第二十六話 彼らは戦うことを選んだⅡ

 この学級会がこのクラスでの最後の学級会になるだろうと魁世は思った。


「えーそれでは、二年一組学級会を始めます」


 屋敷でも一番大きな部屋、食堂には異空間に連れ去られた大島優輝、失踪した浪岡為信を除く全員が出席していた。


「司会はいつも通り僕、新納魁世が務めます」


 食堂は幾つかの大きめのテーブルと椅子が置かれており、学級委員以外はそこに自由に座っている。

 学級委員の惟義、雨雪、魁世、早紀は食堂の奥の全員に見える位置に立った。


「先ずこのクラス、学級といいますかこの集団、共同体を維持するか否か多数決を取りたいと思います。その前に一旦自分の意見を考え…」


「それはみんなとっくに済んでるから大丈夫だぞ」


 え、そうなの

 明可の発言に次いで、どこからか入手したノートに書記せんとする早紀も言う。


「男子は惟義くんが、女子はわたしが意見を纏めたので後は決めるだけですよ」


 なにそれ僕がベットで休んでた時に示し合わせたのかよ


「あーそうらしいので、ここで多数決をとります」


 全会一致で存続が決定した。

 なにこれ出来レースじゃん


「えー次に今後の我々の名称を決めたいと思います。異界人であることは多くの人に知られちゃ不味いのでそこも踏まえて決めようと思います。僕は“秘密結社スーパー・ヘレティッカーズ”を自薦し…」


「スーパーってなんだかお店の名前みたい」


「普通にダサい」


「かっこいいと思ったのか?それを」


「なんだよ秘密結社って、フリーメイソンかよ」


「カタカナにすればいいって訳じゃ無いだろ」


 平群美美、八田藍、本多直、那須興壱、森明可に酷評され他からも似たり寄ったりな反応で、魁世は反抗する。


「なんだよお前らよってたかって未来ある意見を潰しやがって、じゃあお前たちは良い案あるんだろうな!」


 そう言われると軒並み黙ってしまった。ここまでこき下ろした挙句、下手に案は出せない。

 食堂を沈黙が包む。


「ふん、このままだと秘密結社スーパー・ヘレ…」


「グンソウ会」


「え?なに透」


「グンソー会!」


 魁世はさっきまで机に突っ伏して寝ていた宗方透が突如発した言葉を反駁する。

 グンソウ?群青じゃなくて?


「群青(グンジョウ)会じゃなくて、グンソウ会?」


「?………!ちがっ、いやわざとソレだから問題なし」


「へーなんて書くの?まさか全部ひらがなだったりするのかな」


「えと、その」


「しかし聞いたこと無い言葉だなー、幻想でも群像でも無いとなると、まさか軍人の軍曹?違うよなあ、うーん」


「う、うう…」


 くくく、これでやはり僕の案が至高だと気づくことだろう


「魁世、軍師透がわざわざ考えてくれた造語だと何故気づかん」


 え、惟義委員


「群れの群に蒼穹の蒼、群蒼会、良いと思うけど」


 雨雪さん…?


「これは宗方透の考えた策だ、敢えてこの世界にも元の世界にも無い二字熟語を使うことで、もしこの集団の名前が元の世界を知る者達に露呈しても相手は此方がどこの誰か考察ができない。名称さえも撹乱に用いる高尚な罠と気づかんのか?」


 昌斗てめえ無表情でバレないとか思ってんだろうが、絶対面白がってるだろ


「むふー」


 透の勝ち誇った顔が腹立つな。いや僕がいじり過ぎたのがいけないのか


「じゃあ他にも案が出ないので、この二つの案で多数決をとります」


 秘密結社スーパー・ヘレティッカーズ  一票

 群蒼会               二十票


「これは少数派の軽視、民主主義の敗北だ!」


「早く次の議題いってくれる?」


「すいません」

 …

 …

「えー次に今後の方針、群蒼会の今後についてです。これに関しては惟義委員長より説明があります」


 もうクラスでは無いのだから新しい役職名を考えないといけない。魁世は惟義委員長と言いながらそう思った。

 惟義は壇上に立つ。


「まず、中井優輝が何処かに拉致されてしまった。浪岡為信が失踪してしまった。この二点について謝罪させて欲しい」


 惟義は自身の不手際によりクラスメイトを二人行方不明にしてしまったことを責任は全て自分に帰結するとして謝罪した。

 そうして早紀は惟義の言ったことを要約して手元の日誌に纏める。


 ・この群蒼会は会員が互いに助け合う互助会としての側面、この世界の枠組み、例えば帝国といった国家よりも優先すべき秘密結社的な側面の二つを持たせようと思う。


 ・基本方針は既に殺害予告をしてきたドラクル公、謎の勢力コンソーシアムへの対策。そのためにはまず防衛力やそれに付随する資本力といった力を得なければいけないと思う。だから先日皇帝陛下から与えられた辺境の領地経営はその絶好の機会と捉えたい。


 ・基本は去る者追わずでいきたい。既に敵を二つも抱えているのだから途中で抜け出したいと思うなら、それは尊重されるべきだ。


「そしてこれは俺の想像だが、ドラクル公の言葉を考えるに俺たち異界人の命を狙うのは奴だけではないと思う。動機も何も不明だがな」


 今度は司会の魁世は話しだす。


「敵、という表現が正しいかは正直分からない。だが現在の僕たちの力でわかるだけのことを調べ、それらを考察したことを後日書面にして配るつもりだ」


 次の議題にいこうと思ったが、そういえばと魁世は目の前の面々に告げる。


「そういえば、なんか自然と惟義が代表みたいになってるがそれでいいのか?」


 すると惟義が魁世に向き直る。


「魁世は不満か?」


 その曇りなき眼からは傲慢や凡庸を感じさせない。魁世は、やはりコイツしかいないと思った。高校入学して精々二年の縁だがどうしてこうも信用してしまうのだろうか?

 まさに将帥の器


「惟義を代表とすることの是非を問います。賛成の人は挙手を」


 全会一致、に思われた。

 挙手したのは二十一名中、十八名。


「えー賛成多数で可決します」


 手を挙げなかったのは八田藍、ハイドリヒ天城華子、新田昌斗の三名。

 ……

 …

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