第30話
少年がまた影を斬った。これで何体目だろうか、ここに来てからしばらく経っていた。
ふと後ろの路地の闇を見た。膨らんだ闇。なんだろう。何かいるのだろうか。
「誰かいるの?」
ヌっと路地の闇から女の子の白い顔だけが出てきた。
「あなたはだあれ?」
「僕は龍太郎。君は幽霊?」
「さあね」
女の子はそう言ってぴょんと闇から出てきた。脚がある。さっきまで倒していた亡霊みたいな奴らとは違う。人間のようだった。
「何か用?」
「あれ、困ってないの?」
「困る? なんで?」
「この世界が怖くないの?」
「怖くないよ。気に入っちゃったよここ」
律はかなり変わった人間だと思った。ここを気に入るなんてのは普通ではない。律のようなここの住人でさえ気に入ってるなんて者は皆無だ。
「あなたは死にたがってるわけじゃないの?」
「あー、どうなんだろうね死にたいかもしれないし、生きたいのかもしれない」
「そっか、そういうこともあるよね」
「うん、君はお助けキャラみたいな感じなのかな」
「キャラ? んーそうかもね、ここに迷い込んで来た人を影から守ってる」
「そうなんだ、じゃあいらないや」
律は驚いた。助けをいらないなんていう人間に初めて会ったからだ。
「なんで? あいつら次々襲ってくるよ」
「僕、攻略本とか見ない主義なんだ。ゲームは一番難しくしないと楽しめないじゃん。自力でやるのが楽しいんだよ。それにあいつらと戦うの楽しいし」
律はあきれた。
「身体乗っ取られたり殺されるかもしれないよ?」
「いいよ別に、そんときはしょうがないよね、僕が選んだんだから」
なにを言っても無駄なようだった。
「そっか、じゃあ頑張って」
律は背を向けて帰っていった。
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