第19話 初めてのパーティ


 結局、俺はシオンたちの提案を承諾した。


 やっぱり俺がルナスターズの配信に映るのは違う気がしたので、コラボとか配信とかはナシ。


 そう伝えると、シオンが「なら一緒にダンジョン攻略してくれませんかっ?」と食い下がったので、俺はそれを承諾した、というわけだ。


「へぇ……ふーん……タイチ、嬉しそうですわねぇ……?」


 そんな俺の話を聞いたカレンさんが目を細める。


 ここはダンジョン協会奥多魔支所。

 昨日のことを水瀬さんに報告しようと思ってやってきたら、なぜかカレンさんが待ち構えていた。


「そ、そんなことないですけど」

「本当ですの?」

「ほんとうほうんとう」

 

 そう言ってみたものの、本当は嬉しくてたまらなかった。だけどカレンさんに言うと面倒なことになりそうだったので嘘をついておく。


「あら、佐藤さん。おはようございます。今日はどうされたんですか?」


 支所の中に入るといつものように水瀬さんが俺に気付き、懐から栄養ドリンクを取り出して渡してくれた。

 

 ラベルには『凄万』と書かれている。どんどん進化している気がする。というか、こんなのどこに売ってるんだ?


「ちょっと報告事項がありまして」

「報告ですか?」

「はい。実は――」


 ここにきたのは他でもない。

 ルナスターズの二人と神々の庭園に潜る予定があることを水瀬さんに伝えるためだ。

 別に報告義務なんかはないのだけど、万が一のことがあった時のためだ。それにダンジョンの異常のこともある。

 

「る、ルナスターズと……ですの?」


 俺の話を横でこっそりと(いや、堂々と)聞いていたカレンさんが絶望した顔で呟く。


「ダメですか?」

「ダメということはありませんが……複雑ですわ……」

「佐藤さんの、初めてのパーティですね」

「待ってくださいましエレナ、私が初めてのパーティですわ! それは譲れませんっ」

「姉さんはたまたまダンジョンで出会っただけでしょう?」

「むむぅ……それはそうですが」


 水瀬さんのいうとおり、俺にとって初めてのパーティを組んでの攻略になる。

 今までずっとソロでダンジョンに潜っていたから、不安もある。二人に危険な目にはあって欲しくない。


「水瀬さん、俺にパーティのを教えてくれませんか?」

「まぁ……! 佐藤さん、私でいいんですか?」

「はい、もちろんです。水瀬さんは俺をずっと支えてくれていますから」

「うふ……そういうことだから姉さん、私たちは会議室に行ってくるわね?」

「ま、待ってくださいまし〜っ」



 俺と水瀬さんはこないだの会議室にやってきた。

 もちろんカレンさんもついてきた。


「さて……パーティについてでしたよね」

「はい。よろしくお願いします」

「といっても、私からお教えできることは少しだけです。まず、パーティには役割があって――」


 水瀬さんは初歩的なところから教えてくれた。

 パーティにはそれぞれ役割がある。


 まずはタンク。

 これは敵の攻撃を引きつけ、他のメンバーを守るパーティの盾役だ。タンクが崩れると戦況が一気に崩れるので、重要度は高い。ちなみに、カナデはタンクである。


 次にアタッカー。

 タンクが引きつけた敵を攻撃する火力担当。シオンがこれに当たる。俺もどちらかというとアタッカーかな。まぁ、ソロだったから役割という役割はなかったんだけど。


 最後にサポーター。

 これはパーティの支援役だ。荷物を持ったりダンジョンの地図を作成したり情報を集めたりする役となる。


 昔は必須のポジションだったけど、最近ではサポーターがいないパーティも多いらしい。昔に比べて、もうダンジョンの情報は出尽くしつつあるからだ。


 しかし、未踏のダンジョンを攻略する際には必須となる、重要な役割。俺はもちろんこれもやってる。ソロだから。


「――と、こんなところでしょうか。佐藤さんはソロだったと聞いていますので、全ての役割をこなしていたと言えますね」

「はは……」


 改めてソロだと言われると悲しくなるな。

 まぁ、戦闘において特に困ったことはない。ただ、ひたすら寂しいだけだ……。


「つまり、タンクのカナデさん、アタッカーのシオンさん、そしてオールラウンダーの佐藤さんのパーティはとてもバランスが良いといえます」

「なるほど」

「エレナ、私を忘れてないかしら?」


 隣でカレンさんが口を挟む。

 

「姉さんはアタッカーしかできませんので、役割は被ってしまいますね」

「やろうと思えばタンクもできますわ!」

「……佐藤さん、申し訳ないですけど姉さんも一緒によろしいですか? このままだと、多分黙ってついていきそうなので」

「もちろん俺は大丈夫ですよ。一応あっちにも連絡しておきます」

「ありがとうございます。ではパーティ登録はこちらでしておきますね」


 そう言って水瀬さんは書類をまとめ始めた。

 この四人なら、神々の庭園といえど楽勝かもしれない。不安要素があるとすれば、男一人で俺の肩身が狭そうなことくらいか……。


「ふふ、改めてよろしくお願いしますわ、タイチ!」

「こちらこそ、よろしくお願いします」





 そしてついにコラボ……いや、パーティを組んでの初めてのダンジョン探索。


 俺たちは神々の庭園前で待ち合わせることにした。


 そして、俺が到着したとき。

 その場にはピリピリとした緊張感が流れていた。


「あなた方がルナスターズですのね……? タイチは渡しませんわよ」

「た、タイチ……? どうして呼び捨てにしてるんですか?」

「それは私たちがベストパートナーだからに決まってますわ!」

 


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