第1章

第1話 幕開け

 体育館の屋根を雨が叩いている。

「もうそろやむと思うんやけどな~」

小田の隣に座っている松本尚己まつもとなおきがぼやいた。

「今朝見たニュースのお天気おじさんは、昼頃やむって言ってたんやけどな~、予報を外したか~?」

「少しは教官の話、聞いてあげたら?」

松本の後ろに座っている艶間周二つやましゅうじは言った。

 小田市悟おだいちごたちは、この春3年生になった。今は午前の始業式が終わり、学年集会として体育館に集められていた。小田たちは今年も3人とも同じクラスになった。これで艶間とは3年連続同じクラスだ。最高学年になったことで、生徒会を決めなくてはならず、その説明を生徒会指導部の大野山おおのやま教官が話していた。しかし、天気は生憎の雨。声の小さな大野山教官の声は、ほとんど聞こえていなかった。すこし外を見ると、体育館軒下で黒い猫が雨宿りしているのがみえた。

「俺はちゃんと聞いてるけどな」

「え、小田は人の話聞くタチやないやろ」

小田は松本に馬鹿にされることがいかに腹が立つかを理解した。

「いいじゃなですか、生徒会。」

艶間が心のこもってない声で言った。

「なんや艶間、生徒会狙っとんか」

松本が驚いた顔をすると、艶間も驚いた顔で

「なんや松本こんなことにも騙されとんのか」

艶間が松本の口調をまねて言い返した。

「なんや喧嘩うっとんのか」

松本がとびかかろうとしたので、小田が2人の間に割り込んだ。

「まあまあ、でも生徒会に入れば大学とか就職とか楽になるじゃん。」

小田は大野山教官が説明しているスクリーンを指さした。

「小田は分かっとらんな~。ええか、生徒会ってもんはな、その名目のもと教官たちの雑用にされるだけやねん。」

「そうそう。去年の会長たちだって、めちゃくちゃ忙しそうだったし。」

松本と艶間は言った。

「うーん、そんなものなのかなぁ、、、」

と、落ち込んだように言い、

「でも、俺はやりたいけどな。生徒会。」

と続けた。すると、2人は驚き、

「まじか」 「意外や」 「ま、どうせ無理だけどな。」 「せやせや」 「そんなことより、腹減ったな。」 「せやな。おっ、ちょうど雨もやんできたみたいやし、なんか食いに行くか」 「そうだな」 と好き勝手話していた。 

「おまえらなぁ、、、」

雨がすこしずつあがってきているからか、大野山教官の声は幾分か聞きやすくなっていた。

「生徒会長立候補者は、生徒会執行部の人事を決め、3人以上の教官から推薦状をもらって、来週の水曜までに私のところまで持ってくるように。以上、解散」

これを聞いた小田が

「ふーん、この学校は生徒会役員は会長が決めれるのかー。じゃあ、お前らは確定な」

と呟くと、

「え、俺は絶対にやりたくないぞ。」

艶間が全力で拒否した。

その時だ、

「もちろん小田は会長だよね~」

多懸勝敏おおがけかつとし教官が、小田に駆け寄ってきた。

「まぁ、一応立候補はしようかなと。」

「やっぱりねぇ。教官が1枚推薦状出すからね。でも、あんなことがあったばかりだし、くれぐれも無理はしないようにねぇ。」

すると、多懸教官は艶間と松本のほうを見て、

「君たちも手伝ってくれるのか。ありがとね。小田のことよろしくね」

と言った。

「終わった俺の青春、、、」

「もとからそんなもんはないがな。」

「しかも、推薦状が1枚集まってしまった、、、」

「せやな。なにがなんでも阻止せな」

「お前ら、どんだけやりたくないんだよ」

小田は少し嬉しそうな顔で言った。

猫はいつの間にかいなくなっていた。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る