第22話 戻ってきた理由2

 隙にはなっていたのかな?決着がついたタイミング的に。

 だとしたら意味があったってことになるから、意外といい援護が出来たってことでいいんだよな……?


 自分が活躍で来ていたのかが気になっていたら、すぐ近くにクワを持った羽アリが迫っていることに気づく。


 やばっ!?クイックバレット!


 反射的に高速の弾丸を放ったが、向こうの魔法障壁に阻まれる。

 攻撃を防がれたことで自分も防御壁を張ればいいことに気づいた瞬間、フィリス様が視界に入って羽アリは首と体が離れ地面に落ちた。

 

 ……助かった。羽アリのこと、目を離しすぎたか。

 ……というか、パニックなったのが良くなかったな。冷静に対処すればよかったもんね。

 あの距離感なら、防御壁は間にあってはいただろうけどさ。


「ありがとうございました」


「いえ、こちらこそセオドアさんの援護のおかげでなんとか仕留められました」


 フィリス様に感謝をしつつ、終わったような雰囲気になっているけど大丈夫だよなと思って辺りを見回す。

 その結果、生きている魔物は見当らなかったので、安堵と共にどっと疲れが押し寄せてきた。


 ほんっとうに疲れたから、帰りたいけど……。


「……どうしますか?」


「行きましょう」


 予想していた通り俺の願いはかなわず、地面に転がっている大量のアリの死体を避けながら、村へ向かっていく。


 異常な魔物の量から、アリの魔物たちを増やしている存在がいることを確信していた。

 街中で現れないような特殊な奴が三匹もいるからこの村なのかなと思いもしていた。

 ただ、さっきはそれだけじゃここだという確証にはならないし、限界がきている俺たちがさらに魔物が大量にいるところの探索をやるべきじゃない、という言い分も用意していたのであの時は帰ろうと提案することができた。


 でも今はもう魔物の追加はなさそうだし、こっちが優勢な状況で知性のありそうな羽アリが逃げなかったことから、引ける場所がなかったのだろうと予想がつく。

 つまりここが本拠地だということだ。

 元凶を放置して街に帰った場合、他の場所に拠点を移されてまた探さなきゃいけなくなったり数を増やされる――つまり被害が広がる可能性がある。

 別に他人がどうなろうと知ったことじゃないけど、フィリス様が決着がつくまで元凶を追いかけるなんて言い出したときのことを考えると、ここで決着をつけた方がいいだろう。


 だとしたらやらなきゃいけないかと体に鞭をうち、死体はないのに血の匂いがプンプンする村を歩き回る。


「ここですね」


 フィリス様の言葉を聞いて立ち止まる。目の前に見えたものは村の中でも一番大きそうな家屋だった。

 

 地面が赤く汚れている村を歩き回っているせいで血の臭いには慣れて鼻が麻痺しているはずなのに、この建物からは濃く感じる。


「自分が開けます」


 いつもは自分からは行動しないのだが、普通に動けているとはいえ何かの拍子で倒れ垂れても困るので、フィリス様に任せるのは不味そうだと判断し扉を開ける役を買って出た。

 建物に近づくごとにさらに血の臭いが濃くなっていくため、開けたくないなというためらいがありながらも扉の取っ手を引く。


「おえぇぇぇ」


 扉を開けた後に見えた景色に吐き気を催した。

 具合が悪くなりそうなほどの血の臭い、辺り一面に積み重なっているところどころ肌色の皮膚のようなものも混ざっている肉の塊や、そして今まで見たどのアリの魔物よりもでかい、まさに女王アリという表現が合いそうな魔物が肉の塊を口に運んでいたからだ。

 

「フレイムボム!」


 これ以上そのような光景を見たくなかったのと、さっさとこのやばそうなアリを片付けるべきだと本能が訴えかけてきたので、家屋一帯を焼き払う規模の魔法を放った。


「鎮火してください!!」


「あ、やべ!?リリースウォータ」


 フィリス様の言葉で家屋が燃え盛っているのに気づき、慌てて魔法で大量の水を上空から出現させる。

 その水は家屋を鎮火させながら、こっちにもかなりの量が向かってくる。


 やりすぎた!

 無駄に出力を出しすぎたせいで、勢い余ってこっちに水が飛んできちゃったわ。

 服がびしょびしょになって重いけど、……もともと汗ですごかったし、水浴びが出来たと思えばちょうどいい。

 でもこれ、フィリス様も浴びちゃってるよね……。


「やりすぎですよ」


「すみません」


 フィリス様に視線を合わせる前に、すぐに頭を下げた。


「中にいたんですよね」


「はい」


「……なら仕方ありませんね。いったん、ギルドに戻りましょう」


「はい」


 フィリス様は中の状況に察しがついていたのだろう。そのおかげで、俺のやらかしについてあまり言われずに済んだみたいだ。


 俺は安堵しながらフィリス様の姿がちらりと目に入る。


「あ……。これを着てください」


 俺は上着を脱ぎ、手に取った上着が想像以上にびちゃびちゃだったので雑巾を絞る要領で水気をある程度抜き、フィリス様のことを見ないようにしながら突き出す。


 少し肌寒くなるけどしょうがない。


「その、ちょっと見えちゃっているので。さっきまで汗びっしょりだったし、今は水でびしょびしょになってしまっていて申し訳ないですけど」


 村に入るときにちらっとフィリス様のことが見えたとき、服がボロボロで結構きわどい格好だったから片が付いたら上着を渡そうと考えていたことを思い出した。


 少し静寂が訪れた後、フィリス様は自分がどういう状態なのか把握してくれたのか、受け取ってもらえた。


「もういいですよ、セオドアさん」


「あ、はい」


 ……なんか、ズボンとか袖とかボロボロなのに茶色の上着だけほつれていないところを見ると、違和感あるな。

 魔物の体液のせいか、俺の水魔法のせいかは分からないけど、びちょびちょだし。

 もともと目立つ容姿をしているのに、こんな格好で町に戻ったら目立ちそうだな。これ以上どうしようもないから、しょうがないけど。

 というか、改めて見るとすげえボロボロだ。色々と規格外だし清楚なお嬢様という言葉が似合う見た目をしているから、今のような姿を見るときが来るとは想像したこともなかったな。

 そんだけ、今回はやばかったってことなんだろうけど。……良く生き残れたな。


「どうしたんですか?こちらをじろじろと見て。……もしかして、衣服がボロボロなのを言わなかったのは、私のあられもない姿を観賞していたんですか!?それで今は、自分のベストを着ている私を見て楽しむつもりで!!」


 フィリス様は頬を赤らめ、身の危険を感じてか体を隠すように腕をクロスさせる。


「え!?いや、あの。いつも返り血一つついてないのに今回はボロボロだなっと。それに、ベストを貸すまではあまり見てないですからね!」


「ふふ、分かっていますよ。ベスト、ありがとうございます」


 フィリス様のにやにやと笑みを浮かべお礼を言ってくることから、冗談だったということを察した。


 女の人からのそういう冗談、心臓に悪いからやめほしい。フィリス様が貴族であるということも込みですげえ焦ったわ。

 フィリス様レベルの美人だとなんか責めづらいのも、ちょっとずるい。

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