【狂気ミステリーBL】19話【あらすじ動画あり】
◆お忙しい方のための冒頭動画はこちら↓
https://youtu.be/Kvxqco7GcPQ
「これだけは言っておくぞ」
〝王様〟がグッと私の肩を掴んできた。
「近いうちに記憶をコントロールする治療が始まると思う。いいか? そこで出された薬は、絶対に飲むな。あれは意識を混濁させる。飲んだら最後、お前は、また〝人形〟に逆戻りだ。一生ここで飼われることになる」
不穏な言葉に、ハッと顔を上げる。
「まさか……そんなこと〝先生〟がするはず……」
「相変わらず〝先生〟の言いなりか。だが、俺を見ろ。俺自身がいい証拠だ」
〝王様〟は、指でトントンと自らの頭を叩いた。
「本意ではないとはいえ、 〝先生〟に従ってきた結果が、これだ。俺の神経は、もはや風前の灯火。時折、自分が何者なのかわからなくなる。こうなりたくなければ、絶対に薬は飲むな。いいな?」
力強かった〝王様〟の口調が、ふっと吐息ほどにか細くなる。
「……本当は、俺がついて守ってやれればいいんだが、そうもいかなくなった……明日からアレが始まる。そうすれば俺は、いつまで自分の正気を保てるかわからない。すぐにでもお前のことや、自分のことさえも忘れてしまうかもしれない。だから──」
顔を上げた〝王様〟の目には、再び意志の炎が灯っていた。
「今のうちに言っておく。記憶を取り戻せ。そして、ここから逃げるんだ。俺が正気を保っている間なら、何でも協力してやるから」
ぶるぶると喉が震え、言葉が出てくるまでにしばらく時間がかかった。
「貴方は……どうして、そこまで……?」
「するのかって? そうだな……あんなことがあって二ヶ月——いや俺がここに来てからずっと、何とか正気を保ってこられたのは、お前がいてくれたおかげだ。だから、俺はお前のためなら何でもする」
失望と恐怖の風が、空っぽの私の身体の中に吹き荒れた。
違う。〝王様〟が言っているのは自分(★わたし)ではない。彼が本当に見ているのは——。
(……〝人形〟だ。〝王様〟は私の中の〝人形〟を見ているのだ)
自覚した途端、胃の中に冷たいのか熱いのかわからない、どろりとしたものが流れ込んできた。私はくらりと後ろに下がり、自分自身の身体を抱き締めた。
「どうした……? 気分が悪いのか?」
〝王様〟がそっと労るように私の肩に触れる。だが、その労りは私に向けられたものではないことはよくわかっていた。
「お願いだっ、そんな目で見ないでくれっ……!」
我慢しきれなくなり、私は相手の手を振り払った。一歩下がり、だだをこねる子どものように首を振る。
「貴方の言っているのは、私じゃない! 私じゃないんだっ……!」
「何を言っている。お前だ。たとえ記憶を無くそうとも、お前に変りは無い」
躊躇いのない〝王様〟の声が、さらに私の神経をけばだたせる。
「どうして、そう言える!? 私は何も覚えていないし、何も知らない。貴方のことだって、何も! それなのに、どうして私だと言えるんだっ?」
「俺が覚えているからだ。お前のことなら、全部」
「……ッ」
言いしれぬ苛立ちともどかしさが、耳元でゴオゴオと音をたてる。
今なら確信できる。これは感情だ。しかも、良くない種類の。何という名前かは知らない。でもそのあまりの激しさに、自分自身さえコントロールすることが出来なかった。
「覚えているって……? でも、〝先生〟が言ってた。全部、貴方の妄想だって」
「妄想、だと?」
〝王様〟はピクリと頬を震わせたが、すぐにそれは自嘲の笑みに変わる。長い睫が、頬にくっきりとした影をつくる。
「……そうだな、そうかもしれない。俺はもうとっくの昔に狂っていて、あいつ──〝人形〟も俺が勝手に作り出した妄想だったのかも。この地獄のような現実を生き延びるための、唯一の救いとして。……でも、それでもいい。俺は、俺の信じたものに殉じるだけだ。俺が信じたあいつを──お前を、必ず守り抜く」
「……ッ!」
限界だった。
これ以上、何も聞きたくない。
結局、〝王様〟にとって、自分はただの身代わりでしかないのだ。彼が守ろうとしているものも、殉じようとするまで深く想っているものも、自分ではない。
怒りとともに、虚しさがこみ上げてきた。
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