第20話 異変
ルナスターズの二人はカレンさんの勢いに呆気にとられている。俺も呆気にとられている。
「っていうか、水瀬カレンさんですよね……? どうしてここにいるんですか?」
「それはもちろん、タイチのベストパートナーだからですわ!」
「??」
ダメだこの人早くなんとかしないと。
「……あ、佐藤さん! 今日はよろしくお願いします!」
二人のやりとりをスルーしていたカナデが人一倍早く俺の存在に気づいて駆け寄ってくる。シオンとカレンさんもついてきた。
「お、おはよう。朝からみんな元気だね……」
「それはもちろん! 私たち、今日を楽しみにしてきたので!」
「もちろん私も楽しみにしていましたわっ」
「ええと、佐藤さん。水瀬カレンさんと知り合いなんですか?」
カナデがおずおずと俺に尋ねる。
「まぁ、一応……」
「一応とはなんですの一応とは! 私たち、一緒にダンジョンを探索したベストパートナーですのよ!」
「まぁ付き添いみたいなもんだと思って、気にしないでください」
シオンとカナデは「はぁ……」と納得したような納得していないような表情でカレンさんを見つめている。
カレンさんだけはその視線をもろともせずにやる気をみなぎらせていた。
「そういえば、どうしてカレンさんのことを知ってるの?」
俺は先ほどから気になっていたことをカナデに聞いてみる。
「え、どうしてって、そりゃぁ水瀬さんは世界的に有名な探索者ですから」
「有名?」
「有名というか、世界で唯一の
「え、そうだったんだ……」
「……もしかして、知らなかったんですか?」
カナデが信じられないものを見たような目になる。
いやだって、テレビとか見ないですし。
「まぁ、タイチには勝てませんけれどね」
「カレンさんがそんなことを言うなんて……佐藤さんってやっぱりすごい実力者なんですね!」
シオンが羨望の眼差しでこっちを見てくるけど、俺は曖昧に笑うしかできない。そんなに大それた人間ではないけどね、俺は。ただのぼっちだよ。
そして自己紹介もそこそこに、(というよりは、みんながお互いのことを知っていたのもあって別に必要なかった)俺たちは神々の庭園に潜ることにした。
第一階層は俺たちならそこまで問題になることはなかった。
数体のアークエンジェルが現れたけど、俺とカレンさんがサクッと倒して終わり。シオンとカナデはちょっと驚いていた。たぶん、カレンさんがここまで強いとは思っていなかったのだろう。
「これがSS級探索者……」
シオンがポツリとこぼす。
カナデは取り出したメモ帳になにやら書き込んでいた。
「これが私たちのチームワークですわっ! しかと目に焼き付けなさいまし!」
決めポーズをとっているカレンさんを華麗にスルーし、俺たちは第二階層へ向かう。
というか、やはりモンスターの動向がおかしいな。
数も増えてるし、統率が取れすぎている。ここまで組織的にモンスターが動くことはないはずだ。
何かの意思を感じるというか……不気味としか言えない。
あとで水瀬さんに報告できるよう、俺は情報を脳内でまとめておく。
第二階層は、特に第一階層と変わらない。
マップが複雑になること、モンスターの数が増えることくらいだ。だが、マップが複雑になるというのは言葉以上の危険がある。
まず、死角が増える。
そのせいでモンスターを見つけるのが遅れたり、囲まれたりする。特にモンスターに囲まれるのはとても危険とされており、熟練の探索者ならまずそうならないように慎重に索敵をして進んでいくのが当たり前だ。
次に、撤退する際の退路が確保しにくくなる。
階層の間にはセーフポイントと呼ばれる安全地帯があるが、逆にいえばそこ以外にダンジョン内で安全な場所はない。
複雑化したマップは探索者を迷わせる。そして撤退ができずにそのまま全滅する、という事例が昔は多くあったらしい。
最近は情報が多く得られるようになり、全滅するような大事故はほとんどなくなったが、未踏のダンジョンには常にその危険がつきまとう。
神々の庭園については俺が調べているが、第八階層以降はまだ未踏となっている。そこからは何も情報がないのだ。
だからこそ俺は階層ごとにくまなく探索し、モンスターの情報とマップ情報をしっかり集めるようにしている。ソロだと特に、そういった危機管理がとても大切になる……とは師匠の言葉だ。
そして第二階層をあっさりと突破し、俺たちは第三階層に足を踏み入れた。
「……あれはなんだ?」
そこで俺の目に飛び込んできたのは、白と黒が混在した、見たことのない天使型モンスターだった。
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