二十二、論理くん、私の家に前泊する

その日の夕食後、テーブルに、私たち一家がいた。

「じゃあ、そういうことで、十三日の午後六時から、『青柳亭(あおやぎてい)』で焼肉ってことでいい?」

お母さんが、みんなに確認する。テーブルの上には、もう電話機が置かれている。

「いいよ。そうすると、メンバーは、論理くんと、ここの四人と、鶴賀のおじいちゃんおばあちゃんと、興良(こうりょう)のおじいちゃんおばあちゃんの、都合九人か。やぁ、久々に賑やかになるな」

お父さんが、楽しそうに言った。母方の、つまり興良のおじいちゃんたちは、まだ少し若くて元気なんだけど、鶴賀のおじいちゃんたちは、もう八十歳近くて、こんな行事でもないとなかなか家には来られない。実のお父さんお母さんに久しぶりに会えて、お父さんも嬉しいんだろう。こういう楽しそうな表情を、あの雑誌を読んでいたときも一人で浮かべていたのかと思うと、心底気持ち悪くなる。

「おじいちゃんおばあちゃん、みんな来るの?」

正志の口調も明るい。

「一応みんなに電話してからね。えーっと、鶴賀と、興良と、論理くんとこ」

論理くんとこかぁ…。さっきは論理くんをなだめたけど、お母さんが本当に、論理くんのお母さんの相手をしてくれるのか心配だったりする。お母さんは、何も思っていない素振りで淡々と鶴賀のおじいちゃんと興良のおばあちゃんに電話して、すぐに約束を取り付けた。

「さて、最後に論理くんのところね。えーっと…」

「お母さん…大丈夫…?」

私は、本当はお母さんも、論理くんのお母さんに電話するのは嫌なんじゃないかと心配で、聞いた。

「うん、大丈夫よ」

お母さんは、何気なくそう言う。

「お姉ちゃんがここまで入れ込んだ男の子と、是非ともゆっくりと食事ができたらって思うわ。それは、娘を持つ親として当たり前のことよ。それは、太田さんにもわかってもらわないとね」

お母さんはそう言うと、プッシュボタンを七回押し、論理くんの家に電話をかけた。私の手のひらに、愛の結晶とはまるで別物の液体が、ぐっしょりと宿る。どうか、無事に済んでほしい…。

「あ、もしもし?私、そちらの論理くんの、同級生の、池田文香の母でございます。……はい、いつも娘が大変お世話になっております。……と、言われますと?……」

お母さんの顔に、早くも少し穏やかじゃない色が浮かぶ。はぁ、これは、やっぱりダメかも。

「いえ、実際、太田さんには、いろいろご理解を……はぁ、いえ、そう仰られますと、なんですが……はい。少しでも、文香が、お役に立てれば、嬉しゅうございます。……は?太田さん、先ほど、うちの文香が役に……は?」

短い時間の間に、お母さんの顔がどんどん険しくなっていく。はぁ、論理くんの前では、お母さん慣れてるとか言ったけど、どれだけ変な親だって、論理くんのお母さんの右に出る人はいないよね…。

「すみませんが、」

ああ、完全に怒った声だ。お母さん、やっぱりダメだよね。

「私たちは、文香が、これほど好きになった男の子がどんな子なのか、お食事をして知りたいと思っているだけです。子どもの親として、その気持ちは太田さんにもご理解いただけると思いますが……はぁ⁉︎あなたなに言ってらっしゃるんです?それじゃあなんですか?子どもは、親の人形かなんかですか?……はぁ、人の親は、地球上に何十億人いるか知りませんけど、あなたのような親はいないでしょうね。よくそれで、二人の子の親が務まりますね。あなたとの会話は、成り立たない気がします。失礼します」

お母さんは、まだ何か怒鳴り声が聞こえている受話器を、電話機に叩きつけた。お母さんの本気で怒った顔、久しぶりに見た。あぁ…やっぱりダメだった…。ことのあまりの展開に、お父さんも、正志も、呆気に取られて言葉もない。

「お母さん…。論理くんのお母さん、なんて言ってた?」

「文香、」

お母さんは、怖い顔をして、『お姉ちゃん』と呼ばず、文香と呼んだ。

「十三日はね、首に縄を付けてでも、論理くんを青柳亭に引っ張ってきなさい。文香は論理くんのことが大事で、いつもそばにいたいんでしょ?」

「うん」

「だったら、訳の分からない邪魔に負けちゃダメ。いい?絶対引っ張ってきなさい。私たちは、温かく論理くんを迎えます。あんな人に、とてもできないくらい。…あんな人、子どもの親じゃない!論理くん、かわいそうに!」

お母さんは、怒りながら泣いていた。お母さんを泣かせるなんて、あのババア、何言ったのかめちゃくちゃ気になるけど、それよりも前に、お母さんを泣かせたことが、とても腹立たしかったし、悔しかった。


「やっぱり、それだけのことを言ったんだな」

十二日。私は合唱の練習を終えて、下校途中だった。論理くんは、今日も歌声のシャワーを浴びてくれて、私たちは、また日差しを浴びながら手を繋いで帰っていた。私が論理くんに、昨日の夜のお母さんの様子を話して聞かせると、論理くんは不快げに舌打ちをして、虚空を睨んだ。

「あの電話のあと、あいつ、鬼の首を取ったように『それご覧、いろいろ御託を並べていたけれど、正しいものは勝つんだからね』とかほざいていたよ」

「自分のことを正しいと思っているんだね…」

「いつもそうだ。あいつも、あの養女も、自分だけが正しいと思い込んで、謝ったら負けだと考えてやまない。あの二人血の繋がりはないが、あんな似た者親子も珍しい」

そんな考え方で、よく今まで世の中生きて来られたな…。

「論理くん、明日来れそう?」

「俺は、この前のお泊まりのことで、行き先を親父に告げれば外に出られるようになっている。明日六時に青柳亭だと言えば、あのババアがどうがんばろうと、俺を邪魔できるものは何もない」

「じゃあ、行き先を告げれば、論理くんは自由なんだね?」

「うん。親父が味方してくれているから、ある程度の融通はきくと思う」

私は閃いた。論理くんの袖をつかみ、引っ張った。

「論理くぅん…」

「どうしたの急に?」

「あのね…。じゃあさ…今夜から私の家にお泊まりして、明日のお食事会までいるのはどう?」

私は、論理くんを子犬のような目で見つめて言った。論理くんは、うなづいた。

「もちろんいいよ。でもそれなら、これから俺は、家に戻って親父に池田さんのところに泊まると言って、荷造りをする。池田さん、先に帰って待ってて」

「えぇ…私、このまま一人で帰るの…?」

私は、論理くんを子猫のような目で見つめて言った。

「え?じゃあ、俺ん家まで一緒に来る?でも、この前池田さん、俺ん家の前で養女に泣かされたじゃない」

「大丈夫だよ!今度は見つからないようにしてる!」

「池田さん…楽天家だなぁ」

それから二十分くらい歩いて、私たちは論理くんの家の近くに来た。この前私は、電柱に隠れてお姉さんに見つかった。なので今度は、論理くんの家の近くの交差点の物陰に隠れている。振り向くと、かつて論理くんが泣いた公園が、目に入ってくる。

「じゃあ、ちょっと行ってくる」

論理くんはそう言うと、アコーディオン開きの扉を開けて、玄関の中に入っていった。すぐに、お母さんの鋭い声が聞こえてくる。大丈夫かな…。よく耳をすませると、間隔を空けながら、「ただいまじゃないでしょ!」とか、「だからなっていないんだわ!」というような、お母さんの怒鳴り声がする。論理くんがどう答えているかは聞こえてこない。そのうちしばらく間隔があって、一際高い声で、「じゃあお母さんのことなんて、論理は、どうなってもいいのね!いいわよ、お母さんもう死ぬから!いいわね、死んじゃうわよ!」という、お母さんの叫び。道を行く人が、論理くんの家をのぞき込んでいった。

「論理くんのお母さん…派手に叫んでるな…。死ぬとかなんとか聞こえたけど…論理くん…大丈夫かな…」

私の意識は、完全に前のほうの論理くんの家に集中していた。そのとき──。

「今日も会ったわね、文香ちゃん。何をしているの?」

後ろを振り返る。私は子羊。今、狼の群れの中に放り込まれた。お姉さんは一人なのに、今ここに、狼が十匹いるよりも恐ろしい存在だ。

「文香ちゃん。そのおかっぱ、かわいいわね。百メートル後ろにいても文香ちゃんだってすぐわかったわ」

近所の家の前に、規則違反で出されたゴミ袋から、さっきまで食べ物を漁っていた大きなカラスが、バサバサと飛び立つ。

「お、お姉さん…。そ、そうですか…このおかっぱ、論理くん、褒めてくれるんです…」

私は、声を振り絞ってなんとか話す。

「そう。じゃああなた、わざわざ、髪型を弟の好みに合わせてあげてるわけ?かわいいわ。尽くして尽くして、酔っていればいいわ」

「お姉さんの、その髪型は、彼氏さん、なんて言ってくれますか?」

お姉さんが怖すぎて、よくわからない質問をしてしまう。失礼じゃないよね?でもお姉さんは、怖い顔をした。

「子どもごときに、立ち入られたくない話ね」

あぁぁぁ…やばいぃぃ…怒らせてしまったぁぁ…。そのときお姉さんは、怒った顔を見せながらも、何か悪いことを考えついたように目を光らせた。

「彼氏さん、ね…。いいことを思いついた。あなた、こんなところで人の家をのぞき込んで、どういうつもりか知らないけれど、論理、いるんでしょ?」

「はい…」

「ちょっと呼んで来なさい」

えっ!そんなの、油の中へ火を投げ込むようなものだ…!

「む、無理です…」

「あなた、時折大きな口を聞くけど、その実臆病よね。弟もだけれど。その臆病なあなたたちに、ピッタリのことをしてもらうわ」

お姉さんはそう言って、ふっふっふ…と、ゾッとするような笑いを漏らした。え…?一体何を?まさか、お母さんを殺せとか?いや、あり得ないか…。

「実はね、私、十四日と十五日、外泊するの。そのときには、父親も、出仕事で家にはいない。つまり私が外泊すると、赤ちゃん大魔王が弟と二人きりになるわけ」

「はぁ…」

「それでね、あいつの世話は、弟一人では到底できないから、あなたにもここで一泊して、大魔王のお世話を二人でしてほしいの」

えっ!心臓が警鐘を鳴らす。剣の刃の上を歩けと言われても、ここまで足は竦まないだろう。ということは…?その日、私たちは、論理くんのお母さんと、三人で過ごすの?

「そ、そんなの、できません!」

「ふぅ〜ん」

お姉さんの目が、この上もないくらい意地悪く細められる。

「あなたたち、誰のおかげで、この前の三日間、熱々でいられたと思うの?靴をしまい忘れた大間抜けさんたち」

お姉さんの、あのときの言葉が蘇る。

「……これが、借りですか」

「お馬鹿さんね。こんなの一部にすぎないじゃないの。知らないの?人から物を借りたら、利子っていうものがあるのよ」

この女…!あのババアも頭が切れるけど、この女も、減らず口を叩いている…!論理くんも言ってたけど、さすがは似た者どうし…!

「…似た者どうしですね」

「誰と誰が、かしら?」

「血の繋がりはないみたいですけど」

「図に乗らないで!」

お姉さんは、ピシャリと言った。平手があと少しで飛んで来そうだった。

「あなたの、その、中途半端に気の強いところ、見ていてこれほど腹の立つものはないわ。あなたたち二人は、減らず口を叩く前に黙って私の言いなりになることね」

お姉さんが、怖い口調でそう言ったとき、中からお泊り支度をした論理くんが飛び出して来た。

「なにやってんだ!」

と、論理くんは、お姉さんに向かって言う。

「まぁ、世間話だね。ふっふっふ」

お姉さんが、悪意をこぼれさせてそう答える。

「詳しいことは、このおかっぱ文香ちゃんから聞きなさい。あなた、どうやらまたその様子じゃ、文香ちゃんのところに行くみたいね。あなたもよく知っている通り、あの父親は口ほどでもない。頼りにしていると、文香ちゃんとの間なんて吹き飛ばされるわよ。せいぜい、私が靴のことを黙っていて、赤ちゃん大魔王を刺激しないことを感謝するのがいいわ」

お姉さんはしゃべりたいことをしゃべって、挨拶もなく家の中に入ってしまった。

「池田さん!何があったの?」

私は、綿あめが口の中ですっと溶けるように、緊張の糸が切れていった。

「論理くぅぅぅん…。私たち、大変なことをしないといけないみたい…」

「何があったか知らないけれど、とにかく、この嫌な場所から離れよう。お泊まりには行けることになったから、これから池田さんの家に向かう。あいつが何を言ったかは、道々聞いていくよ」

私は歩きながら、お姉さんから言われたことを、論理くんに話していった。論理くんは、私の話を聞き終えると、怖い顔でしばらく黙っていたけど、やがて口を開いた。

「あいつの外泊というのは、多分男だ。ババアが愚痴っていたことだが、あいつには、今、長老町(ちょうろうまち)に勤めている男がいるらしい。給料が安い上に、出身大学が真正(しんせい)だというので、酷く馬鹿にして交際に反対をしている」

「そうなんだ…。なんでも、学歴と世間体を気にするんだね。バカみたい」

「ババアの判断基準はそれしかないからな。あいつはそれを恨んで、俺みたいに外泊しようって言うんだろう。十四日十五日というのは、たぶん男の会社がお盆休みになるので、そこしか外泊できないんだ」

「でもどうする?私、論理くんのお母さんと二日間過ごすなんて、そんなの耐えきれない!鬱になっちゃうよ!」

「そうだな…。俺も、やつの世話は、養女か、親父にさせてきたから、正直どうすればいいか戸惑っている」

「でも、借りを返さなくちゃいけないから、やらなくちゃいけないよね…」

お母さん。もしお母さんの娘が大魔王にやられたら、仇を取ってね…!

「くそっ!」

と、論理くんは吐き捨てる。

「借りを作ってはいちばんいけない相手に、でかい借りを作った。俺、どうしてあそこで靴をしまわなかったんだろう。馬鹿すぎる」

「まぁ、それはいいよ。がんばって二日間過ごそう!論理くんのお母さんもいるけど、論理くんと過ごせるから楽しみだよ!」

私がそう言ったとき、論理くんは、手にした鞄をドサリと落とした。ちょうど、片持(かたもち)の交差点の横断歩道を渡って、打掛町通り(うちかけまち)の中央分離帯に差し掛かったところだった。急に立ち止まった私たちを、通行人が怪訝そうに見ていく。

「池田さん。こんな厄介なことになって、普通の女の子なら、とっくの昔に嫌になって俺から離れていくと思う」

歩行者信号が赤になってしまった。私たちは、打掛町通りの真ん中に取り残される。それなのに論理くんは、両腕を伸ばし、私を強く抱きしめた。

「池田さんは、事ここに及んでも、なお俺のそばにいてくれて、一緒に前を向こうとしてくれる。心底俺には過ぎた女の子だと思う」

自動車信号が青になって、私たちは、車の波の中に飲み込まれた。論理くんは、私の両頬に手を伸ばす。

「池田さん。…好きだ!」

車の中からの多くの視線を感じる。私は、唾を飲み込み、息を軽く吸った。

「論理くん、私も好き。どういう状況になっても、論理くんのそばにいたい。それくらい好き。あとね、論理くん。私、いつか論理くんのお母さんに認めてもらえる女の子になりたいの。それは、無理なことかもしれないけど、一生懸命やっていれば、心の隅の隅にでも、あ、この子になら、論理を任せてもいいなって、ちょっとでも思ってもらえる日が、来るかもしれないから。私、がんばるよ」

何度も「すはああっ」と腹式呼吸しながら、私は論理くんに、懸命に語る。論理くんは、優しく、そんな私の頬を撫でてくれた。

「ありがとう、池田さん。その言葉、あのババアにわからせてやりたい。無理だろうけどね。池田さん、俺、そんな優しい池田さんを、愛してる!」

「論理くん、愛してるよ…!」

私たちの唇が重なる。論理くんの舌が入ってきた。冷やかすようなクラクションを聞きながら、打掛町通りの分離帯で、私たちはディープキスをし続けた。


私の家に着いた。家には全員いた。お母さんは、論理くんを見ると、目を潤ませていきなり論理くんを抱きしめた。

「よく来たね、論理くん。いろいろ話は聞いてます。この家を、論理くんの家だと思って、いつでも来ていいからね。何かつらいことがあったら、いつでも逃げて来てね」

論理くんは、何故お母さんがそういうことを言うのかよくわからないので、ドギマギしていたけど、ありがとうございます。と、お礼を言った。

「論理くん。今日は、どうしてここへ?」

お父さんが、論理くんに聞いた。

「明日、お食事会があるということを伺いましたが、いろいろありまして、明日の六時に行けるかどうかおぼつかないので、申し訳ございませんが、一日早くここに参りました。ご迷惑をおかけします」

論理くんはそう言って、みんなに頭を下げた。

「そうだよね、そうだよね。あの状況じゃ、来られるうちに来ないと駄目だよね」

お母さんが、そう言って何度もうなづく。

「じゃあ、今日はここでゆっくりしていきなさい。お母さん、今日の晩御飯はなんだい?」

「論理くん、何食べたい?」

お母さんは、論理くんににこやかに問いかけた。

「ありがとうございます」

論理くんは、本当に嬉しそうだった。多分論理くんの家では、「論理、何食べたい?」と、聞かれることもないのかもしれない。

「カレーを頂けましたら、お願いできますでしょうか」

「カレーね。ちょうど材料もあるわ。じゃあ、作るから待っていてね」

お母さんは、台所へと向かう。

「カレー!やったー!」

正志が、部屋を飛び回る。もう、正志め。人の気も知らないで。

「じゃあ論理くん、私の部屋に来ない?」

私は論理くんを連れて、階段を昇ろうとした。その背後からお父さんの声。

「文香。俺は、その、エッチなことは中学生ではまだ早いと思うぞ」

お父さん…またそんなこと考えて…!

「お父さんは、いつもそんなこと考えてんの⁉︎だから部屋にあんな本が置いてあったの⁉︎」

私は、空から鳥の糞が落ちて来たときのような目で、お父さんを見た。

「あ、あ、あ、あれは…やっぱり、見られてたのか…」

お父さんは狼狽して、後ずさる。

「気持ち悪っ!死んじゃえ!」

ゴキブリを殺すとき以上の気持ち悪さを込めて、私はお父さんに怒鳴った。

「行こ!論理くん!」

おろおろとする論理くんを連れて、私は階段を昇っていった。


私たちは、私の部屋に入った。

「もう、本当にお父さん、気持ち悪いんだから!」

私は、クーラーを付けながら、そう吐き捨てた。

「エロ本一冊でそこまで嫌われるのも、ちょっとかわいそうな気もするけど」

論理くんは、苦笑いしながらそう言う。

「論理くんは持ってても別にいいけど、お父さんは許せない!」

「どうなんだか」

ふふふ。と、笑いながら、論理くんは、背後から私のお腹に手を回した。その腕に、私は手を添える。

「えっちなことなんて、まぁ、この前はしたけど…みんながいる前ではしないよね!」

「…池田さん」

「なぁに?」

「俺が池田さんを、後ろから抱っこっこすると、そうして手を添えてくれるでしょ?その手の優しさが、好きだ」

会話になっていないのが気になるけど、私は嬉しかった。

「論理くんを感じたいから、手を添えてるんだよ」

「ありがとう。俺も池田さんを感じたい」

論理くんが、そう言い終えると、私のうなじの剃り跡に、柔らかくて生温かい感触が走った。論理くんの舌が、チロチロと、私の剃り跡を舐める。

「あっ…論理くん…あぁぅ…」

論理くんは、お腹を抱く腕に力を込めながら、なおも私のうなじに舌を這わせる。私は、だんだん感じてきた。

「池田さん…愛してるよ」

「論理くん…愛してるよ」

「大好きだよ」

「大好きだよ」

「ずっと一緒だよ」

「ずっと一緒だよ」

論理くんは、一旦お腹から手を離す。そして制服のスカートをゆっくりと捲り上げていった。

「ちょっと、論理くん…それは、ダメだよ…家に、みんないるし…」

「お父さんと一緒で、俺も、エッチなのは、気持ち悪いか?」

スカートを捲り上げた論理くんの手が、私のショーツを撫で回す。

「そんなことないよ…」

「じゃあ、池田さん。俺はこれから、どうすればいい?」

論理くんはそう私に囁いた。ショーツの縁を、指で押し広げ、また私の汚い場所に入れてくる。論理くんは自信満々だ。私がどう答えるか、完全に見透かされている。

「やっ…論理くん…えぇ…そんな…わからないよ…」

「いや、池田さんは、わかっている。その、わかっていることは、なんだ?言いなさい」

論理くんの指が、私のお尻を弄んだ。論理くんの言葉に反応して、私の心臓は、太鼓が叩かれるように、ドクンドクンと鳴り始めた。クーラーの風が直に当たっているのに、やけに暑い。

「うぅぅ……えっちしたぃ…」

「よし、よく言った!」

論理くんは、大きくうなづいてそう言うと、私を制服姿のまま、ベッドに四つん這いにさせた。そして、スカートを捲り上げて、ショーツを丸出しにする。

「うん、かわいいよ、池田さん」

満足げな論理くんの声。

「私をどうするの…?」

「まずはこうする」

論理くんはそう言って、私のショーツに鼻を近づけると、股間の後ろや前を、とても気持ちよさそうに嗅いでいく。

「えええん、汚いよぉ…臭いよぉ…」

「池田さん。今日は、いつにも増していい匂いだよ」

塩を撒かれたナメクジのように、私は萎縮した。

「今日は、合唱の練習一生懸命したし、さっきまで歩いて来たから…あぅ…」

「だから一層、分泌物が多いよな。うーん、このおまんこの方は、梅の匂い。後ろは、鰹節だな」

「ぎゃあああああっ‼︎そんなに嗅がないで!」

でも論理くんは、もうショーツに直接鼻を当てがっている。荒い呼吸で、私の臭いを残らず体内に入れようとするかのようだ。論理くんは、鼻ですぅーっと、大きく息を吸い切ると、

「池田さぁぁぁん!」

と、叫ぶ。もう、そんなことまでしないでよぉ…。でも、そんなことまでしてくれて、嬉しい…。私もお腹でフルに息を吸い込む。

「すはあああっ!論理くぅぅぅん!」

論理くんは、また鼻で息を吸い切り、

「愛してるよぉぉぉ!」

私もお腹で息。

「すはあああっ!愛してるよぉぉぉ!」

また吸い切る。

「大好きだよぉぉぉ!」

私も。

「すはあああっ!大好きだよぉぉぉ!」

そして、論理くんは、私のお尻の真上にピッタリと鼻を押し付け、今一度、息を吸い尽くす。私の臭いを全部吸い取ってくれるかのように。

「ずっと一緒だよぉぉぉっ!」

そんな論理くんに応えて、私は三たび口を開いて、お腹に深く息を吸い込んだ。

「すはあああああっ!ずっと一緒だよぉぉぉっ!」

論理くんは、顔を上げ、実に満足そうに笑った。

「いやぁ、池田さんを満喫したよ。それじゃあ次は」

論理くんの両手がショーツにかかり、無慈悲にそれを下ろそうとする。

「ダメっ!汚いから!」

「それがいいんじゃん」

勝ち誇ったような論理くんの声と共にショーツが下ろされ、私の下半身が露わになってしまった。

「今度は直に」

子どものように無邪気に論理くんはそう言うと、私のお尻を広げ、直にその臭いを嗅ごうとする。

「またやるの…?あぁぁぁ…」

私は、もうどうにでもなれと思った。論理くんの鼻が、押し広げられた私のお尻を嗅ぎ回る。小声で、「やっぱ鰹節だな」と言っている。なんだよ鰹節って…。論理くんは、長い間お尻を嗅ぎまわり、そのあとは、私のおまんこを押し広げ、「こっちは梅だ」と囁きながら、私の前も後ろも嗅ぎ尽くした。

「池田さん、やっぱり、苦いと思う?」

「何が?」

「こうするとさ」

突然、私のお尻の穴に、論理くんの舌の感覚。私は、飛び上がった。

「ぎゃあっ‼︎なにするのぉ‼︎」

「ここまで香ばしいなら、ぜひ味合わないと。はい、池田さん、もとの位置に戻りなさい」

「もぅダメだよぉ…えええん」

泣き声を上げながら、それでも私はもとに戻って、四つん這いになる。命令形で言われると、私は逆らえない。論理くんは、私のお尻の穴に指をかけると、左右に大きく開いた。

「あ、池田さんの中が見える…!中、中ぁぁ!池田さんが、息継ぎをしていると、大きく開いた口の中が真っ黒に見えて、気持ちが萌え立ったけれど、下の口も萌え立つものだぞ!」

論理くんは興奮してそう言うけれど、私は、論理くんが変態すぎて、言っている意味がよくわからない。論理くんは、興奮した息遣いで、大きく広げた私のお尻の穴に、舌をねじ込んで来た。

「あぁぁ…ダメだよぉ…臭いよぉ…」

お尻の穴に舌が入ってくる感触って、なんだか全身の毛が逆立つ感じだ。論理くんは、しばらく私のお尻の穴に舌を遊ばせ、合わせて、鼻から大きな息をして、私の汚い臭いを吸い続けた。

「あああ、これだよなぁ…」

論理くんは満足げだった。そして、私のお尻の穴に、論理くんの指が入ってくる。論理くん、お尻好きだよね…。うんちが出るところを、嗅いだり舐めたり指を入れるなんて、わかってたけど、論理くん変わってる。論理くん、蝶々なんだな。完全変態。

「池田さん、いくよ」

論理くんは、そう言って、私のお尻の穴から一センチくらいのところまで指を入れる。痛い…気持ち悪い…。

「またうんち付いちゃうよぉ…この前の染みだって、お母さん、論理くん侮れないのね、とか言ってたよ」

「お言葉通り、侮っていただいては困る」

論理くんは胸を張ってそう答えると、指をさらに一センチ奥に差し入れた。

「うぅっ…!論理くん、痛いよ…やめてよ…」

「そうか、池田さん、痛いか?」

「痛い…」

「許してほしいか?」

「許してください…」

「生憎、池田さんは、俺に何も悪いことをしていない。そんな池田さんを、俺が許すも許さないもない。だからこのまま続ける」

あぅぅ…結局その台詞を言いたいだけだったんじゃないの?論理くんは、穴の中の指先を、細かく動かしながら、こんなことを言う。

「いい?前やったの、またやって。やりながら、池田さんがちびっちゃったやつ。覚えてるでしょ?」

覚えてる。だって、うんち漏らしちゃったんだもん。あの、息を吸って、お尻の穴をギュッと締めて、論理くぅぅん!って言うやつ。

「うん…覚えてるけど…またやるの?また、うんち出ちゃうかもしれないのに…」

「出たら、また、どうにでもしてあげるよ。それじゃあ、」

論理くんは、左手を私の背中のセーラー襟の辺りに当てた。

「いくよ!池田さぁぁぁん!」

私は、息を思い切り吸う。

「っっっっっっっ、論理くぅぅん!」

「あぁぁ…池田さんのセーラーが、息づいている…。愛してるよぉぉぉ!」

「っっっっっっっ、愛してるよぉぉぉっ!」

「大好きだよぉぉぉ!」

「っっっっっっっ、大好きだよぉぉぉっ!」

「ずっと一緒だよぉぉぉ!」

「っっっっっっっ、ずっと一緒だよぉぉぉっ!」

幸い今回は、うんちを漏らすことはなかった。でも論理くんの指は、私の直腸の中を捏ね回す。痛くて苦しいけど、論理くんの指がどこかもしれないある場所に触れると、

「ああんっ!」

と、声が漏れてしまった。どうしたの私…気持ちよかった?論理くんは、私のその声に、敏感に反応して、また同じところに触る。

「ああっ…あ、あんっ!」

さらに同じところ。今度は触るだけじゃなくて、指先で捏ね回す。

「あんっ…あぅああん!あぁんっ!」

「どうしたの、池田さん。今俺が指突っ込んでるところ、膣じゃないよ。池田さん、こっちのほうもいけるんだ」

「違うの!でも、なんか声が…っ!」

「何も違わないよ。気持ちいいから声が出るのさ。ほれ」

論理くんの指が、今度は前後に動く。何度も何度も力強く。

「あぐっ!あぅうあぅ…。あぅぅあぅ!あうぐぅっ!」

なにこれ…気持ちいい…お尻なのに…お尻も気持ちいいものだったの?論理くんの指が、さらに動く。この前えっちしたときとはまるで違う感覚。私はぐんぐん上りつめていった。

「さあ、池田さん。合わせてこっちもどうだ!」

論理くんはそう言うと、もう片方の手の指を、私の膣に勢いよく差し入れてきた。直腸の粘膜と膣の粘膜が、論理くんの両手に挟まれてしごかれている。その感覚が、私に津波のように襲いかかってきた。私は、何故か泣いていた。

「ぐばっ!ろんりくん、ろんりくぅぅぅぅん…っ!あぐえぐぅぅっ!」

「池田さんっ、池田さん、池田さぁぁん!」

論理くんは息を弾ませながら、全力で私のお尻と膣をピストンする。私はあっさりと、寄り切られるように果てて、論理くんも、腕の力を使い果たした。

「はぁっ…すはああっ…論理くん…」

「はぁっ…はあああっ…池田さん…」

「まさか、お尻でイくなんて…私、どうなっちゃったんだろ…」

「よく聞く話さ。別に池田さんが異常なわけじゃないよ。さぁ、池田さん、第二部だ」

「えっ?第二部って…?」

「さぁ、池田さんも、俺も、脱ぐぞ」

論理くんは、四つん這いのままの私を促し、自分も制服を脱ぎ始めた。お互い改めてベッドの上に立ち膝になり、向かい合い見つめ合う。

「池田さん」

「論理くん」

論理くんは、私をかき抱きながら熱く囁いた。

「…大好きっ!」

私も、論理くんを抱きしめる。

「論理くん、大好き!」

ずいぶん長い間、私たちはそうして抱き合っていたけど、やがて論理くんの右腕がそろそろと動いて、私の左の乳房を覆っていった。

「池田さんの乳房、かわいいよ」

「かわいくないよぉ」

「でもほら、お椀を伏せたような形をしてるじゃない。乳首もピンと前を向いていて。こういうのを美乳と言うんだよ」

論理くんはそう言って、私の乳房を優しく揉んだ。

「ありがとう…あぅ…」

私は軽く喘ぎながら、自分の左手を論理くんの手に添えた。少しずつ気持ちが盛り上がっていく。論理くんは、乳房を揉みながら、私の口に唇を近づけてきた。

「論理くん…」

「池田さん…」

私たちは唇を重ねる。論理くんの左手がそろそろと動いて、私の股間に到たちし、私の陰毛の茂みをさわさわと触る。

「池田さんの茂み…かわいいよ。ときどき、縮れた抜け毛もあるのがいい」

「やだ論理くん…恥ずかしいこと言わないで…」

「でも、その毛を、お風呂で一生懸命剃っている池田さんも想像したいな」

「え?…じゃあ、今度、剃ってみる」

「ありがとう。池田さん、ちなみにここは、」

と言って、論理くんは右腕を乳房から離し、私の腕をさっと持ち上げてしまう。

「きゃっ!」

「ふむふむ。脇は剃ってあるね」

論理くんがそう言った瞬間、私の脇に鼻をつけてにおいを嗅いだ。

「いや!やめてやめて!臭いよぉ!」

「それほど匂わないよ」

論理くんは相変わらず脇をくんくんする。もう、論理くんに、私のいろんなところのにおいを嗅がれて、私、恥ずかしいけど、嬉しいよぉ。

「あぁ、もう少し…うん、いいよ…もう少し…嗅がせて…ください…」

論理くんは、私の脇のにおいを嗅いで陶酔している。私は、論理くんににおいを嗅がれて、何故かおまんこが熱くなってきた。私もおかしくなってきたかな。論理くんは、ひとしきり私の脇のにおいを嗅いだあと、私をそっと、ベッドの上に仰向けに寝かせた。私は、膝を立てた状態で寝ている。私の膝頭の上に、論理くんの顔が、ぽっかりと浮かんでいる。

「池田さん…」

論理くんは、にっこり微笑んで言った。

「俺、池田さんの、大事なところ見たい」

「えぇ、またぁ?恥ずかしいよぉ…」

「恥ずかしがらずに見せてよ。俺、池田さんのおまんこ、見たい」

論理くん…恥ずかしい…。でも…!私は、覚悟を決めた。

「いいよ、見て」

バッ!私は一気に、広げられるだけの股を開いて見せた。私は恥ずかしくて横を向いていたからよくわからないけれど、論理くんが、すごく嬉しそうな表情で私のおまんこをのぞき込んでいることは、気配でわかる。

「わぁ、池田さんの、おまんこ…。かわいいから、ずっと見ちゃうぞ」

「恥ずかしいから、あんまり見ないでね…」

「いや、それでも見ちゃう。じー」

「やだよぉ、もうやめてよぉ」

私は股を閉じかける。私の膝で、論理くんの頭を挟みつけるような格好になった。論理くんは、無理矢理頭を私のおまんこに近づける。私の股が押し広げられる。

「池田さん。このおまんこ、クラスの男子の誰もが見たいと思っているんだろうけど、これを本当に見られるのは、だあれ?」

「論理くん!」

「他には?」

「いない!」

「ありがとう。それじゃあこのおまんこは、くっついているトイレットペーパーまで、俺のものなんだね」

「ぎゃあああっ!くっついてるの⁉︎やだぁ!論理くんの変態!」

「これを舐めとろう」

「舐めとるって!何を!まさか!やめてぇっ!」

私は少し暴れたけど、論理くんが、私の膣の両脇を押さえている力はすごく強い。論理くんは瞬く間に、おまんこに舌を這わせてしまった。あぁぁ…変態すぎる…。

「お、ちょっと、細かい舌触りがするぞ」

ほんとに舐めとったんだぁ…信じられない…。でも、そんなことまでしてくれるのね…嬉しい…。論理くんはそのあと、再び私のおまんこに鼻と口を当てた。

「池田さん。今日も、必死に歌ってたよね」

「うん。論理くん、聞いてくれてるかなって思ってたよ」

「地上にいても、池田さんの声、すごく聞こえてきた。がんばって歌ったから、汗かいたよね」

「うん、いっぱい」

「だから、おまんこもいい匂いだよ」

論理くんはそう言って、おまんこの辺りに鼻を這わせる。

「あぅぅ…論理くんまたぁ…やめてぇ…」

「特に、花弁を広げると、梅の香りが強い」

そう言いながら論理くんは、私の花弁を広げて、愛おしげににおいを嗅ぎ始めた。

「やっ!広げないで!広げないでぇぇっ!」

「池田さんが、必死に歌って、この匂いができたのなら、これもやっぱり、ソプラノの匂いだ。池田さんの必死のブレスの一つ一つが、この匂いになっていく。愛おしい…」

論理くんは、なおも花弁の中を嗅ぎ続ける。私は顔を覆いながら、されるがままになっていた。

「池田さん、池田さんの匂い、大好きだよ」

「やだぁ、論理くん、お願いだよぉ」

「お願いされても困るな」

論理くんは、なおも私のにおいを嗅ぎ続けていく。やがて論理くんは、私のクリトリスに鼻をつけ、その鼻で体いっぱいに息を吸うと、

「池田さぁぁぁぁぁんっ!」

と、叫ぶ。論理くん、またそんなことして…!あまりにも恥ずかしかったけれど、それでも私は、思い切り息を吸った。

「すはああああっ!論理くぅぅぅぅぅぅんっ!」

また鼻で深い息。あぁ、私の臭いが…論理くんの肺の中に、余すところなく吸い尽くされていくんだろうな…。

「愛してるよぉぉぉぉぉっ!」

「すはあああああっ!愛してるよぉぉぉぉぉっ!」

論理くんの鼻が「すううっ」と呼吸。

「大好きだよぉぉぉぉぉっ!」

「すはあああああっ!大好きだよぉぉぉぉぉっ!」

「ずっと一緒だよぉぉぉぉぉぉっ!」

「すはっ、すはあああっ!ずっと一緒だよぉぉぉぉぉぉっ!」

ぜぇはぁと、息を弾ませた論理くんが、私の膝の中から、再び顔を出す。

「池田さん、これ、いい!」

「いいわけない!もう、論理くんったら…」

「わーん、池田さんに叱られたぁ」

と、論理くんはおちゃらけた。恥ずかしいけど、楽しいな。そして論理くんは、しょうがないなぁとつぶやきながら、再び私の股を開く。

「ねぇ、池田さん。電マないよね?」

「えっ、あるけど、お母さんたちの寝室だよ」

「そっか。それじゃあ、あれほどの刺激はないかもしれないが、今日はこれだ」

論理くんはそう言って、右手の指を二本突き立てて私に見せた。そして、その指を私の膣に突き入れる。

「あっ、論理くん、あぅっ!あぅぅっ!」

お尻を責められ、においも嗅がれた私は、もうすっかり気持ちが上っていて、論理くんの指が入ってきただけでもうほどんど上りつめてしまっている。あぁ、気持ちいい…!

「池田さん、もう少し締まってきてるんじゃない?」

論理くんは指を動かしながら、少し息をついて言う。

「あぅっ!なに…っが?あふぁっ!」

「膣がさ。もうあと少しだね」

論理くんは、指のピストンのリズムを早めていく。まだ余力があるようだ。論理くんが疲れないうちに早々とイってしまうのは、ちょっと悔しかったけれど、もう、快感の大波が私に押し寄せてきている。目が熱くなって、悲しくもないのに、涙が溢れてきた。そして、目から塩辛いものが出ると同時に、下からも塩辛いものが噴き出してくる。論理くんの指の動きに合わせて、くちゃっくちゃっと、いやらしい音が出てくる。

「池田さん、池田さんっ…!」

「あふっ!あ、ろ、ろんりくんっ!あふわぁっ!」

さらに早まる指。さらに流れる涙。さらに吹き出す潮。論理くんの吐息にも熱がこもる。その熱を吸って、私は一気に上りつめた。

「池田さぁぁぁぁぁんっ!」

「わふうっ!るぉ、るぉうんりくぅぅぅん…すはあああっ、え…えええ…ひいいっく…ええええええんっ‼︎」

私は、泣き出した。なぜ泣いているのだろう?あまりにも気持ちがよすぎて、あまりにも幸せすぎて、溢れかえるものを抑えられなかった。私が派手にイったあと、論理くんは、お腹を震わす私を抱いて、その後ろ頭を手で包んでくれた──。

「あーっ!論理さん、お姉を泣かしてるー!」

突然の正志の大声に驚き、私と論理くんは飛び起きた。ドアの外で、正志がギョッとしながら、私たちを指差していた。

「ちょっ!正志!なに見てるの!」

私は、慌てて論理くんから離れると、正志に向かってそう叫んだ。

「お姉の変な声が聞こえたから、お姉の部屋に入ってみたら、お姉!泣いてる!論理さん!お姉をいじめてたんだろ!最低な野郎だな!」

正志はそう言って部屋の中に入ってきた。論理くんは、当惑の竜巻が頭の中を荒らしているようで、固まったまま動かない。

「正志!違うの!」

「何が違うんだよ!この野郎!お姉をいじめやがって!」

正志は、論理くんに飛びかかろうとした。私は、それを必死に阻止する。論理くんは、やってしまったなぁという顔をして、私たちを見つめる。

「どうしたんだ⁉︎」

きゃああああ‼︎お父さんが部屋の中に飛び込んできた。

「お父さん!来ないで!」

お父さんは、論理くんと私の裸姿を見ると、突然水をかけられて起こされたときのような顔をして言葉を失っていた。お父さんに裸を見られるなんて!気持ち悪っ!

「一体、何の騒ぎ?」

お母さんまで部屋に入ってくる。

「お父さん!お母さん!論理さんがお姉をいじめてたの!」

「だから違うって!」

するとお母さんは、全てを理解したように、「あらあら」とつぶやいた。論理くんは、この世の終わりだというような顔をしてうつむいている。

「正志、こっち来なさい。論理くんは、お姉ちゃんをいじめていたわけではないのよ」

お母さんが、正志に優しくそう言う。

「えっ?お母さんなんでわかるの?」

「論理くんが、お姉ちゃんをいじめるわけないでしょ?正志、人はね、幸せすぎても涙が出るのよ」

お母さんのその言葉に、正志はポカンとした。お父さんは、天を仰いでいる。

「正志、お父さんと下に戻ってなさい」

「はーい」

正志は、まだ納得のいかない顔をして、渋々お母さんの言うことを聞く。

「お父さん、よろしくね」

まだ天を仰いで放心状態のお父さんは、お母さんにそう言われてようやく動き出し、階段を下っていった。

「ふう…。とりあえず二人とも、服を着なさい」

私と論理くんは、未だ驚きが冷めやらないまま、取るものもとりあえず服を着た。正志に論理くんとのえっちを見られたのも、お母さんにバレたのも、両方恥ずかしかったけれど、それよりも何よりも、あのお父さんに私の裸を見られたことが、気持ち悪くて恥ずかしい!まぁ、小六まで一緒にお風呂に入っていたけれど、私もいろいろと成長したんだから!お母さんは、私たちが服を着終わるのを待って、少し厳しい目を論理くんに向けて、聞く。

「論理くん、避妊はした?」

「あ、はい」

論理くんはうなづいて、おずおずと答える。

「今日は、その…指で…やりました…」

「あ、そうなの。それならあり得ないわね」

お母さんは、表情を優しくする。

「まぁとにかく、溢れる気持ちは抑えられないだろうけれど、一応ね、みんなまだ起きて、家のあちこちにいるんだから」

「あ、すみません。これからは気をつけます」

「お母さん!違うの、私がえっちしたいって言ったの!」

私がそう言うと、お母さんは優しげに微笑んだ。

「お姉ちゃん。エッチというのは、男と女が合意してやるものなの。どちらが先にということはないわ。まぁ私としては、しっかり避妊をして、みんながびっくりしないように気をつけていてくれれば、何も言うことはないから。それじゃあね。あ、あと、シーツ代えておくから。いろいろ汚れたみたいだしね」

シーツの上を見ると、また、大きな染みができていた。あぁ、恥ずかしい…。お母さんは、意味ありげに私たちにウインクしてみせると、部屋から出て行った。

「あぁ…やらかしてしまった…」

論理くんは、天を仰いだ。

「お母様、よくこれくらいで済ましてくださったな。信じられない。見られた瞬間、もうこの家を出入り禁止になるって覚悟したよ」

「そんなことは私がさせないよ。それにしても恥ずかしい…っ!豆炭がカッカと怒っても私の今の頬の熱さには敵わないよ!」

「豆炭か。あれ、いちばん火の強いときには炬燵の中、あったかいを通り越して熱いくらいなのに。それよりも恥ずかしいのか。そうだよな…俺も、ガスの強火よりも恥ずかしい」

「もう、家に誰かいるときにはえっちしないでおこうね」

「でも、恥ずかしさも恥ずかしさだけど、俺は、お父様が気になってならない。お母様のようにご理解を示してくださるとは限らないし、あの、俺たちの裸を見たときの放心ぶりを思うと…」

論理くんは、心配げに唇を結んだ。

「お父さんのことなんてどうでもいいよ!それに、何か言われたら、こっちには切り札があるんだし!」

私は自信満々にそう言い、自分のおかっぱを手で掻き上げた。何気なくやったつもりだったけど、ふと見ると、論理くんが視線を私に釘付けにしている。

「池田さん、そういう大人っぽいポーズ、意外と似合うよ」

「失礼な!論理くん、私だって十四歳のレディーよ」

「そのレディーを、俺はどれくらい愛しているか知れない。池田さん…」

「論理くん…」

私たちの唇が近づく。論理くんは、もう初めからディープキスをするつもりで、口を細く開けている。合唱で歌い出す前、大きく口を開けて息を吸うけど、私にはその直前、細く口を開いて、吸い込むタイミングをとる癖がある。そのときのように、私も口を小さく開けて、論理くんを迎える。私たちの唇が、重なる──。ガチャ。

「だからまたやってる…」

扉の外には、新しいシーツを持った、呆れ顔のお母さんがいた。私たちは、もう言葉もない。


お母さんの、「カレーができたわよー」という声で、論理くんと私は、一階へ降り、居間へ向かった。さっきの騒動で、みんなと顔を合わせるのは恥ずかしかったけど、お腹は空いていた。おずおずと居間の扉を開けると、もう机の上には、五人分のカレーとサラダが用意されていた。みんなは自分の席に着いてテレビを見ていたけど、お父さんは私たちを見ると、気まずそうにすぐさま目を逸らした。正志は、論理くんを訝しげに睨みつけている。

「ささ、何やってるの、早くこっちに来て食べましょ」

私がみんなの顔色を伺っていると、お母さんは、早く席に着くように私たちを促した。論理くんと私が席に着くと、なんだか気まずい沈黙が流れた。

「さぁ、いただきましょうか」

お母さんが、その沈黙を破るように、言う。

「お母様、先程は…」

論理くんが、おずおずと言い出す。

「いいの、いいの。さぁ、食べましょ」

お母さんは、何も気にしてない様子だった。

「論理くん。さっきみたいなことをみんながいる時間帯にやるのは、俺は感心できないな。それにまだ、二人とも中学生じゃないか」

お父さんが少し苦い顔をして、論理くんを見つめながら言う。

「申し訳ありませんっ!」

論理くんは深々と頭を下げた。私は、お父さんの言葉にイラっとした。

「お父さん、うるさい!」

「うるさいじゃないだろ、大切なことだ」

「よくそんなことが言えるね!あんな物持ってたくせに!」

「あんな物?」

お母さんが、お父さんの顔をのぞき込む。お父さんの顔が、苦しげに歪んだ。

「お、俺は、あんな物など知らない!と、とにかく、気をつけてもらいたい。以上!食べるぞ」

お父さんは、話をさっさと切り上げたいそぶりを露骨に見せながら、一人先に食べ始めてしまう。しめしめ、今度からお父さんをやり込めるときにはこの手が使えるな。私たちも、そのあとに続く。

「お姉、論理さんにいじめられてたんじゃなかったら、一体何してたんだよ。僕、隣の部屋からお姉の泣き声が聞こえて、びっくりしたよ」

正志が、訝しげに私に聞いてくる。

「正志にはまだ早いの!知らなくていい!」

お父さんに続いて正志の口も塞いで、私はようやくカレーにありついた。お母さんがそんな私たちを、困ったものねというような表情で見つめていた。しばらくみんな無言でカレーを口に運んでいたけど、やがてお父さんが、おもむろに論理くんに尋ねる。

「論理くん。以前から聞きたかったんだけどね、論理くんは、文香のどこがそんなに好きなんだい?」

お父さんは、真剣な眼差しで論理くんを見つめた。

「お父さん!何聞いてんの!」

私は、照れてついお父さんにそう言ってしまったけれど、私も、論理くんは、私のどこが好きなのか知りたくて、論理くんを見た。

「私ごときの前で」

論理くんは、会社の面接を受ける人のような、緊張して改まった口調で言った。

「溢れる優しさを見せてくれて、こんな私を、花の咲く境地まで引き上げようとしてくれるところです」

論理くんらしい、重々しすぎる答えに、お父さんだけでなく、お母さんも、正志もポカンとする。論理くん…私、そんなに優しくないよ。それに、私『ごとき』とか、『こんな』私とか、論理くん、どうしてそういうことをいつも言うんだろう。私は少し悲しくなった。

「そ、そうですか」

論理くん独特の言葉の使い方の前に、お父さんは少し気圧された様子だったけど、やがてこう問い返す。

「文香がそんなに優しい子だとは思わなかったけど…その、花の咲く境地というのは、どういう意味かい?」

「私の家はいろいろあるので、言ってみれば、荒地の闇のような場所なんです。今、私は池田さんと交際できて、そういう場所から、花の咲くきれいで温かい場所に引き上げてもらっています。そんな池田さんの温もりが、私は好きで好きでたまりません」

論理くんは、静かだけれど、しっかりとした口調で、お父さんにそう答えた。お母さんが、そんな論理くんを、うなづきながら見つめ、そしてこう言う。

「そうだよね、そうも言いたくなるよね」

「俺も、論理くんの家庭については聞き及んでいる。自分の家を、荒地の闇と言うのは残念だけれど、お母さんやお姉さんがそういう方だというのなら、しかたがないかもしれない。文香で役に立つのなら、嬉しく思う。ね、お母さん」

「そうね。実際お姉ちゃん、本当に優しく論理くんを支えていると思うわよ」

「いやぁ」

私はそう言われて、照れる。

「私はそれほどのことしてないよ」

「じゃあ今度は、文香は論理くんの、どんなところを好きになったんだ?」

今度は、私がお父さんにそう聞かれる。うぅぅ、お父さんに答えるの気持ち悪い…。でも話の流れ上、答えなきゃ。それに論理くんが、キラキラした目で私を見ているし。

「えーっと…、優しいところ、かわいいところ、面白いところ、一緒にいて楽しいところ、マニアックなところ…」

「マニアックなんだ、論理くん」

お母さんが、意味ありげに微笑みながら論理くんを見る。

「い、いえ…特に自分ではそうは思いませんが…」

論理くんは、困った表情を見せた。あちゃあ、言ったらいけなかったかな。

「ねぇー、マニアックってどういう意味ー?」

正志が、お母さんに尋ねる。

「論理くんが、お姉ちゃんのことがとっても大好きってことよ」

「ふーん」

さっきまで敵対視していた正志が、論理くんを朗らかに見つめた。お母さん、ナイス。

「あ、それと、いちばん好きなところは、周囲に囚われずに、論理くんなりの愛情を、一身に私に形として示してくれるところ!」

私は一段と大きな声で話す。そう、これが言いたかったのだ。論理くんの反応が気になったけど、気恥ずかしくて論理くんの顔が見られなかった。

「愛情を形に、ねぇ…」

お父さんはちょっと不審げだった。

「たとえば文香のどこへの愛情を、どんな形にしているんだろうか?」

「えー…」

口ごもる私。下手に言えば『魅惑のうなじ』になってしまう。論理くん、口滑らさないでね、お願いだよ…!でも論理くんは、自信満々にこう答えてしまう。

「私は文香さんの、世界一白くてきれいなうなじや襟足に魅せられております。そのうなじや襟足に絶えず口づけ、これを愛でることで、私の愛情の一面を形にして、文香さんに伝え続けております」

論理くん…さすがだよ…。まぁ、論理くんはこうでなくちゃね…うんうん…あぁ…。

「なるほど、そうなんだね!」

お父さんは、我が意を得たりを言わんばかりに膝を叩き、何度もうなづいた。あぁ…。

「娘のそういうところに愛情を感じてくれて、父親としても光栄だよ。黒髪おかっぱを切りそろえた襟足とうなじには、言いもしれぬ魅力があるものだよね!」

「ああ、ああ…」

呻く私の脇で、論理くんとお父さんは、力強く男の握手をしてしまった。それらを、訳の解らない様子でキョトンと見つめるお母さんと正志。ああ気持ち悪い。これからは、論理くんの視線の中に、お父さんの視線を感じなければならないのか…。いや、そんなことは断固としてあってはならん!ああ…。


その夜は、家族みんなでボードゲーム「ペトロポリス」で遊んだ。一口では言い表しがたいゲームだけれど、プレーヤーは一人ひとり、石油採掘家になって、各産油国に採掘施設を建設していく。そうやってたくさん石油を採掘して、その利益を競い合うゲームと言えばいいだろう。私たち家族はこれが大好きで、週に一度は遊ぶ。一度始めるとなかなか終わらず、四時間くらいかかるのも珍しくない。今日も十時過ぎまで遊んだ。論理くんは「ペトロポリス」は当然初めてだったけれど、賽の目の運がとてもよくて強い。論理くんの持っている産油国はそれほど強いものじゃないのに、人がよく止まる。でも、論理くんは人が持っている大きな額の産油国には止まらない。結局、ダントツ一位だった。

「論理さんずるいよー、僕のサウジアラビア止まってよー。一回で二百万もあんのに」

正志が拗ねる。論理くんは笑って答えた。

「いやぁそんなとこに止まったら一発で破滅だな。正志くんこそ、俺のバハレーンにかれこれ十回は止まってくれてありがとう。それだけで二百四十万の収入だったぜ」

「論理くんの紫エリアには、私もほんとやられた!」

私は舌打ちしそうになるのを危うく抑える。

「カタールで五十万吸われて、ジュネーブ空港のお給料五十万意味無しって、何度やったか! そのくせ私のアメリカ五十万には、だれも止まってくんないの。泣くわ」

ゲームの感想を語り合いつつ、私たちは後片付けをした。ゲーム盤上の採掘塔や紙幣などはほとんど論理くんのもの。ワンサイドになったゲーム結果に悦に入るように、論理くんはアイテムを整理している。このゲーム中、またもや前回のお泊りのように、お姉さん乱入だのお母さん電話突撃だのがありはしないかと心配だったど、論理くんのお父さんが守ってくれているのか、その気配はなかった。余計な邪魔が入ることなく、ゲームに勝って喜ぶ論理くんの顔を見れたことが、私には嬉しかった。


「じゃあ、お風呂湧いたから、論理くん先に入っていいわよ」

ゲームが終わったあと、お母さんは論理くんにそう言った。

「はい、ありがとうございます」

論理くんはお母さんにそう返事をしたあと、私を縋るような目で見た。論理くん、私と一緒にお風呂入りたいのかな。

「ねえ、お母さん。論理くんと一緒にお風呂入っちゃダメ?」

私は、思い切って聞いてみた。

「そ、そんなこと、駄目に決まってるだろ!けしからん!」

お父さんが、声を裏返して叫ぶ。

「お父さんに聞いてないから」

私は冷たくお父さんを黙らせ、お母さんを子犬のような目で見つめる。

「ふう。まぁ、いいわよ。でも、エッチなことはしないこと。いい?」

さすがお母さん!

「やったー!いいって!論理くん!じゃあ、入りに行こ!」

「あ、お母様、ありがとうございます」

私は、お母さんにお辞儀している論理くんの腕をサッと引っ張り、お風呂場へと向かった。お風呂場の脱衣所で、私たちは服を脱いで裸になる。

「ねぇ池田さん、この洗面台の鏡の前で後ろから抱っこしてもいい?」

論理くんが、私にそんなことを言ってきた。

「えぇ、もう裸になっちゃったし…鏡の前なんて恥ずかしいよ」

「池田さん、お願い」

「もぅ…しょうがないなぁ」

論理くんのお願いには断れない私である。論理くんの喜ぶ顔が見たいし、それを見ると、私も嬉しいから。私たちは洗面台の鏡の前に立つ。論理くんが、後ろから手を伸ばし、私の胸の辺りで腕を組む。私は、その腕に私の両手を優しく添えた。鏡に、私のおっぱいがどーんと映っていて恥ずかしい。そこから目を離し、鏡越しに論理くんを見た。論理くんも、鏡越しに私を見つめていた。数秒間そうやって見つめ合ううちに、私はなんだか恥ずかしくなってきて、鏡に映る論理くんから目を逸らした。

「やだぁ、もう、恥ずかしいよぉ」

私は照れ笑いをしながら言う。

「もう、池田さんはほんと照れ屋なんだから」

そう言って論理くんは、また鏡越しに私を熱く見つめる。私も、気を取り直してもう一度、鏡越しに論理くんを見つめ返す。でもやっぱり数秒後、恥ずかしくて目を逸らしてしまった。

「論理くん、やめようよぉ」

「やだ、かわいい池田さんをもっと見ていたい。池田さん、俺に後ろから抱っこされてるとき、いつもそういう顔をしてくれてるんだね、嬉しい」

論理くんはそう言って、私の腰に論理くんの熱く固いものを押し付けた。もう、論理くんったら…。でも、論理くんに後ろから抱っこされるのは嬉しい。鏡で自分の顔をチラッと見ると、幸せが集大成したような顔をしていた。私、こんな顔をしてたんだ。と、自分でも驚く。そりゃ、こういう顔にもなるよね。

「池田さん、じゃあ、思い切り息吸って言ってね、はああああっ!池田さぁぁぁぁんっ!」

論理くんの胸式呼吸の肩が大きく上がるのを、鏡越しに見る。私も思いきり腹式呼吸。

「すはあああっ‼︎論理くぅぅぅんっ!」

「はああああっ!愛してるよぉぉぉっ!」

「すはあああっ‼︎愛してるよぉぉぉっ!」

「はああああっ!大好きだよぉぉぉっ!」

「すはあああっ‼︎大好きだよぉぉぉっ!」

「はああああっ!ずっと一緒だよぉぉぉっ!」

「すはあああっ‼︎ずっと一緒だよぉぉぉっ!」

しばらく私たちはそうやって、鏡越しに見つめ合った。

「池田さん、ちょっとうつむいて」

論理くんの言葉に、私は、ピッとうつむく。そうすると論理くんは、「んふふふ!」と言って喜んでくれる。私は、口を閉じながら笑顔でうつむいていた。

「池田さん、その顔むちゃかわいい!」

論理くんがそんなことを言ってくれる。私は、さらに照れてしまう。

「そんなことないよぉ、私かわいくないよぉ」

「そうやって目を伏せて口をひき結んでる池田さん、かわいい!」

論理くんはそう言って、また、「んふふふ!」と、笑う。そんな論理くんが愛おしくてかわいくて、私も笑った。しばらくそうやって鏡の前でイチャイチャしたあと、私たちはお風呂に入った。

「池田さん、うなじの毛、伸びたね」

体を洗い終えたあと、湯船の中で論理くんに後ろ抱っこされながら、論理くんは私のうなじを触り、言った。

「あ、そういえば最近剃ってなかったや」

「剃ってあげたい…」

論理くんは、心底剃りたいような口調でそう言った。

「あ!それならさ、今剃る?」

「え?」

私は立ち上がり、お風呂の棚に置いてある、T字の剃刀と、シェービングクリームを手に取った。

「これで剃ればいいんじゃないかな?」

「池田さん、ありがとう!そうだね、じゃあ剃ろうか!うなじだけじゃなくて、背中も剃ってあげたい」

論理くんの顔が、お風呂の蛍光灯よりも明るくなった。論理くん、好きなんだなぁ。そんな論理くんのことが、私は好きだよ。

「じゃあ池田さん、まずは背中から剃るね。ちょっと前かがみになってくれるかな」

論理くんの言う通り、私は前かがみになる。論理くんは、シェービングクリームを手のひらに出し、私の背中に塗っていった。ひぃ、スーッとする。

「じゃあ、いくよ」

論理くんはそう言って、私の背中に剃刀を這わせていった。背中を剃られている間、よく考えると、彼女の背中やうなじを剃るなんて、なんだかエロいなあと思う。あ、そういえば、さっきえっちしたとき、論理くん、おまんこの毛を剃ってほしいみたいなこと言ってたよね…。このあと剃ろうか…。でも、私がおまんこの毛を剃ってる姿、論理くんに見られるの恥ずかしいよぉ…。

「よし、背中は終わった。次はうなじね。池田さん、もう少し深く前かがみになってくれるかな」

論理くんにそう言われ、私はその通りにする。結構体勢がキツイ…腰が痛くなる…でも、論理くんのために、私がんばらなくちゃ!

「じゃあ、剃るよ」

論理くんはそう言うと、私のうなじにクリームを塗った。論理くんのお腹の前で前かがみになっているせいで、論理くんの大きく立ち上がったちんこが、私の目の前にある。私は、思わずそれに口付けた。

「うっ…⁉︎池田さん、何するの…!」

「ふふふ、いいからいいから」

私は、ちんこをペロペロと舐めた。先っぽから汁が出ているようで、少ししょっぱい。

「うっ…うぅぅ…っ!池田さん、剃刀を使ってるんだから危ないよ」

「あ、そっか」

私は残念だったけど、舐めるのをやめた。それから論理くんは、私のうなじを丁寧に剃ってくれた。体勢がキツくて、腰と足が痛くなって大変だったけど、剃り終わったあとの論理くんの、嬉しそうな、満足そうな表情を見たら、痛みはどこかへ行った。

「ありがとう池田さん。うなじきれいになったよ。多分剃り残しも無いと思う」

「ううん、こちらこそ、剃ってくれてありがとう」

自分のうなじを触ると、すべすべになっていた。あぁ、あと、おまんこの毛はどうするんだろう…。私は、恐る恐る論理くんに聞いてみることにした。

「ねぇ…論理くん、おまんこの毛は、剃ったほうがいいのかな?」

「うん、今剃ってくれたら嬉しい」

あぁぅ…恥ずかしいよぉ…。でも、論理くんの要望に応えたいよね!私は、シェービングクリームを手に取り、おまんこの茂みに塗っていく。論理くんが、その様子をじいっと見ている。

「はぁあうぅぅ…恥ずかしいからあんまり見ないでよぉ…」

「やだ、見る」

「うぅぅ…じゃあもうやめる!」

「だめ、続けなさい」

「はぅ…」

塗り終わった。さて、いよいよ剃るのだけど…これ、普通に剃っちゃっていいのかな?まぁいいか、適当に剃っちゃえ!私は、T字の剃刀で茂みを剃り始めた。うーん、なかなか難しいな…。というか、論理くん、さっきから何も言ってくれないけどどうしたんだろう…。論理くんを見ると、相変わらずじいっと私のおまんこを見ている。無言で。見るのに集中してるのかな…そんなに見ないでよぉ…恥ずかしい…。

「ろ、論理くん、なんか言ってよ」

私は、耐えきれなくなり、論理くんに話しかけた。

「え?…うん、自分の陰毛を剃ってる池田さん、すごくかわいいよ」

論理くんにそう言われ、私の体に付いているシャワーの水滴が一瞬で沸騰するかというくらい、体が熱くなった。

「もうやだぁぁぁ!恥ずかしすぎる…もうやだよぉぉ…」

そう言いながらも、私は剃る手を止めない。もう早く剃り終えてしまおう。そのうちなんとか剃り終えたけど、体は熱くて熱くて、のぼせそうだった。

「池田さん!ありがとう!池田さんを十分に堪能したお風呂の時間だった。じゃあ、上がろうか」

論理くんはとても満足げにそう言って、お風呂から出た。まったくこの人は…。体を拭いて居間に入ると、なんだか慌ただしげなお父さんが、開口一番に、論理くんと私にこう言った。

「遅い!風呂長かったじゃないか!一体、一体、お前たちお風呂場で何してたんだ⁉︎お母さんはちゃんと忠告していただろ⁉︎エッチなことは駄目だって!」

「なに言ってるのお父さん。えっちなことなんてしてないよ。ただ、うなじの毛とか剃ってただけ」

私の発言に、お父さんは、目を充血させて飛び上がる。

「なにぃ⁉︎うなじの毛を⁉︎まさか、まさか、論理くん…」

お父さんは論理くんを、悲壮感漂う顔で見つめ、返事を待つ。

「御察しの通りです。堪能させていただきました」

論理くんの周囲は、優越感の花が満開だった。

「あぁぁぁぁ…なんたることだぁぁぁ…文香のおかっぱのうなじを剃るのは俺だと、文香が生まれたときから決めていたのにぃぃぃぃ…こんなことなら、論理くんが現れる前に俺も自分の性癖をさらけ出し、もっと早くに剃っておくべきだったぁぁぁぁ…負けたぜ、論理くん…」

お父さんは気持ちの悪いことを言って、床に倒れた。

「お父さん…気持ち悪っ!」

そんなこと考えてたなんて!よかったぁ、お父さんが変な気を起こさなくて!

「お父さん…気持ち悪いよ」

お母さんが、お父さんを酔っ払いが吐き戻したゲロを見るような目で見つめて、言う。

「お父さん気持ちわるーい」

よくわかっていない正志も、便乗してそう言ってくれた。

「えっと…ここは私も言うところなのでしょうか…」

論理くんは、困っていた。


夜の十二時。論理くんと私は、私の部屋のベッドで二人、だっこっこをして眠気が来るのを待っていた。私が論理くんと一緒に寝たいと言い出したとき、またお父さんは、

「二人きりで夜を共にするなんて、論外だ論外!け、けしからん!」

と、言っていたけれど、その言葉は誰にも届かなかった。

「論理くん、今日はどうだった?私の家族、論理くんに変なこととか言わなかったかな。あ、お父さんは除いてね」

「そうだな」

論理くんは、真っ暗な天井を眺めながら、しばらくの間、物思いに耽った。

「結論から言うと、俺も、この家に生まれたかった。できることなら、この家で池田さんや、皆様と、もうずっと暮らしていたい。またあの家に帰らなければいけないかと思うと、気が重い」

論理くんの口調は、だんだんと暗くなっていった。

「そっか…。論理くんには悪いけど、あんな家にはいたくないよね…。十四日の論理くん家お泊まり、私嫌だし…」

今まで楽しいことばかりで忘れていたけど、十四日は論理くんの家に行って、論理くんのお母さんの世話をしなくちゃいけない。憂鬱だ…。

「靴をしまわなかったばっかりになぁ、くそっ!あんな女の言いなりになるだなんて…」

「うん…。でも論理くんとまたお泊りできるのは、嬉しい。もう一人が余計だけど…」

「あのババアが池田さんに余計な手出しをするものなら、殴り倒して当分眠らせる」

論理くんはまたいつもの怖い顔になって、またいつもの怖いことを言う。

「論理くん、そんなことは言っちゃダメだよ。でも、私のためにそんな気持ちになってくれて、ありがとうね」

「当たり前だよ。俺は、池田さんの彼氏だもの。彼女を守れなくてどうするんだ。何かあったら、あのババアと刺し違えてでも池田さんを守る!」

論理くんの顔がどんどん怖くなっていく。この辺りで話題を変えねば。

「論理くん、それで死んじゃったら、もう私のうなじ剃れないよ?私のおかっぱも見れないよ?私のソプラノも聞けないよ?もちろん、私の呼吸だってもう聞けないよ?それでもいいの?」

「それはよくないな」

論理くんは、苦笑した。

「なんにしても、あのババアや、養女に、池田さんと俺の間を邪魔されたくはない。俺は長いことあの家で苦しんで、ようやく池田さんに出会ったんだ。その池田さんを、奪われてたまるか!」

「私も、論理くんを、論理くんのお母さんに奪われたくない。それに私は、論理くんのお父さんから、論理くんを巣立たせてくれって頼まれてるから!私も、論理くんには巣立ってほしいよ」

私は、熱くそう語る。論理くんは、天井に向かって、しみじみと吐息をついた。

「ババア、ババアと言ってはいるけれど、去年の今頃は、俺はお袋と物理的な距離が開くのが怖くてしかたなかった。そのせいで、学校に行くのがつらかったぐらいだ。憎みながらも引っ付かずにはいられない、歪な関係だ。俺は、池田さんが差し出してくれた手につかまって、その関係から這い出そうとしている。池田さん、すまない、そしてありがとう」

論理くんは、そう話してくれた。私は論理くんの手を取り、強く握る。論理くんの手が折れてしまいそうになるくらい、強く。

「論理くん!この手、絶対離さないからね!」

「池田さん!愛してるよ!」

「論理くん!愛してるよ!」

「大好きだよ!」

「大好きだよ!」

「ずっと一緒だよ!」

「ずっと一緒だよ!」

論理くんも、私の手を力の限り握り返してくれる。やがて、私たちの唇が近づき、重なり合う。そして、互いの舌が絡み合った。

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