【狂気ミステリーBL】10話【あらすじ動画あり】
◆お忙しい方のための冒頭動画はこちら↓
https://youtu.be/Kvxqco7GcPQ
「え……閉じ込められるって……?」
顔を上げると、息がかかりそうなほど間近に、〝王様〟の顔があった。目が合った瞬間、険しかった相手の顔が、ふとほころぶ。
「……髪、随分伸びたんだな」
〝王様〟の手が、私の髪を一房手にとった。慈しむような、愛おしむような手つきで撫でる。私を見下ろす彼の瞳は穏やかだったが、どこか痛々しく、寂しげでもあった。
きゅっと、心臓が直接握り締められたように狭くなる。
(どうして、この人はこんな風に私を見るんだろう……?)
「貴方は──」
手を伸ばそうとした瞬間、
「……ッ!?」
突然、〝王様〟の身体がビクリビクリと痙攣し、そのまま床に崩れ落ちた。
「まったく手間かけさせやがって」
〝王様〟の後ろに立っていたのは、先ほど殴られた看護士たちだった。彼らは手に持った警棒を、再び〝王様〟の背中に当てた。
「がっ!? あああぁぁ……!」
〝王様〟の身体が大きく跳ね上がり、やがてがくりと意識を失った。
「まったく十万ボルトでも一発で効かないなんて、化け物だな。それにしても帰ってきて早々、保護房に逆戻りとは」
ブツブツと言いながら、看護士たちは〝王様〟の手足を持ち上げると、引きずるように病室から出て行った。
二重扉が閉まる音が響く中、私は病室の中で呆然と立ち尽くしていた。
※
「顔色が悪いね? どうしたんだい?」
デスクに向かっていた〝先生〟が、ちらりと顔を上げた。
〝先生〟の診察室は、木目を基調としたこぢんまりしたもので、入ってすぐ左にデスクとカルテの入った戸棚、奥にはパーティションで区切られたベッドがあるだけだった。
閉鎖房の患者たちは、定期的にここに来て 〝先生〟の診察を受けることになっている。
「いえ……」
私は 〝先生〟の視線を避けるように、辺りを見た。ふと、デスクの後ろにあるドアに気がつく。部屋の中では唯一、金属製のもので、覗き窓すらもついていない。
「あそこは……?」
「あぁ、そこは、今は使っていない治療室なんだ。それより、何があったか話してごらん」
〝先生〟が身体ごと向けてきた。ここまでくれば逃れることはできない。私はからからに乾いた唇を湿らせた。
「……〝王様〟が」
「〝王様〟? あぁ、抱き締められでもした?」
「!? どうして、それを……? 他の人に聞いたんですか?」
「いや。でも簡単にわかることだ。〝王様〟は自分の頭の中にいる理想の人物と似た者を見ると、いつもそうするから」
「いつも……?」
「そう、いつものことだよ。君も驚いただろう? 急に抱きつかれて。あの変わりようにも」
こくりと頷いた。
確かに、〝王様〟の豹変ぶりには驚かされた。
彼はたった今、冷たく笑いながら人を嬲っていたかと思えば、突然、優しく微笑みながら触れてきたりする。
(どちらが、本当の彼なのだろうか)
「〝王様〟のあれはね、仕方ないんだ。そうゆう病気なんだよ」
〝先生〟は、眉間の間を指で揉みながらため息をついた。
「人格障害の一種でね。彼は両極端な二つの性格を常に行き来している。一つは、激情のままに自他を傷つける凶暴な人格。もう一つは蕩けそうなくらいの慈しみと優しさを持った人格。どちらに当たるかは、その時の運しだい。君だってもしかしたら、抱きしめられた次の瞬間には、殺されていたかもしれないよ」
「殺されて……? まさか、そこまで……」
「ありえないことではないんだ」
〝先生〟の顔つきが、急に硬く緊張を帯びる。
「〝王様〟はね、患者であると同時に、囚人でもあるんだ」
「囚人……?」
「あぁ。数年前、とある小さな村で殺人事件が起こった。村でもっとも由緒ある一族が殺され、屋敷に火をつけられた事件だ。〝王様〟はね、その事件の犯人なんだよ。彼は燃えさかる館を前に、笑っていたところを逮捕された。そして精神鑑定の結果、極度の錯乱状態による犯行ということで、刑務所の代わりにここへ送られることになったんだ。スタッフにも少々手荒なまねを許しているのは、そうゆう訳なんだ」
〝先生〟は警棒を振るジェスチャーをした。
「これでわかっただろう?〝王様〟がどんなに危険な人物か。もし殺されたくなければ、彼には近づかない方がいい。いいね?」
頷くまでもなかった。
先ほどの一件で、〝王様〟がどれだけ危うい存在かは身をもって知った。さらに今の話を聞いたあとでは、近づく気にもなれない。
しかし、一つだけ気になることがあった。
「〝人形〟──以前の私は、〝王様〟と知り合いだったんですか?」
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閲覧いただき、ありがとうございます!
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