第3話 教頭は厚化粧、同僚は親友

白金女子学園は私立の女子校だ。

教育理念は、


『女性の自立と知性・理性・品格』


素晴らしい教育理念である。

そして、校長は住職のお爺ちゃんで、とてもおっとりした方だった。

サトシは、その住職校長から教員のみんなに紹介された。


「新しく本校に来られた佐藤サトシ先生です。皆さん仲良くやってください」


大人になってから“皆さん仲良く”とは、あまり聞くことがない言葉だ。

校長のその言葉に、温和な人柄がにじみ出ていた。


しかし、教頭と生徒指導、学年主任は、とても指導熱心な先生たちだった。

特に女性の教頭の指導熱心さは強烈だった。

教頭は一歩前に進み出て、教員たちに気合をかけた。


「昨年度は、過去最高の合格実績を記録しました。今年の三年生もとても優秀です。またわが校から、有名企業への就職率も高い実績を記録しています。今年度も教員のみなさんは、“女性の自立と知性・理性・品格”の理念を体現するような授業をお願いします」


教頭は、厳しく部下を叱る女性上司のような存在だった。

昔ながらの考えで、厳しい校則、堅実な進路をすすめる教頭だなと、サトシは思った。



(合格実績も大切だけど、もっと大切なことがあるだろう。

俺は校長のおっしゃった“皆さん仲良く”に、賛同してついて行きたいな)





サトシは、この学校に新任で来た日のやり取りを思い出しながら廊下を歩いていた。


そして、入学初日のホームルームを終え、職員室に戻って来た。

職員室の自分の席に座ると、久々の教員としての仕事にどっと疲れが出る。

サトシは机でぼーっとしていた。


「サトシ先生、どうしました? 緊張でもしたんですか?」


「あ、教頭先生。いやぁ、入学式当日っていうのは、教員を何年やっていても緊張しますね」


「うちの生徒は、スレたところが無い真面目な生徒が多いですからね。あの子たちが道を踏み外さないように、しっかり指導してくださいね」


「はい」


教頭はそう言って、向こうの席へお茶を飲みに戻った。

教頭は、バリバリのキャリアウーマンのように、部下の指導に手を抜かない。

そして、化粧ファンデーションの塗り方にも、手を抜いていない。


「まあ、教頭の話をあまり真剣に聞いていると、こっちが病んでいくからな。話半分くらいでちょうどいいんだよ」


そう言いながら、サトシの隣の席から話しかけてきたのは、サトシの親友である工藤だ。

サトシと同じく英語科を担当している。

サトシの白金女学園への就職は、採用試験半分、あと半分はこの工藤からの紹介が後押ししたのも事実である。


実は、工藤とサトシは大学の親友で、若い頃は彼女の取り合いで張り合った仲だった。

当時は、サトシも工藤も大学ではモテていた。

そして、工藤の嫁さんは、サトシの元カノだ。

つまり、サトシは工藤に彼女を取られていた。

そんな嫌な過去があるものの、工藤とサトシは、なぜか今でも友人関係は続いている。


「まあ、よろしくご指導ください、工藤先輩」

「ハハハ! お前に先輩なんて言われるのって気分いいな。なんだか、俺が優位に立った気分だ」


「何言っているんだ。いつだってお前が優位じゃないか」


「そんなことない。俺は、身長も顔もサトシに負けているからな」


「よく言うよ。俺から彼女を奪っておいて」


「あ、そうだ。嫁さんにサトシがうちの学校に来ることを話したら、『じゃあ、一度家に呼んで、一緒に食事でもしましょうよ』だってさ。遊びに来いよ」


「聞いているぞ。お前の嫁さん、おめでたなんだろ。お前の家に遊びに行くのは遠慮するよ。

俺が会いに行って、急に産気づいたら困るからな」


「ああ、それもそうだな」


「おい、納得するのか」


呑気に工藤と話していると、教頭先生に呼ばれた。


(何の話だろう)


「サトシ先生、初めてうちの一年生を受け持つからご存じないと思いますが、わが校には、新入生オリエンテーションがあります。今日の放課後、その打ち合わせをします。先輩の先生方の話をよく聞いて、内容を把握しておいてくださいね」


「新入生オリエンテーション? ですか」


「ええ、新入生は毎年、山梨に二泊三日で合宿をします。合宿所内の清掃や炊事、ネイチャートレイルなどを通して、協同性を学ぶのです。このオリエンテーションは、わが校の伝統行事です。サトシ先生も生徒と一緒にすべての活動に参加して、しっかりご指導願います」


(ずいぶんと力の入った学校行事だな)


教頭の話を聞いて、サトシはちょっと引いた。



 

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