第43話 解放の鐘
予期せぬ性交渉許可証の効果によって、富山深雪さんは混乱状態へと陥った。
僕と玉藻くんは協力して彼女を治めようと試みるも、フィジカルの覚醒によって困難を極める。玉藻くんの拘束は剥がされ、僕へと襲い掛かった富山さんは共に転倒。それを防ごうと出した僕の手が、彼女の腹部へ深々と突き刺さり、その衝撃によって動きを静止させる事に成功した。
「シンタローくん! 丁寧な動きで、手の平に熱を込める様に動かすんや!」
「そんなこと言うなら玉藻くんが代わってよ!」
「アカン! こうなったのは詳細を知らずに許可証を深雪ちゃんに見せた自分の所為やろ! 責任もって物事を治めんと男として許されんわ!」
玉藻くん指導のもと、僕は富山さんの腹部を捏ねまわしている。力加減が難しく、少しでも加減を間違えると、この技は不発となってしまうのだという。
相手を後ろから支え、左腕で頭を包み込むようにして抱きかかえる。彼女の身体を全て支える形で下腹部への刺激は継続される。
偶然発動した【
「おぉーっと! ふたりがかりで何やら女性の腹部を揉んでいる様です! 相手の女性が苦しそうに身体を捩っておりますが、マウンティング技術なのでしょうか⁉」
全然関係ない女性がマイクを片手に実況を行っている。本当に誰なんだよ。
「外野がうるさ過ぎる……!」
マウンティングバトルという知らない概念と勘違いしているせいなのか、僕たちの行いは公でも問題行動とはならないらしい。どうなってるんだ
「んぉっ……♡ んぐっ……♡」
「これはー? 仲直りかー? 不思議な技術で少年が少女の腹部をこねているぅ!」
この際実況は無視して、僕は富山さんのストレス解消に全力を注いだ。波の様なものが僕の中で可視化され、押し込むタイミングと込める力によって、その波は次第に大きくなっていくのを感じる。
まるでブランコに勢いを乗せて漕ぐ時の様に、イメージの中で波を大きく立てていく。すると、彼女の反応が明らかに変化していくのを実感できた。
「少女の反応が明らかに高まってきております! これは解放も間近でしょう! あの少年はそれほどまでにテクニシャンなのでしょうかーっ!」
「あの少年すごいわ! 腹部を押さえ込むだけであの悶え様! 早く仲直りして!」
「変則マウンティングバトルだと思ったのに! イチャイチャしてんじゃねーぞ!」
外野が何やら口出しをしているが、心なしか周囲の輪が狭くなっている様に思える、しかし今はそれどころではない。身体的ストレスを発散させ、彼女を救わなければならないのだから。
「悶々する気持ちと云うのは、生きている以上、誰にでも起こり得るもんや。深雪ちゃんの様に根が真面目な子は、その発散方法を知らん場合が多い……。身体と精神のバランス、特にこの時期は繊細で脆い。ガス抜きせんと、いつか予期せぬ形で爆発してまう。深雪ちゃんを助けるんや、シンタローくん。キミの手で……!」
きっかけは恐らく、きらら先輩に襲撃されて宝剣が目の前に晒された事。それに加え許可証の発動と濃縮フェロモンが重なり、彼女のストレスは臨界点となったのだ。
押し込む行為が百回を超えたあたりで、大波が訪れる。それに合わせて彼女の腹部からさらに下へと気を流す。腹筋下部が終わり内股へと差し掛かるあたりで、手を大きく広げた状態にし、大波を押し返す要領で深く手の平を押し込む――
「ふっぐ……! ふっぐぐ……! ふっ……!」
「アカン! 少し強い! 体内で陰の気が爆発すれば、最悪命に係わる!」
呼吸が浅くなり、大波を迎えようとしている。しかし、この技は相手を追い込むものではない。彼女が自由に快感を得られるよう、決してテンポと力加減を変化させてはならない。あくまで女性側が主体でなければこの技は成立しないのだという。
「んっ♡ んんーっ♡♡♡」
支えた身体が痙攣し、捩りながらその場から逃げ出そうとしている。玉藻くんの方を確認すると、小さく頷き継続した。周囲の女性もそれを食い入るように見つめ、生唾を飲む音が数多く耳に入る。
『ぐぎゅっ……!』
仕上げと云わんばかりの押し込みが成立すると、富山さんの全身から仄かに甘い香りのする、桃色の蒸気が機関車の如き勢いで放出された。
「そう、それが【陰気】や! もう大丈夫やで! 深雪ちゃんは助かったんや!」
玉藻くんの発言を経て、僕はようやく肩の荷が下りた。気が付けば周囲の女性たちは、僕たちの行為を食い入るように見入っており、齧り付きで見学していた。
「お騒がせ致しました! もう容態が落ち着きましたので、ご安心ください!」
「これにて終了ーっ! マウンティングバトルは少年の勝利で幕を下ろしました!」
野生の実況が高らかに宣言すると、ギャラリーは次々と解散していった。そして、何事もなかったかのように街は本来の形へと戻っていく。
僕たちは眠ってしまった富山さんを抱きかかえ、近くにある公園のベンチへと向かった。生憎と寝かせる事が出来なかった為、お姫様抱っこの状態を維持し、目覚めるのを待っていると、数分もしないうちに目を覚ました。
「良かった、このまま目覚めてくれなかったらどうなる事かと思った……」
「深雪ちゃんの家は分からんし、どうしたもんかと思ってけど、良かったわ」
玉藻くんとふたりで肩をなでおろしていると、富山さんが自身の現状を徐々に把握し始めた、後輩とは言え男にお姫様抱っこされると云うのは流石に恥かしかったのだろう、慌てた状態で立ち上がろうとする。
しかし、自分の意識している力以上のものを発揮した所為か、上手く体は動いてくれず、富山さんは僕に抱かれたままの状態で硬直してしまった。
「深雪ちゃん、自分の身に何が起こったか憶えとるか?」
「わ、忘れたい……!」
耳まで赤くなり手で顔を覆い隠すその様子は、複雑に入り混じった羞恥を物語る。彼女は我を忘れたとしても全て記憶しているタイプの様で、自分が暴走した事もすべて憶えており、僕の慰安術で気持ちよくなってしまったのも憶えていた。
「愛美くん……責任取って……! あんな衆人環視のもとで快楽を感じるなんて……この先どういう生き方をしたらいいか分からないわ……!」
「せやな、シンタローくんの不注意が招いた事故や、こればっかりは男として責任をとらなアカンやろ。それに、深雪ちゃんは遺伝子上相性がええみたいやし、お似合いやん? 国も許している事だしくっついたらええねん」
「た、確かに僕が許可証の正体に気付いていれば、あの様な事象は起こり得なかった……。だ、だけどそれで富山さんはいいの……? 身体の相性だけでパートナーは決まるものじゃないのでは……?」
ちらりと視線を送ると、富山さんは目を反らしながら口を開いた。
「……嫌じゃないわよ。というか、御木本さんには悪いけど身体の相性が抜群の相手と出会える確率は百万分の一と云われているわ。わたしはこれを逃すつもりはない」
抱きかかえた腕へと弱弱しく力が伝わる。先程とは打って変わり、これが彼女本来の力加減なのだろう。きらら先輩のアグレッシブな行動から始まった事故だけど、女の子にここまで言わせてしまうのは男が廃る。僕は覚悟を決めることにした。
「僕はまだ、富山さんの事を何も知りません。知っていると云えば身体の相性だけなのですが、これから少しずつ知っていきたいです……! いつか身体だけでなく、心でも好きだと思ってもらえる男になります。なので、僕の彼女になってください!」
「……! 御木本さんの事があるから、てっきり断られると思ってたけど……。堂々と二股宣言するって事ね……! わたしとしては、責任を取ってもらえればなんでも構わないけれど……あの子にはちゃんと説明してあげなさいよね……?」
「は、はい……!」
こうして僕は、二人目の彼女として、富山深雪さんと関係を持つ事となった。
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