第3話

 そうね、ごめんね。

 なんで食べてくれないの? 食べてほしいな。

 食べたくないし、お腹すいてないの、無理に食べても戻しちゃうし。

 それじゃあ、元氣でないよ?

 いいの、これが私だから。

 一口食べたら?

 そうだね、じゃあ一口だけ。

 ソースの味。

 これだけで胸がいっぱいになった。

「ごちそうさま」

 楓は晩ご飯を殆ど残して席を立った。

 自室に戻って、ベッドに寝転がり、手を伸ばして本を手に取ってパラパラと本を繰る。流れる文字と音律を追った。意味とかは別に分からなくてもいい。想像もできなくてもいい。文字をひたすら追いかけていく。眠くなってきた。電気を消した。

 学校の図書室。淡いアイボリーのカーペット。大きな窓から外の緑の葉が風に擦れる音が流れこんでくる。今日は誰もいない。楓はカウンターに座って本を読んでいた。

 誰かと会話をしたり、笑いあうなんて、私には必要なかった。いや、そんな相手を作る資格なんてなかった。友達を作るのが怖かった。失ってしまうのが怖かった。りっちゃんのように親友を失ってしまうのはもう嫌だ。失って絶望するより、最初からいないほうがいい。一人でいい。独りがいい。

 闇の中で独りしゃがむ。

 うずくまる。

 死のうとも思ったことがある。

 私の手首には切り傷がある。普段は腕時計で隠している。人がこの傷跡を見たら、きっと驚くだろう。いや、見てみないふりをするのかもしれない。普通は無いモノだから。

 死のうとした。けれど、簡単には死ねそうもなかった。本当に死ぬ勇気なんてさらさらなかったのかもしれない。

毎日暗闇の中にいるみたいだった。ぐるぐるぐるぐる、同じ場所を泳いでる。手首から血が流れて、闇に広がっていった。癒えない傷口から広がっていった。


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