第2話
机に座る一人の少女。
黒板に当たるチョークの音。男性教師の声。当てられる生徒が回答する。ノートをとる生徒。チャイムの音。挨拶。教室を出る教師。消される黒板の白い文字。
少女は誰とも話さない。一言も口にしない。本を読んでいる。
時計がぐるぐると回る。
教室の朝と夕がぐるぐると回る。
周りの人間がめまぐるしく動いた。
少女だけが動かなかった。
一人だけ時間が止まっているようだった。
少女は成長し、髪が伸びて、眼鏡をかけて、おさげ頭になっていた。
私服から制服になり、教室で一人孤独に本を読んでいる。
相変わらず、誰とも言葉を交わさなかった。
クラスメイトが楓の机にぶつかった。
「ごめんっ」
少女は視線を落としたままこくりと頷いて応えた。それだけだった。
私に友達はいない。学校にいっても、クラスの誰とも口をきかない。話しかけられても私は小声で少し返事をするだけだった。いじめとかは無いけれど。周りのみんなは私に話しかけてくることなんてほとんどない。腫れ物扱いだ。これが嫌な訳ではない、むしろ、誰とも仲良くなりたくなかった。担任の先生も業務的に話しかけてくるだけ。とても楽だ。変な気をつかわなくて済むから。図書委員として委員会に所属している。本は良く読んだ。部活は家庭に入っている。本当は何処にも所属したくないけれど。学校に行って、放課後は図書室にいて、帰って、宿題をして、一日が終わる。それだけ。みんなみたいに休みの日に友達と遊ぶなんてことはしない。友達なんていないから。私と遊んでくれる人なんていないから。家ではテレビをぼーと眺めたり、本を読むか掃除をしている。何かやりたいことがあれば違うのだろうけど、これといってやりたいことも、特にない。いらない。
ファミリー用マンション、3LDKのリビング。目の前には父と母が座っている。ジャージ姿の楓。
晩ご飯を食べていた。無表情で、会話もない。じっとハンバーグを見ているだけ。
コーン。人参。ドロドロのソースが皿に落ちる。
こんにちわハンバーグ君。
こんにちわ、君は僕を食べてくれないの?
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