【狂気ミステリーBL】9話【あらすじ動画あり】
◆お忙しい方のための冒頭動画はこちら↓
https://youtu.be/Kvxqco7GcPQ
「ふざけるなっ! お前たちは、またそうやって、そいつを〝人形〟に仕立てる気なのかっ!」
〝王様〟の怒声が、暗い狭い廊下に木霊する。はあはあと肩で荒い息を吐く〝王様〟とは対照的に、〝笑い犬〟はどこまでも慇懃な態度を崩さなかった。
「貴方の言っていることは、全て妄想です。いい加減、貴方も〝先生〟の治療に従ったらどうです。そうすれば、こんな馬鹿げたこと──」
「黙れっ!」
〝王様〟が動いた。素早く〝笑い犬〟の前に滑り込むと、腹に一撃を入れようとする。〝笑い犬〟は初めからそれを予想していたのか、腰のバンドから警棒を取り出すと、〝王様〟の脇を打ち据えた。
「グッ!」
よろめき下がった〝王様〟は、打擲された腹を押さえながら、にたりと笑った。
「……相変わらずだな、〝笑い犬〟」
「何のことです?」
「お前のその、どうしようもない癖のことだよっ……!」
〝王様〟は相手に突進していくと振りかざされた警棒を避け、背後に回り込んだ。そして片腕で相手の気道を締め上げる。
「ガッ……」
みるみるうちに〝笑い犬〟の血の気が引いていく。瞳孔は見開き、口は空気を求めてわなわなと震える。
このままにしておいたら危ない。咄嗟に私は鉄格子を掴み、叫んだ。
「やめろっ……! やめるんだっ……!」
意外なことに〝王様〟は何の躊躇いもなくパッと手を離し、無実だと言わんばかりに私に向かって両手を上げてみせた。
「本気じゃない。それに、こいつは大丈夫だ。なぁ、そうだろう? 〝笑い犬〟?」
〝王様〟は咽せている〝笑い犬〟の前髪を掴むと、薄く笑ってみせた。 〝笑い犬〟が唾吐いて答えると、〝王様〟は彼の腹を思い切り蹴り上げた。
「ウグッ……!」
〝笑い犬〟は床に這い、腹を押さえながらゼイゼイと背中で息をしていた。〝王様〟はその姿を冷ややかな目で見下ろしながら、薄笑いを浮かべていた。相手を虐げるのが楽しい。そう言わんばかりの笑顔だった。
——『〝王様〟は危険な男です』
〝笑い犬〟が言っていたことの意味を、私は今更ながらに理解した。
だがもう遅い。
〝王様〟は 〝笑い犬〟がもう立てないのがわかると、くるりと身体の向きを変え、私の病室に真っ直ぐ向かってきた。手には、先ほど看護士から盗った鍵が握られている。
「やめろっ……! その人に近づくなっ!」
蹲ったまま〝笑い犬〟が叫ぶ。だが〝王様〟は一瞥くれることもなく、私の部屋につくと鉄格子に鍵を差し込み──扉を開けた。
ガシャン。ギイ。
鈍い音をたてて、鉄格子が開かれる。
「……ッ」
本能的な恐怖を感じて、私は一歩、後ずさった。
床に蹲る〝笑い犬〟の姿を見たら、数秒後、自分がどんな目に合うか、嫌でも想像できる。どこか逃げられるところはないかと、目の端で部屋を見回していると、
「逃げるな」
数歩先で立ち止まった〝王様〟が、私を真っ直ぐに見据えたまま言った。
「逃げるな」
私はぴたりと立ち止まった。なぜそうしたのかは、わからない。ただ相手の強い眼に魅せられたかのように立ち尽くす。
「……!?」
次の瞬間、手を強く引かれたかと思ったら、〝王様〟に抱きすくめられていた。
鼻先にかかった〝王様〟の首筋からは、血と消毒液、そしてほのかなバラの匂いがした。背中に廻った力強い手は、動揺する私をなだめるように背骨一つ一つをゆっくりと撫でていく。
「やっと会えた……」
耳元に、深くかすれた吐息がかかった。先ほどまで暴力をふるっていた人間のものとは思えない柔らかな声に、心の琴線が震える。
(何だろう、この感じ……知っているような……)
耳元でドクドクと増していく自らの鼓動を聞いていると、
「いいか、俺の話を良く聞け」
〝王様〟が私の腰を引き、さらに耳元に唇を近づけてきた。その声は、先ほどの甘やかなものとは違い、硬い緊張を帯びていた。
「いいか、お前は出来るだけ早く、記憶を取り戻してここから逃げろ。でないと、一生ここに閉じこめられることになるぞ」
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