【狂気ミステリーBL】16話【あらすじ動画あり】


◆お忙しい方のための冒頭動画はこちら↓

https://youtu.be/Kvxqco7GcPQ



ますます混乱した。

そもそも自分は、なぜこんなことを聞いているのか。

私にとって〝王様〟は恐怖の対象でしかない。近づかないと、〝先生〟や〝笑い犬〟とも約束した。


なのに、なぜこんなに気になるのだろうか。

私を抱き締め、寂しそうに笑ったあの顔が、どうしてこうも頭から離れないのだろうか。


(……いや、いい。やめよう。考えるのは)

私は鉄格子から、そっと離れた。月の光からさえも逃れるように、後ろの暗がりに身を潜める。


カチャン。

鈍い金属の音が響いた。見ると、〝眠り男〟が私の病室の鉄格子に手をかけていた。閉じられた目で、暗闇と同化する私を真っ直ぐにとらえる。


「……〝王様〟は寂しい人だ。彼の城は、もう壊れかけている。時間がない。誰かが助けなければ。踏み越えなければ、茨の道を。でないと〝王様〟は消えてしまう。永遠に」

「消えるって……」


ごくりと唾を飲んだ。

〝眠り男〟の口調には、鬼気迫ったものがあった。だが、その言葉は抽象的すぎて、どう捉えていいのかわからない。

ただ、一つだけわかることといえば……。


(〝眠り男〟は、嘘をついていない)

と、いうことだけだった。


嘘をつくという行為は、脳にとって高度な技術を要する。脳の一部しか起きていない夢遊状態で嘘をつくことは不可能だ。

誰が本当のことを言っているのかわからないこの病院の中では、そういう人間が一人でもいてくれることが唯一の救いだった。


私は、〝眠り男〟を真っ直ぐに見つめた。

「お願いだ、教えてくれ。〝王様〟は怖い? 優しい? どちらが本当の〝王様〟なんだ?」


答えはすぐに返ってきた。

「〝王様〟は、優しい。誰よりも。そして孤独だ。だからお願い。〝王様〟を救って」

そう言うと、〝眠り男〟はフラフラと自分の病室へ帰って行ってしまった。


「待って!」

呼び止めようとして、鉄格子を掴む。すると、キイッと音をたてて扉が開いた。

信じられない思いで、鉄格子を見つめる。


(もしかして、さっき〝眠り男〟が……?)

向かいの部屋を見ると、〝眠り男〟は既にベッドにつき、寝息をたてていた。朝になれば、自分が徘徊していたことすら、覚えていないだろう。


(どうしよう……?)

開いた鉄格子を前に、立ち尽くす。

ふいに、ある衝動がむくりと湧き上がってきた。


──〝王様〟と話がしてみたい。


会って聞いてみたい。

逃げろというのは、何なのか。

なぜ、逃げなければならないのか。

記憶を取り戻せとは。


聞きたいことは山ほどあった。

同時に、不安もあった。

もし本当に、全てが〝王様〟の妄想だったとしたら?


(……それでもいい)

このモヤモヤした気持ちがすっきりするなら。

私は辺りを確認し、鉄格子を開けた。そして物音をたてないように注意しながら、そっと一歩を踏み出す。



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閲覧いただき、ありがとうございます!


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