第8話 経緯
はあ、何でこんなやつを勧誘しなくちゃいけないのかしら。
あたしはそんな愚痴を言いたくなりながら、先ほどあったお嬢様との会話を思い出す。
「お嬢様、なぜあんな好条件でEランク冒険者を向かい入れようと思ったのですか?」
「彼のことが欲しかったからです」
「それは分かりますけど……、理由が分からなくて」
だって、見ていても何も感じなかったのよね。あの冒険者。
「そうですね……。一番大きな理由は、冒険者ランクでたとえるならばCランクの近接戦が得意な相手との一対一で善戦していたからです」
「それは……、確かにEランク冒険者にしてはすごいですけど……。ただ単に実力を隠していただけでは?」
「ディアはセオドア様からはその隠していた実力を感じ取れましたか?」
「……いいえ」
近接戦が得意でそこそこな実力がある者と善戦、それを成したにしてはセオドアという人物の動作はズブの素人だったのよね。
接触は一瞬ではあったけど、武を
だから魔術師なんだろうけど……。
そうだとしても、魔術師が近接職と一対一で戦って勝つには、ある程度の実力差が必要なはず。
「それにデイルという冒険者はスピードを生かした戦い方を得意としていました」
「まさか!?」
あんな素人同然のやつが!?
だってその辺の一般人よりも酷い身体能力だった奴が、スピードを生かしてくる攻撃に対応できるわけがない。
それに身体強化の魔法を使ったところで、体の動かし方が分かってないとまともに動かせないってことになるはず。
だとしたら、戦闘のセンスとか魔力量がずば抜けているとかそんな天性的な何かでその場を切り抜けたってことになるわね……。
「セオドア様はまだ実力不足であるのかもしれませんが、これからの将来性が高いと考えています」
もしお嬢様が言っていることが本当なら、体の動かし方を覚えるだけでも一対一においてはかなり変わってくるはず。
それに本来の魔術師としての運用を考えれば、今からでも即戦力になるレベルだと考えられるわね。
「お嬢様の話を聞いてわたしもその可能性も感じましたが、結局フラれてしまいましたね」
「ええ、残念なことに……」
あたしはそういうやつ嫌いだから、ありがたいけど。
「ああ。そういえば、もう一つセオドア様を招き入れたい理由がありました。私が白銀の騎士だと知られてしまったというのもありますね」
「なっ!?何でそのことを言わないんですか!?」
今になって何でそんな重要なことをさらっと言うのよ!?
そんな相手逃すわけにはいかないじゃない!?
「今言いましたよ」
「そうではなくて、何で先に言わないのかと聞いているんです!」
「それは勧誘した一番の理由について話していたからですよ。そんなことよりも、こんなところで話し合っていたらセオドア様は遠くに行ってしまいますよ」
ごちゃごちゃと理由付けしているけど、あたしがあたふたしている姿を見たかっただけでしょ!この腹黒お嬢様!!
「行ってきます!」
そういう経緯があって、あたしはこのやる気の感じられない男を追っ掛けてここにいると。
あー思い出しただけでもまた腹立ってきた。
「あの、護衛って具体的に何をすればいいんですかね?」
「知らないわよ、そんなの。あたしから答えられることなんてないから、とりあえずついて来て」
「……はい」
こいつ、なにか言いたげね。まあ、どうでもいいけど。
さっさとこいつを屋敷まで連れて行って、明日の休憩中にでもエリーゼ店のちょっと高めなショートケーキでも食べに行こう。
そうじゃないとやってられないわ、まったく。
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