんは、俺のちんこの上に股を広げてしゃがんでくれ。すると、俺のちんこと池田さんのおまんこがぶつかる。もっとしゃがんで、池田さんは俺のちんこを中に入れてくれ。そうしたら、池田さんは腰を浮かしたり沈めたりして上下に動いてくれ。俺も、腰を上下に振る。こうすると気持ちいいだろう」
私は、その論理くんの説明を聞いて、よくわからなかったけれどとりあえずやってみることにした。
「わかった。やってみるね」
私は、論理くんの上で股を開いてしゃがんでいった。程なく、論理くんの熱いものが私のおまんこに当たる。
「そうそう池田さん。そのままもっとしゃがんで。俺のものを持って、おまんこに押し当てて、中に入れて」
私は、言われた通りにしゃがんでいく。結構つらい体勢で、太ももが痛い。それに、股を広げているわけだから論理くんにおまんこが丸見えだ。恥ずかしい…。でも、論理くんの頼みだからがんばらなくちゃ。論理くんのちんこを握り、私の中へ入れようとする。でも、なかなか入口が見当たらない。少し探っていると、なんとか見つかったので入れてみる。久しぶりだから少し痛い。でも、私は腰を落としていった。
「うぅぅっ…」
「よしよし、いいよ池田さん。そのままそのまま。俺も、腰動かすからね」
論理くんはそう言って、腰を上下に動かし始めた。
「あうっ!」
鋭い電撃が、論理くんのちんこから私の脳天に向けて走る。そのまま論理くんは腰を振り続けた。私も負けじと腰を動かす。これ、結構きつい。でも、論理くんのちんこが奥まで当たって、気持ちいい…!
「あぅっ!ううっ!あんっ!うあっ!あぁんんっ!」
「おうっ!ぉううっ!おふっ!おふぅっ!おぶっ!」
喘ぎ声が響いて、薄っすらと目を開けると、例の浮浪者は案の定こちらを見ている。しかもこの公園は論理くんの家から百メートルと離れていない。バレたらどうなっちゃうんだろう。あまり声を出したらダメなのに、声が出ちゃうよぉ。
「あんぁあっ!論理くん、も、もっとぉぉっ…!」
「おぅおっ!池田さん、お、俺のちんこをぉぉっ…!」
私は、無我夢中で腰を振る。論理くんも必死になって振ってくれる。体はきついけれど、二人で力を合わせて気持ちよくなれるのが私にはとても嬉しかった。
「あぁうぅうっ!ろんりくぅんの、ちんこ、奥まできてるぅっ!あうっ!いっちゃう、いっちゃうっっ!うううぅぅっ!」
「おぉぉっ!いけださんの、おまんこ!おまんこ!おまんこぉぉおっ!俺もいきそうだぁぁあああっ!」
快楽の海が私を包んだ。あぁ、また論理くんとこの海を泳げるなんて。論理くんもまた、私の下でその海の中にいるようだった。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん」
頭上から声がして、私はハッと我に返った。論理くんも、私の下で体を起こしかけている。声の主は、あの浮浪者だった。年恰好は六十歳くらいの白髪の男だった。
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも、中学生くらいかい?その年で騎乗位とは見上げたものだ」
見られていたのはわかっていたけれど、改めて声をかけられると体中が恥ずかしさでいっぱいになった。
「じじい!俺たちが何をしようが知ったことじゃねーだろう!」
論理くんが浮浪者に食いついた。
「まぁそう突っ張るな。ただな、この公園にはいろんなやつがいる。ここを取り囲んでいるタクシーの連中も、一癖も二癖もある。あまり目立ちすぎることはしないのがいいぞ。それじゃあな」
浮浪者はそう言って、どこかへ行ってしまった。
「ふん、わかったような口を聞きやがる」
「大人の人の言うことは聞いたほうがいいんじゃない?もう、外でやるのはやめようね」
「嫌だ。俺は、池田さんとの思い出の詰まったこの公園を、俺たちの愛の巣にするんだ」
もう、論理くんったら。でも、それもいいかもしれない。私たちは服を整えて、またブランコへと戻った。
「ねえ論理くん、提案があるんだけど」
「なぁに、池田さん」
「二学期からさ、一緒に登下校しない?朝は、私がここの公園まで迎えにくるから一緒に学校に行こう。帰りは、ちょっと遠いけど私の家まで送ってほしい」
「わぁ、いいね!それじゃあ毎日池田さんと一緒に学校に行けるんだね!」
論理くんは、喜んでくれたみたいだったのでよかった。
「うん!よろしくね、論理くん!」
「こちらこそ!」
私たちはブランコから立ち上がった。公園の時計は八時半を指していた。少し遅くなっちゃったかな。
「論理くん、時間大丈夫?」
「今日は親父公認だから大丈夫だよ。ただ明日からは、外には出られない…」
「じゃあ、九月一日を心待ちにしてるよ!論理くん、夏休みの間は本当にありがとう。すごく楽しい夏休みだった。こんなに楽しい夏休みは過ごしたことが無いと思う」
「いろんなことがあったよね。こんな夏休みもう二度と無いよ。本当にありがとう池田さん」
私たちは抱き合ってキスをした。公園の茂みからコオロギたちの合唱が響いて、私たちを包んでくれた。
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