【狂気ミステリーBL】18話【あらすじ動画あり】


◆お忙しい方のための冒頭動画はこちら↓

https://youtu.be/Kvxqco7GcPQ



〝王様〟は答えず、代わりに私を見た。

「で、お前はどこに行こうとしていたんだ?」


〝王様〟のところに。

なんて言えるはずもなかった。


私の言葉を静かに待つ間、〝王様〟は側にある純白のバラをそっと撫でていた。巧みで優しい〝王様〟の指先のもと、バラは喉を鳴らす猫のようにゆらゆらと揺れる。


私はその指先に目が吸い寄せられていたことに気がついて、慌てて視線を逸らした。

その時になって、ようやく気がついた。


〝王様〟は、最初に会った時よりやつれて見えた。頬はさらにこけ、目の下のくまも濃い。何より、あんなに苛烈に燃えていたはずの目の中の光が、今は霞んでいた。まるで今にも、闇の中に消えてしまいそうな……。


「外に出たい……?」

気がついたら尋ねていた。〝王様〟はハッと顔を上げ、再び足元を見た。


「……わからない。今はもう」

と、小さく笑う。それは初めに会った時に見せた、穏やかでいながら全てを諦めたような寂しげな笑顔と同じだった。


ことり。私の胸の中で、小さく何かが動いた気がした。

(もしかして、これが感情か?)

とも思ったが、そう呼ぶにはあまりにも不確かで淡いものだった。


「どうした……?」

黙ってしまった私の顔を、〝王様〟が心配そうに覗き込んでくる。


「……いや、何でもない」

「そうか、ならいい。それより──」

ふっと〝王様〟の表情が険しいものに変わる。


「あれから、何か思い出せたことはあったか?」

何のことかと戸惑っていると、〝王様〟が強い口調で繰り返した。


「昔のことで、何か思い出せたことはあるかと聞いているんだ」

「いや、何も……」

「早くしろ。時間がない」


私は顔を上げ、一歩詰め寄った。

「時間がないって、どうゆうことなんだ。それに、どうして思い出さなくちゃいけない?」

「逃げるためだ。ここから。それには記憶が必要だ」

「逃げるって、何で逃げなきゃいけない? 〝先生〟は、記憶を思い出さなければ『外』にいけると言った」

「奴がそう言ったのか……?」


〝王様〟の声は驚きというよりも、怒りの方が勝っていた。私に向ける目も研がれた刀のように鋭い。

「いいか? 〝先生〟の言うことは信じるな。あれは、全て罠だ」

「罠……?」


どこかで、聞いたことがある台詞だった。

『〝王様〟の言うことは何一つ、信じてはいけない。全部、罠だから』


くらりと眩暈がした。突然、地面がふにゃふにゃのスポンジになってしまったかのようだ。額に手を当て、自分自身の身体を支える。


〝先生〟と〝王様〟。自分は一体、どちらの言うことを信じるべきなのか。



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閲覧いただき、ありがとうございます!


↓現在、別サイト様で以下の2つのお話が連載中です。↓

週末にあらすじ動画のビュー数を見て、

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◆『不惑の森』(ミステリーBL)

https://youtube.com/shorts/uVqBID0eGdU


◆『ハッピー・ホーンテッド・マンション』(死神×人間BL)

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