第26話 伝説の配信


 未だ未知の階層。

 そこに何が待つのか。

 探索者として、俺はそれを確かめる責任がある。


 改めて、現在ダンジョンについて分かっていることを頭の中で整理していく。


 まず、ダンジョンは第十階層までしかない。

 いや……正確には十階層以降が存在するダンジョンはいまだに確認されていない。


 神々の庭園も第十階層までしかないとすると、攻略はあと少しで終わるだろう。


 そして、階層が進めば進むほど敵が強くなる。

 第一階層はとても簡単なダンジョンでも、第十階層まで進むと急激にモンスターが強くなるところなんかも存在するらしい。


 実際、神々の庭園も第一階層と第五階層ではモンスターの強さに大きく開きがある。特に、五階層を境に飛躍的に難易度が上がるダンジョンは多い。


 有名なのは、カレンさんたちに攻略に向かってもらった【幻影の塔】だろう。あのダンジョンは発見当初、難易度Bと認定されていたが、第五階層以降のモンスターの強さから難易度Sに見直された珍しいダンジョンだ。


 そしてもう一つ、探索者なら必ず知っている、ダンジョンについての最重要事項。

 

 それはダンジョンを踏破すると《安定状態》になる、ということだ。


 逆に、未踏破のダンジョンは《活性状態》と呼ばれ、放置しているとダンジョン崩壊の危険性が高まっていき、いつか必ず崩壊すると言われている。火山の噴火をイメージするとわかりやすい。


 ダンジョンが崩壊すると、モンスターたちが出てきてとても危険な状態になる。

 

 ダンジョン崩壊は世界でも数例しかないが、その度に甚大な被害を出してきた。それくらいダンジョンというのは危険を孕んでいる。


 つまり探索者たちはダンジョンを《安定状態》にするために攻略していると言える。

 

 ――そして、探索者たちの努力により、ここ10年ほどダンジョン崩壊は報告されていない。


 日本に現存するダンジョンで《活性状態》なのは、俺が攻略している【神々の庭園】、さっき話題に上がった【幻影の塔】、そして【魔獣の森】の三箇所だ。


 魔獣の森は最近見つかったこともあってまだ情報が少ないが、神々の庭園と幻影の塔はかれこれ発見から5年以上は経っている。


 ――そして、一年以上経っても攻略されなかったのはこの二つのダンジョンだけだ。


 だが、神々の庭園に関する世間の興味は低い。

 それもそのはず、このダンジョンが崩壊するまで、あと数百年はかかるだろう、と予想されている。


 ダンジョンに関する研究が進み、今では崩壊時期の試算がかなり正確に出せるようになったのだ。


 それに加え、理不尽な難易度……。

 発見当初はたくさんのクランが攻略をしようとしたが、とあるS級クランが攻略を諦めると同時に急激に世間の興味は薄れていった。


 だが、いつかはこのダンジョンも崩壊するのは間違いない。

 それに、今起こっているこの異常……。嫌な予感がする。

 

「っと……そういえば」


 今回、俺は映像資料を残そうと思ってドロちゃんを押し入れから引っ張ってきたんだった。よくよく考えれば、戦っているときはメモが取れないのだからこうするのが一番効率的なはずだ。


「壊れてないよな……?」

 

 バッチリ充電されたドロちゃんの電源をおそるおそる入れると、ブゥンと低い唸り声をあげ、ドロちゃんが空中にゆっくりと浮かんでいく。


 録画開始のボタンを押すと、赤いライトが点灯した。よし、これで大丈夫っと。


「……よし。それじゃ行きますか」


 武器を構え直し、俺は第八階層に足を踏み入れた。

 


 ◇



 ダンジョン配信サービス、D tube。

 誰もが知るこの大人気サイトで、一つの配信が始まった。


 タイトルは無題。

 タグも何もない、素人の配信かと思われた。


 それが逆に人々の興味を引いたのだろう。視聴者がポツリポツリと増え始め、そして彼らは目を疑った。

 

《え……なにこのダンジョン》

《なんかやばそうなモンスターだな》

《ていうか、このドローン旧式すぎないか? 顔がよく見えないぞ》

《ボチダンって誰? 有名な人?》

《登録者は一人だけっぽいけど》


 その配信に映し出されていたのは、未知のダンジョンを攻略する一人の男の姿だった。画質は荒く、顔はよく見えない。ただ一つわかるのは、その男はナイフを二刀流にして戦っているということだけだった。


 そして、その戦いもほとんどなにが起こっているか分からない。白黒の堕天使のようなモンスターが現れたと思えば、目にも止まらぬ速さで倒されていくのだ。


 その様はすぐさまSNSで話題となる。


 ――【謎の人物が、謎のダンジョンをソロで攻略している】


 その投稿を見た人たちは配信に殺到。

 気付けば同時接続者数は、10万人を突破していた。


 モンスターが倒されるたび、盛り上がるコメント欄。

 荒い画質だったが、それが逆に真実味を帯びさせていた。


 特に話題に上がったのは、《ここはどこのダンジョンなのか?》という点だった。


 ダンジョン配信を毎日欠かさず見ている人間や、探索者としてそれなりに活動している人間ですら分からないダンジョン。


 現在、日本で未踏破のダンジョンは【神々の庭園】と【幻影の塔】、そして【魔獣の森】――。


 しかし、魔獣の森はすぐに候補から外された。現在攻略中のパーティが、ここは【魔獣の森】ではないと表明したのだ。


 すぐさま候補は【神々の庭園】か【幻影の塔】に絞られた。


 ああでもない、こうでもないとコメントが流れていく。しかし多くの人間は、そこが【神々の庭園】なのではないか? と感じていた。


 天使……にしては禍々しいフォルムだが、間違いなくそのモンスターたちは天界にいそうな姿をしていたのだ。


 そして配信が始まり一時間ほどが過ぎ、視聴者が50万人を突破したタイミングだった。


 ――彼らは衝撃のシーンを目の当たりにする。


《……え? 人型のモンスター?》


──

ついに始まりましたねカクヨムコンテスト!

本作品も現代ファンタジー部門で参加しています!

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