第五話 ファーストコンタクトⅠ
???
『惑星——の監視衛星から宇宙統合艦隊総司令部に緊急の空間通信、当該惑星の世界回廊移送を確認』
『総司令部及び参謀本部の担当武官は至急、ドミトリーズ世界政府、最高評議会に出頭せよ』
『宇宙の平和と正義が著しく損なわれる可能性大、早期な解決を求む』
『最高評議会は当該惑星への干渉を決定、宇宙統合艦隊は過去の手法に則り解決させよ』
『ドミトリーズ世界政府万歳』
出席番号七番
今回の異種族の大攻勢により帝國中から流れ着いてきたその地の領民達、現在は路上生活者となっており、三人の歩く道のどこにだっていた。明可は歩きながら二人に呟く。
「なんかみんな元気ないよなぁ、ここの人って」
直と惟義は頷く。
「ふっ、戦争を行いその上劣勢らしいからな。こんな状況だからこそ俺らが『召喚』された。違うか?」
「皇帝陛下は娘さんを逃して欲しいとしか言っていないが、ついでにこの国を滅亡から救うと言ってしまったからなあ」
惟義の言葉に明可と直は振り返る。
「いや待て、そうなったのは惟義のせいだぞ。あんな無理筋なことをあの場で言い出したからだ」
「そうさ。駄目だと思ったのなら今からでも惟義お前が責任持って皇帝に、不可能でしたすみません、と言いに行け」
その当然の指摘に惟義は言い放つ。
「うむ!その通りだ。だが我がクラスには野球部主将とラグビー部主将がいる。二人がいれば問題ない」
その言葉にラグビー部主将の直と野球部主将の明可は黙る。直と明可は自分にかかってると言われると頑張りたくなってしまう質であった。
そしてそれを無意識で言ってしまう惟義もまた、頼られると応えたくなる人間である。
この三人はクラスで三馬鹿と言われていた。馬鹿と言われて喜ぶ者なぞいないが何故かその呼び名を三人は悪いと思っていなかった。三者とも自分に賢しい謀といったことが出来ないし、むしろ自分達は鉄砲玉という意識があったため無意識的か意識的に三人には本能のままに動く性質がある。三者はそれぞれ組織の長でもあり、そういった行動は慎むべきなのだが何故かその全ての行動でことごとく正解を引き当てるある意味頼れる存在である。
「皇女脱出計画と異種族を撤退させる作戦の詳しいことは魁世と雨雪が考えてくれる。我らはその通りはに行動すれば良し!」
惟義は胸を張って言った。
そんな三人に道端に虚空を見つめながら座っていた老人が声をかける。
「もし、お前さんがた何者だね」
「ん?どうしたお爺さん」
明可はその老人に向き直る。
「いや、この沈みゆく帝都でこんなに明るい若人は初めてみたのでな、ほれ見てみよ皆目が死んでおる」
老人の言葉に直はさらっと返す。
「そりゃあ俺たちはこの帝都、いや爺さん達を助けに来たんだからな」
明可の言葉に老人、その周りに踞る浮浪者たちも訝しむ。
「俺さ、この世界きて思ったことなんだけど、俺たちの本当の居場所って此処だったんじゃねーかなって」
老人達はさらに顔の皺を深くする。同時に直も視線を向ける。
「何を言ってる。腹減りすぎて頭がおかしくなったのか」
「直、俺たちこの世界に適応し過ぎている、そう思わないか?」
直ははっとした。何がとは具体的には言えなかったが何故かこの世界に愛着に似た何かを感じてはいた。
「むずかしいことは分からん、だがな、武者震い?みたいのをひしひしと感じる。内に込めたエネルギーを解放しろってな」
惟義は曇りなき笑みを浮かべ云う。
「おれもそう思っていた!目の前の巨大な敵は打ち倒したくなるのが男児というもの」
微妙に成り立っていない会話を繰り広げる三馬鹿。すると三人の腹から妙音がした。つられて周りの老人、浮浪者や避難民の腹の虫も共鳴し始める。
惟義はオホンと咳き込む。
「仕事も人助けも部活も、先ずは腹を満たすことからだな」
惟義や明可、直だけでなく周囲にいつのまにかできていた人集りの人々も笑った。
……
…
魁世は今二人の女性に会っている。同い年ほどだが二人とも皇帝の直系の娘であり本来なら相見えることは不可能な人物である。
「へぇ、あんたが余を助けに来てくれた勇者様?」
魁世はあまり悪いことはしないため他人から侮蔑や軽蔑の視線を向けられることは無い。だが目の前の皇女二人の片方の自身への視線は明らかに猜疑心が含まれていることを理解できた。
「ちょ、ちょっとフラーレン⁉︎」
どうやら魁世に厳しい視線を向ける方はフラーレンと言うようだ。
魁世は雨雪から帝都脱出の対象となる皇帝の御息女の二人と顔合わせをし、詳しい脱出計画を伝えるように指示されていた。
「申し遅れましたが、私は皇女殿下お二人を帝都より脱出させる任を与えられたカイセ・ニイノと申します。これから詳しい脱出の段取りについて…」
「ちょっと待ちなさいよ」
最上級階級の割に口の悪い皇女フラーレンが魁世の言を遮る。
「あんた何者?余とほぼ同い年でしょ、そんな若造が畏れ多くも余とメーリアの護衛だなんて何かあるに決まってんでしょ」
どうやらもう片方の内気そうな皇女はメーリアと言うようだ。確かにフラーレンの言う通り突然皇帝の客人として現れた魁世達は怪しさが半端ないだろう、だが自分達が実は別の世界から来たということを言う訳にはいかない。皇帝との約束である。
「……えー詳細についてですが」
「無視すんじゃ無いわよ!」
「フラーレン⁉︎」
魁世があたふたとしているとこに助け船を出す男がひとり
「申し訳ありませんが我々の正体は今は明かせません。これは今上皇帝陛下の御意志であり、恐れ入りますが皇女殿下お二人を逃すこの一点に関して我らの存在はあまり重要ではありません。皇帝陛下の御許可は得ております」
今の今まで全く喋らず魁世の背後にいた男、出席番号十七番新田昌斗にったまさとはまるで舞踊の能の面の様な表情で告げる。彼は元の世界からこうであり、寡黙な人間というより単に凡そ物事に無関心なだけだと言われ、そしてその仕事人気質なところから“新田なら大丈夫”という無責任な評価を周りから受けている。
魁世は後頭部に触れながら苦笑いしつつ話を続ける。
「ま、いずれ教えます。今夜脱出するので脱出用の服装や準備は此方でしておきますので、万が一、二度とここに戻って来れない事を考慮…」
「は?今夜ですって⁉︎」
「そ、それはほんとですか…?」
またもや魁世の言葉を遮るフラーレン、今回はメーリアも驚いているようである。
先程からの言ってしまえば少女然としたこの二人は本当にやんごとなき皇女殿下なのか魁世は少し疑問に思ったが、自分の常識がこの世界の常識とは限らないため考えても無意味である。
対する昌斗はなんでもないように告げる。
「殿下の御不満はごもっともですが、今は有事であり、御覚悟を決めていただかなければなりません。どうか御容赦ください」
昌斗と魁世は頭を下げる。邂逅はあまりよい感じではなかったが自分達の守らなければならない相手である。礼は尽くさなければならない。
「帝国のためであります、万事お任せ下さい」
昌斗の能面を見ていたらフラーレンもメーリアも首肯するしかなかった。
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