第21話 仲間


「な、なんですのあのモンスターは……」


 そのモンスターは異様な雰囲気を放っていた。

 まるで堕天使のような姿。放たれるプレッシャーは今まで出会ったどのモンスターよりも重い。


 カレンさんとシオンたちは気圧されたように後ずさる。幸いここは第二階層から入ってすぐの場所。撤退しようと思えばすぐにできる。


 だがそのためには誰かがあいつを引きつける必要がある。背後を狙われたらひとたまりもない。


「俺が引きつけます。三人は逃げてください」

「っ……わ、分かりました」


 どこまでも冷静なカナデが俺の指示を聞いて返事をしてくれた。シオンとカレンさんは何か言いたげだったが、俺の有無を言わせない態度を見て無言で頷く。


「……必ず無事でいてくださいね」

「ああ、もちろん」


 シオンの言葉を合図に三人は後退する。


 それを見た未知のモンスターは、を振り上げた。


 それは一瞬の出来事だった。

 ――刹那、迸る雷光。


 その両手から放たれた雷光が、撤退している三人に向かって奔る。


 ――ギィィィンッ!

 射線上に俺は立ち、二つの雷光を同時に弾く。

 弾かれた雷光がダンジョンの壁を抉り、大きな穴を作った。


 これまでのどのモンスターより威力のある攻撃。

 そしてなにより、速い。

 詠唱時間はほんの0.01秒にも満たない。両手を振り上げた瞬間、それは放たれた。


 だが――。


 俺は攻撃を弾いたあとすぐさま反転。

 そいつの背後から弱点があるであろう場所を煉獄霧切丸で鋭く薙いだ。


 天使型のモンスターの弱点位置は共通している。

 長い間このダンジョンに潜り続け、分析をしてきた俺にとっては弱点を特定することなど朝飯前だ。


『グギャァァアオオオッ!!』


 雄叫びをあげながら、そいつは光の粒子となって消えていく――と思われた。


 しかしそうはならなかった。

 苦しみはしているものの、まだ形を保っている。

 どうやら耐久力も今までのアークエンジェルやらに比べると高いらしい。というよりは、弱点の位置が違う……?


 いや……。

 どうやらこいつは弱点が二箇所あるらしい。

 その証拠に、俺が攻撃した背面の首の下と正面側の喉の下を庇うように腕を回している。


「なるほどな……ならッ!」


 俺一人でも同時に弱点を攻撃することはできる。


 こちらを振り向いたモンスターがもう一度両手をあげる。またあの雷光か。俺には効かないぞ?


 バチバチッという鳴動とともに放たれる雷撃。

 俺はそれを弾き、片手のナイフを投擲する。


「これで終わりだッ!」

 

 精密にコントロールされたナイフはブーメランのように旋回し、背中側の弱点を攻撃。


 そして俺は正面からそいつに斬りかかった。

 咄嗟に防御行動をとるモンスター。

 俺はその腕の隙間を縫い、確実に弱点を捉える。


 耳障りな断末魔がダンジョン内に響き渡る。


 と、そこでいくつかの気配が近づいてくるのを感じた。

 どうやら騒ぎを聞きつけたアークエンジェルたちが数体こちらにやってきたようだ。


 さらにもう一体、今倒したばかりのモンスターと同じモンスターが眼前に立ち塞がる。


「……まだいたのか」


 数体のアークエンジェルたちはさっき逃した三人の退路の方に現れた。完全に包囲されている。


「こっちは大丈夫です! 佐藤さんはそいつを!」

「ああ、分かった! 後ろは任せた!」

「はい!」


 シオンが叫び、俺が答えた。

 即席のパーティ。

 だが、連携が完璧に取れている。


「私が三体のターゲットをとりますわ! その間に、シオンとカナデは残りの一体をやってくださいまし!」

「「はい!」」

 

 カレンさんは二人を率いて指示を出し、シオンとカナデは冷静に自分たちにできることをやろうとしている。


 ――俺はもう一人じゃない。背中を任せられる仲間がいる。


「……今ならなんでもできる気がするな」


 いつになくやる気がみなぎってくる。

 俺も三人にいいところを見せないとな。


「――ふッ!」


 モンスターが両手を振り上げたと同時に、俺はさっきと同じようにそいつを倒す。


 もう攻略法は分かった。俺に同じ手は通用しない。


「はぁ……はぁ……っ」

「やったねカナデ!」

「ふふん、私にかかればこんなものですわ」

 

 と同時に、後ろで戦っていた三人もモンスターを倒し終えたらしい。


 カナデは肩で息をして、シオンはカナデに抱きついていて、カレンさんは決めポーズをこちらに向かって決めている。


 その三者三様の姿を見て、俺はほっと一息つく。

 良かった、誰も怪我をしないで済んだ。


 さすがはカレンさん。そしてもちろん、シオンとカナデもいい動きだった。これならこのダンジョンでも戦えそうだな。


 だが、ここは一旦探索を中断した方が良さそうだ。

 明らかにダンジョンの様子がおかしい。それに、奥からはさっきのモンスターより強い気配がある。


「一旦、態勢を立て直してまたこよう。奥にもっとヤバいやつがいるみたいだ」

「え……いまのモンスターよりですか?」

「ああ。それも数倍……」


 俺の答えにシオンが目を見開く。

 カレンさんは落ち着かないのか、キョロキョロとあたりを見渡している。


「そうですわね……ここはタイチの言う通りにしましょう」


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