第6話 クソ悪い知事

 地方都市・県西町に暮らす若手記者の西条拓哉は、市の汚職疑惑についての取材を担当していた。彼は上司から任されたこの仕事に情熱を注いでいたが、長年にわたる町の閉鎖的な環境と、根深い権力構造に阻まれ、真相にたどり着くのが困難だった。


 ある日、情報提供者として元市議会議員の吉永隆に接触する機会を得た。吉永は政界を引退して数年経っており、現在は県西町の片隅で静かな生活を送っている。拓哉は吉永に近づき、知事の裏側について尋ねた。


 吉永は深い溜息をつくと、海堂貴彦知事の過去の汚職について語り始めた。若い頃の海堂は野心的で、正義感に満ちた若者だったが、権力と金に取り憑かれ、次第に変貌していったという。


「奴は、表向きは市民のために尽くしているように見せかけているが、裏では裏社会とつるんでいる」と吉永は言った。


 この会話を機に、拓哉は海堂知事への疑念を抱き、独自の調査を開始する。しかし、翌日、吉永が謎の死を遂げたとの報が入る。警察は「自殺」として事件を処理するが、拓哉はその説明に納得できなかった。彼は吉永の死の真相を解明し、知事の悪事を暴く決意を固める。


 拓哉は調査を進めるうちに、知事が裏社会との関係を利用して、県西町の予算を裏金として流用していることを知る。さらに、知事が公共事業を悪用して私腹を肥やしている証拠がある帳簿の存在を知る。だが、その帳簿の保管場所は不明だった。


 この帳簿を見つけ出すことが、海堂知事の悪行を暴くための唯一の手掛かりだと確信した拓哉は、知人の協力を得てさらに調査を続ける。しかし、拓哉が帳簿の存在に気づいたことが知事側にも漏れてしまい、知事の秘書である真鍋恭子が彼の行動を監視し始める。


 ある夜、拓哉は自宅の前で不審な人物が自分を監視していることに気づく。背筋が凍る思いを抱きながらも、拓哉は密かに証拠を集めることに集中する。しかし、次第に彼の周囲には危険が迫り始め、知人たちも彼に協力することを恐れるようになる。


 拓哉が知事の悪事に関する証拠を追い求め続ける中、彼は町の中心にある福祉センターが資金の流用先であり、裏金を隠す拠点である可能性を突き止める。夜中に福祉センターに忍び込んだ拓哉は、地下にある秘密の部屋に帳簿が隠されていると推測する。


 一方、知事の秘書・真鍋恭子も、拓哉が帳簿に迫っていることを察知し、裏社会の協力者を使って拓哉を始末しようとする。知事に心酔する真鍋は、彼の命令を忠実に遂行し、冷酷かつ計画的に動く。


 拓哉は暗殺者たちに追われながらも、福祉センターの秘密の地下室に辿り着く。そして、ついに海堂の悪事を証明する帳簿を発見する。しかし、その瞬間、真鍋と手下たちが現れ、拓哉を袋小路に追い詰める。


 拓哉は命の危険を顧みず、帳簿を守るために全力で抵抗する。真鍋と手下たちとの激しい格闘が繰り広げられる中、拓哉は知事の悪事を公にする手段を模索する。傷だらけになりながらも、彼は帳簿の重要なページをスマホで撮影し、オンラインに流出させる準備を整える。


 そのとき、海堂知事本人が地下室に現れる。冷静な表情で「無駄だ」と言い放つ海堂に対し、拓哉は怒りを露わにし、「町の人々に真実を知ってもらう」と宣言する。だが海堂は薄笑いを浮かべ、「この町では俺に逆らえる者などいない」と余裕の表情を崩さない。


 最終的に、知事の陰謀が暴露され、町全体に真実が広まるが、その代償として拓哉は重傷を負い、病院へと運ばれることになる。知事の悪行が白日のもとに晒されたことで県西町には変革の風が吹き始める。


 退院した拓哉は、町が新しいリーダーのもとで再生していく様子を見守りながら、心の中にわだかまりを抱きつつも自分の行動が正しかったことを噛み締める。彼は町を去り、新たな土地で再出発を決意するが、県西町での出来事は彼の心に深い傷と共に強い信念を残したのだった。



---


テーマとメッセージ


「クソ悪い知事」は、地方政治に潜む腐敗や、正義のために戦う者が直面する苦難を描き出す物語である。拓哉が命を懸けて真実を追い求める姿勢は、読者に「真実を貫くための犠牲」と「権力に立ち向かう覚悟」を問いかける。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る