【狂気ミステリーBL】17話【あらすじ動画あり】


◆お忙しい方のための冒頭動画はこちら↓

https://youtu.be/Kvxqco7GcPQ



閉鎖病棟の出入り口は一つ、廊下の突き当たりにある鉄製の二重扉だけだった。しかし、その外には警備スタッフが常駐している。

(ここは使えない。となると──)


私は反対側を見た。〇一号室のすぐ脇の壁には、非常用の小さな扉があった。

この扉は昨年、地方の精神病院が火災に見舞われた際、患者たちが病室に閉じこめられて焼死した事件を受けて、急遽設けられたものだった。緊急用のため、常に鍵はかかっていない。


なぜそんなことを自分が知っているのだろう。一瞬、疑問に思った。だが今は悩んでいる余裕はない。早くしないと、誰かに気づかれてしまう可能性がある。


私はそろそろと非常用扉に近づき、ドアを開けた。

ぶわりと夜の冷気が頬をなぶる。風には、ほのかなバラの香りが混じっていた。空を見上げる。墨で何回も染め上げたような空には、幾数もの星が瞬き、満月が静かに地上を見下ろしていた。


私は螺旋階段を慎重に降りる。地面に足をつけた時、詰めていた息が自然ともれた。

辺りを見回す。右。左。以前、病院内を見回った時、棟内の地図は全て頭に入れてあった。しかし、保護房までの行き方だけはわからなかった。


なんとなしに左に行ってみることにする。

しばらく歩くと、バラ園が見えてきた。どうやら正面玄関の方まで来てしまったらしい。慌てて引き返そうとして、足が止まる。


(あれは……?)

夜霧に咲くバラの中に、何かが見えた気がした。

背中だ。目をこらして見ると、一人の男がこちらに半分背を向け、茂みの中に立っているのが見えた。その視線は庭の先にある有刺鉄線にじっと注がれている。


私はその姿を、息を殺して見つめた。

夜の闇にさえも染めることのできない真黒い髪。高い鼻梁の端正な横顔。星空が反射する瞳。嵐の中でも倒れない樹のようにぴんと張られた背。


場所が場所でなければ、とても絵になる光景だった。

(……まさか、こんなところで会えるなんて)


「──誰だっ!?」

気配に気づいた〝王様〟が振り返る。そして私の姿を見つけるなり、ホッと安堵の息を吐く。


「なんだ、お前か……驚かさないでくれ」

予想外の柔らかい口調に、私は警戒で詰めていた息を吐いた。


「……どうして、こんなところに?」

まさか質問されるとは思っていなかったのか、〝王様〟は目を丸くした。


「それは、こっちのセリフだ。どうやって閉鎖病棟を抜け出したんだ」

「……〝眠り男〟が」

「〝眠り男〟? あぁ」


〝王様〟はそれだけでわかったようだ。クククと、尖った八重歯を見せて笑う。

「あいつは、ほんとに神出鬼没な男だな。夢遊病をおこしている時のあいつには、鍵なんてあってないようなもんだ。前なんて、保護房にまで来たこともあったぞ」


初めて見る快活な笑顔に、私は驚いた。自分でも気づかないうちに、一歩、二歩、と近づいていく。

「貴方は、どうやってここに……? 保護房にいたんじゃ……」

「無理矢理、抜け出してきた」


〝王様〟はしれっと言った。だが眉を顰めた私を見て、すぐに肩をそびやかす。

「嘘だよ。〝先生〟殿が特別に許してくれたんだ。これが、最後になるかもしれないから」

「最後……?」



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閲覧いただき、ありがとうございます!


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