第18話 予想外の展開
数日後。
今日は月影ルナさんと実際に会う日だ。
カレンさんは最後まで会うのに反対していた。どれだけ怖いのが嫌いなんだ。
あの後、カレンさんは家に泊まりたがっていたけど、さすがにそれは出来ないのでエレナさんの家に送り届けた。エレナさんが「すみません、姉がわがまま言って……」と謝ってる隣で、カレンさんは納得いかない顔をしてムスッとしていた。
待ち合わせの場所は、奥多魔支所の近くにある喫茶店。この辺りでは唯一と言っていい貴重な喫茶店だ。昔ながらのレトロな雰囲気で、人気のお店らしい。
俺は待ち合わせの十分前ほどに到着した。ちなみにこの喫茶店には入ったことはない。ぼっちゆえに。
「ふぅ……よし。行くか……!」
緊張しながらドアを開けると、カランカランとベルの音が鳴り店員さんがこちらにやってきた。
待ち合わせをしていると告げると、奥のほうの席に案内される。あらかじめ、向こうが予約の電話を入れてくれていたらしい。ありがたい。
「はじめましてボチダンさん。私が月影ルナです」
案内された席にはもう先客がいた。
黒縁の眼鏡をかけた女性と、その隣にサングラスをかけた二人の謎の人物。
月影ルナと名乗った女性は、肩までくらいの黒髪とキリッとした瞳をしたクール系美人だった。その挨拶に、「は、ははじめまして……」と、どもってしまう。
ついうっかり忘れていたけど、俺は人見知りだった。
最近人と関わることが多かったから油断していた。
「この二人は私の付き添いです。気にせずどうぞ」
月影さんの隣に座るサングラスの人物が軽く俺に会釈してくれる。一人はインナーカラーが入った髪色をしていて、もう一人は綺麗な黒髪をしている。気にするなと言われてもとても気になる。
というかこの二人、もしかして……いや、まさかな。
「本日はお忙しいところ、お越しいただき誠にありがとうございます。ちなみに今日の会話内容は絶対に口外いたしませんのでご安心を。こちら、誓約書です」
「は、はぁ……」
「ボチダンさんの個人に関する情報は決して口外しない、という内容です。サインをいただけますか?」
俺の個人情報なんて別にどうでもいいんだけど、有無を言わせない雰囲気だったのでサインをしておく。
「ありがとうございます。……では早速、お話をお伺いしても?」
「はい、大丈夫です」
月影ルナさんが優しく微笑んでくれたので、緊張が少し解けた。隣の二人は気になって仕方ないけど、一旦忘れよう。うん。
「ボチダンさんはこのブログをご存知ですか?」
月影さんがスマホを取り出し、画面を見せてくる。
そんなに俺のブログって有名なのか……?
「はい。ていうか、俺が書いてます」
「……っ!」
「なるほど。やっぱりそうなんですね」
納得したように頷くルナさん。
隣の二人は肩をぴくりと震わせ、サングラス越しにこっちをじっと見つめている。
特に明るい髪色の女の子の方は、ガタッと半分立ちあがって机に乗り出す勢いだった。え、なんかすいません……。
「なら話は早いですね。今回、私がメッセージを送らせていただいたのは他でもありません。ボチダンさんとコラボ配信をしたいのです」
「コラボ配信……ですか?」
まさかの提案に思わず聞き返してしまう。
隣の二人は答えを待つようにじっと俺を見つめている。サングラス越しに。
「はい。私……いえ、この二人とコラボ配信をお願いしたいと思っています」
月影さんがそう言うと、二人がサングラスを外した。
そしてその二人を見て、俺は驚きのあまり目を見開く。
「え……し、シオンとカナデ……!?」
「初めましてボチダンさん! ルナスターズのシオンです!」
「お、同じくカナデです……ええと、よろしくお願いします……!」
……ええと、ドッキリか何かかな?
「あ、ドッキリではありませんよ? この二人は本物のルナスターズです」
違ったらしい。
「あのとき助けてくれて、本当にありがとうございましたっ」
「ちょっ、シオンってば……!」
身を乗り出してきたシオンをカナデが止める。
一度出会ってはいるものの、目の前にルナスターズがいるということが信じられない。
それも、コラボ……? 俺と?
全く事態が飲み込めない。
「え、ええと……俺なんかでいいんですかね? もっと適役がいるというか」
「ボチダンさん以上に適役なんていませんよっ。あの神々の庭園を攻略しているんですよねっ? それも、
ぐっ……な、なぜそれを知っているんだシオン……!
言い訳をしたくなったけど、瞳をキラキラさせているシオンを見てその気は失せた。はい、俺がぼっちです。
「私たち、ずっとあなたを探していたんです。助けてもらったあの日から」
「あ、そうだ! これ、お返ししますね!」
そう言ってシオンが懐から二本のナイフを取り出した。
「これは……」
それはあの日回収出来なかった俺の武器、煉獄霧切丸だった。まさか返ってくるとは思ってなかったのでとても嬉しい。
「ありがとう、シオン!」
……あ、つい呼び捨てしてしまった。
ぼっちの距離感、下手くそすぎないか……?
「はいっ! ……それで、コラボの件、受けてくれますか?」
そんなことを気にした様子もないシオンが聞き返してくる。
うーん。コラボはとても嬉しいけど、正直言ってあまり気は進まない。ルナスターズの配信はあくまで二人の配信だからな。俺がでしゃばるのも違うというか。
まぁ、面倒臭いファン心理というやつだ。
「突然こんなことを言われても困りますよね。お返事はいつでも構いません。……ほらシオン、座りなさい」
「むぅ……わかりました……」
月影さんがそう嗜めると、立ち上がっていたシオンが席につく。ちょっと不満そうな感じのシオン。カナデはなにも言わず、俺をじっと見つめている。無言の圧がすごい。
「ええと、月影さんは二人とどういった関係で……?」
「あ、その辺りの説明がまだでしたね。実は私、二人のマネージャーなんです」
なるほど、そういうことか。違和感が一つ解消された。というか、マネージャーをしながら配信者としても活動しているなんて凄すぎるな……。
「まぁ、二人はほとんど自分たちで企画を考えて配信をしていますから、肩書きだけなんですけどね。それで、今回は二人から相談を受けて、少しあなたのことを調べさせてもらった、というわけです」
「お願いしますボチダンさん! コラボ配信、してくれませんか?」
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