第25話 第八階層


「「えっ……?」」

 

 二人は呆気に取られたように俺の顔を見つめ、次にお互いの顔を見合わせ、そしてやっと言葉の意味を理解したのかあわあわと慌て出した。


「そ、それってつまり、佐藤さんの煉獄霧切丸をいただけるってことですか!?」

「そ、そういうことだね」


 グイッと近づきながら質問してきたシオンに思わず後ずさる。


「私にもいただけるんですかっ!?」

「う、うん」


 ずいっと詰め寄ってきたカナデに気圧されながら答える。


「「やったぁ……!」」


 二人は本当に嬉しそうに目を輝かせている。

 そりゃ嬉しいだろうな。なんてったってあのさんの打った武器だしね。なかなか手に入るもんじゃない。


「そんなに鳳凰院さんの武器が欲しかったんだねぇ……」


 俺はしみじみと呟く。

 我が呼んだのだ、というくらいだから、二人は何度かここに足を運んでいたんだろう。鳳凰院さんがここまで評価されているということに、なぜか俺まで嬉しくなってしまう。


「でもそれなら新しく作ってもらった方がいいんじゃないかな? 俺のお下がりになっちゃうし……」


 かれこれ5年以上は使い込んだ武器だ。

 丁寧に手入れをしてきたけど、傷とかは少なからずある。


「……佐藤さん、なにか勘違いしてません?」

「え、なにが?」

「ふふっ」


 なぜか少し不満げなシオンと、笑みを浮かべているカナデ。何か変なことを言ったかな、俺。


「佐藤よ、この二人はな――」

「ちょっ、鳳凰院さんっ」

「す、すまぬ」


 なにか言おうとした鳳凰院さんがシオンの圧で口を閉じる。


「――と、とにかく。二人は貴様の煉獄霧切丸を継承するに相応しいと我が判断した。二人の気持ちは本物だ。佐藤よ、構わんか?」

「は、はい。もちろんです。俺のお下がりになっちゃいますけど、それでも良かったら」


 俺としては全然問題ないというか、むしろ二人に使ってもらえるなら大歓迎というか。

 でも煉獄霧切丸はちょっと無骨なデザインだし、女の子が持つには厳つすぎる気もする。


 そんな心配とは裏腹に、シオンとカナデはとても嬉しそう。目をキラキラさせている。


 くっ……! 笑顔が眩しい……!

 なんて『陽』のオーラだ……!


 俺はなるべく二人と目を合わせないようにしながら、懐から取り出した煉獄霧切丸の一本を、まずシオンに渡した。


「わぁ……! ありがとうございます! 一生大事にしますねっ」


 いや、ボロボロになったらちゃんと交換してね?

 そしてもう一本はカナデに渡す。


「ありがとうございます、佐藤さん。……ふふ」


 うっとりと煉獄霧切丸を見つめるカナデ。

 女の子も意外とこういうのが好きなんだなぁ。確かにカレンさんの武器もカッコいい系だった気がする。


「え、えっと……それじゃ俺はそろそろ失礼しようかな〜……なんて」


 ちらっ。

 なんとなく居づらくなった俺は、鳳凰院さんに目配せする。


 すると鳳凰院さんは俺の意図を汲み取ってくれたのか、ゆっくりと頷いた。「依頼料はまた今度でよいぞ」と言っている気がする。ありがたい。


 そして手をパンッと叩き、口を開く。


「――それではこれをもって継承の儀を終了するッ! これより佐藤とお前たちは、切っても切れぬえにしで結ばれたッ!」


 え、えにし。

 ちょっと大げさじゃないか?

 そう突っ込もうとしてシオンとカナデの方を見たら、なぜか二人はとても嬉しそうに微笑んでいた。


 俺と二人が知り合ったのは、本当に偶然だ。

 俺がシオンとカナデと知り合えるなんて、ちょっと前は思いもよらなかったし。

 

 鳳凰院さんの言うように、この出会いは大事にしないといけないな。


「佐藤さんはこれから神々の庭園に行くんですか?」

「あ、ああ。そのつもり」

「私たちは【幻影の塔】に行こうと思います」


 シオンの目には決意の光が灯っている。

 幻影の塔は日本でも数少ないS級ダンジョンだ。長い間攻略が難航していると聞く。


 だけどシオンとカナデ、そしてカレンさんが力を合わせれば間違いなく攻略できるはずだ。


「……分かった。くれぐれも気をつけてね」

「「はいッ!」」


 そんな俺たちのやりとりを、鳳凰院さんは満足げに眺めていた。


「ククク……貴様らなら必ず成し遂げられるさ」



 ◇



 カレンさんに激励のメールを送り、すぐさま返事が来たと思ったら通話で焦り散らかし、電話に出たら「頑張りますわっ」と元気な声がしたので「頑張ってください」と返したらやたら上機嫌になってくれたので安心した後、俺は神々の庭園に足を踏み入れた。


 今日からは第八階層を探索して行こうと思う。

 現れるモンスターの変化をメモしつつ、階層を上がっていく。


 この間現れた白黒の天使型モンスターは、《グリームエンジェル》と名付けた。


 一度だけしかまだ遭遇していないが、ブログの記事にも詳細な情報をしっかりと掲載済みだ。


 今日も現れるかと警戒を強めていたが、第七階層を抜けるまで現れることはなかった。

 このあいだ感じた強力な気配も、今日は感じない。


 嵐の前の静けさというやつだろうか。

 油断せずに探索を続ける。


「それにしても、この武器は最高だな」


 ここに来るまで何体かのモンスターをツヴァイ・ラーべで倒したが、今までにないくらいに手に馴染む。


 重量バランスなんかも完璧に計算されている。刃に空いた穴はそのためにあるのだろう。


「さてと……それじゃあ第八階層に行きますか」


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