第11話 女子校あるある②

 さて、サトシはどう出るべきか……迷った。


(着替え終わるまでの間だけだ、しょうがない。少しは遊びに付き合ってやるか)


サトシは桃瀬の演技にあわせ、自分を客モードに切り替えて遊んでみることにした。


「……ほう、それは、それは。いい子っていうのは、確かな情報なんだよな、ママ」


「それはもう! 雇う側としましてはね、ちゃんと身に着けている下着までチェックしましたから。センセのお好みはどの子かしらねぇ。セクシーで危なげな美柑ちゃん、ボクサーパンツの柚木くん、純真無垢な白パンの夏梅ちゃん。ちなみに、わたしはラブリー系よん」


「そうだなぁ……どれも、俺の趣味じゃないな」


「あらぁ、残念ですわ」


「せっかくで悪いが、ママ。俺は美しき十代の乙女には、手を出さないことにしているんだ」


「……そんな、つれないですわ、センセったら」


一通り遊びに付き合ったうえで、サトシは客から先生へとモードを戻した。


「はい、はい、はい。センセじゃないですよ、先生です。さあ、授業を始めましょう!」




 サトシはお遊びから頭を完全に切り替えて、教室のドアを開けた。


ガラッ!


すでに着替えが終わっていた生徒たちは、あわてて席についた。

キャーなどと悲鳴を上げる生徒は誰もいなかった。


「君たちの着替えのせいで、授業の時間が押しています!! 時間が無くなったから、さっさと英文法の小テストを始めますよ。いいですね」


「「「ええええー!」」」


「いいですかぁ。昨日の授業をちゃんと聞いていたらわかる、簡単な問題です。関係代名詞・関係副詞について」


「えー、聞いてた? ハルちゃん」


「ノートは取ったけど。頭に入ってなーい。夏梅ならわかるわよね」


「わかるけど、これはテストなんだから教えるわけがないでしょ」


「ううーーん、夏梅のいじわるぅ」


サトシが小テストのプリントを最前列の子に数枚ずつ渡すと、プリントは後ろの席へと順番に回された。


「時間は20分だ。いいかー」


「先生!」


柚木が真っ青な顔をして、手をあげた。


「どうしました、質問ですか?」


「わたし、具合が悪いので、保健室へ行ってもいいですか?」


「どこが具合悪いのですか?」


「わたし、今、生理の二日目なんで、ツライんです」


「先生は騙されませんよ。柚木には生理なんてあるはずがない」


「わーーん、酷い! 先生、酷いよぉ」



(しまった。ここは女子校だった)


サトシは言ってしまった言葉を激しく後悔した。

柚木はボーイッシュな生徒だから、周りからも柚木くんと呼ばれている。

その環境にサトシも慣れてしまい、柚木を男子生徒と錯覚してしまったのだ。

いままで、共学しか体験して来なかった影響がここで出た。


柚木は生理で情緒が不安定になっているせいもあって、その場でわぁっと泣き崩れた。

そこに周りの生徒たちが集まって来て、柚木を慰めはじめる。

すると、あっという間にクラス全体は大騒ぎになってしまった。


「ひどーい! サトシ先生、ひどーい!」


「そうよ、セクハラです!」


「柚木くんは女の子なのに。サトシ先生って最低!」


「そんな言い方って、酷すぎます!」


「まるで柚木くんが男子のような言い方!」


サトシは慌てて謝罪した。


「すみません、先生が言い過ぎました。柚木、どうか許してくれないかな」


しかし、生徒たちはここぞとばかりに、やいのやいのとサトシを悪者に仕立てて騒ぎ立てる。


この騒ぎは、隣のクラスにまで聞こえていた。

あまりの騒ぎに耐えかねた隣の教室から、数学の古松川先生が飛んで来た。


「どうしたんですか? サトシ先生、何があったんです」


「すみません。わたしがついセクハラ発言をしたせいで、収拾がつかなくなってしまいました。」


1Aの生徒は、小松川先生にサトシの失言について訴えてきた。


「古松川先生、聞いてください! 酷いんですよ、サトシ先生ったら。生理中で具合が悪い子に向かって暴言を……」


「サトシ先生は、お前には生理はないだろって言いました。セクハラを越えて、これって人権侵害です!」


「生理が無いって、いろんな意味があると思います。男子だからとか、更年期だからとか、あるいは、妊娠しているとか……」


「きゃー! 百瀬さん、そんな過激な!!!」


生徒たちは、口々にサトシが柚木に向けて放った失言を小松川先生に訴えてきた。

ベテランの古松川先生は、一旦は生徒の主張を聞いていたが、そのうちに騒ぎ立てる生徒たちを一喝した。



「ったく、お前らは。甘えるのもいい加減にしろ! 何でもすぐにセクハラだ、セクハラだと、騒げばなんでも許されると思って。いいか! 受験は生理痛だろうが、陣痛だろうが、待ってはくれないからな!」


(いや、さずがに、陣痛はないかと……)


「いちいち怒鳴られないと、お前らはわからないのかぁ!!」


生徒たちは、急に静かになり、おとなしく小テストの開始を待ち始めた。


「ありがとうございます、古松川先生」


「これくらいで引いてはだめですよ。では、頑張ってください。」


古松川先生は、サトシにアドバイスをしたうえで隣の教室へと戻って行った。


(あぁ、俺もまだまだだな)


サトシは自分の至らなさを猛省した。

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