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満月の夜、月明かりに照らされて




「チッ、また喰われてらぁ。今夜だけで何体目だ?」



満月の夜、冷たい月明かりが残酷なまでに浮かび上がらせるのは、無惨に倒れた者の静寂な姿。



「さあな。数えててもキリがねえだろ。…にしても、こいつァまた派手に殺られたなあ」



刀の冷たい切っ先が、息絶えた者の無惨な姿を躊躇いなくなぞる。


仰向けになったソレは、かつて人であった名残を残しながら肉を無慈悲に抉られ見るも無惨に引き裂かれていた。



「俺らの仕事は死体処理じゃねえっつーの」


「とにかくまだ妖が近くにいるかもしれねえから、俺らも気を付けねえとな」



そうして男二人は倒れた死体の処理にいそいそと取り組み始めた。






ーーー良かった…

こちらの存在には気付かれていないみたいだ。




今宵は満月の月明かりが暗い夜道を照らすせいで、悪事がすぐに白日の下に晒される。


今だ興奮するように震える手を抑え、壬生浪士組の見廻りを茂みに隠れて様子を伺っていた。




あと少し反応が遅ければ鉢合わせる所だった…

まさかこんな人里離れた所にまで壬生狼が見廻りに来るなんて誤算だった。




まだこの場に充満する血の匂いに惑わされ、視界が霞むように意識が奪われていく。




気を確かに持たないと…

このままここで倒れでもしたら、壬生狼に捕まって、その先は地獄が待ち受けているに違いない。




大きな茂みを背にその場から離れようと立ち上がった時だった。


血の匂いに魅せられたわたしは、視界がぐらりと揺らぎ、バランスを崩し、抗う間もなくその場に倒れ込んでしまった。




「何奴!!!」


ーーーああ、気付かれてしまった。




大きな音を立てて倒れたわたしのもとに抜刀しながら駆け寄ってくる男を横目に、わたしの意識はそこで途絶えたーーーーーー。






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エンド・オブ・ザ・江戸・ピリオド @kikiberu510

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