第32話 都合の良い矛盾
余計な希望を持たせる訳にはいかない為、僕たちの行いは成功の目途が立ってから
一番最初に行ったのは、医療スポーツメーカーの開発した膝サポーターの設計図を取り寄せ、それをアヴァロンとネクタルで解析、きらら先輩の医療知識と僕の経験を照らし合わせ、フィジカル面に影響のないサポーターを考案したのだが……。
「アホ程予算が掛かるねぇ!」
それはそうだろう。理論上は完璧となるようなサポータであったとしても、材料から構成構築までを行うのには明らかにプロの技術が必要になる。機械を用いてブループリントすれば解決するような問題ではないのだ。
「成功するかもわからない代物にこれだけの予算をつぎ込むのは不可能、というよりも素材の頭金すら用意するのは難しいだろうな……」
「材料費だけで数百万。縫合や構成の技術面でさらに数百万か……。この設計図ってメーカーに売り込んだり出来ないのかな?」
「御木本あゆみクンの言っている事は理解できるが、これを求めているメーカーは居ないだろうねぇ。上昇するフィジカル面を削る必要なんて普通はないだろう?」
スポンサーなどが絡む成年向けのスポーツであれば、サポーターによるフィジカルの向上はルールに考慮されていない。道具を含めた総合力による結果が求められているので、高校生が行うスポーツとは根本的に意味合いが異なるのだ。
そもそも筋力が常人の数倍ある人間を想定し、モノ作りを行っている医療スポーツメーカーは存在していないだろう。需要の層が余りにも狭すぎる。
あくまで公式大会で実用可能なサポーターでなければ、僕たちは作る意味がない。鬼怒川さんに秘められた才能の芽を摘まない為に、この計画は動いているからだ。
「ルールの変更を求めるのも難しいなら、ルールの穴を突くしか方法がないねぇ」
きらら先輩はインターハイのルールブックを読んでいる。僕たちが気を付けなければならないのは、補助具における性能の度合いについてなのだが、ルールには、装着するサポーターにおいては、使用者が本来持っているフィジカルを超えるものを装着してはならないとなっている。
高い反発性を持つ素材のアイテムなどは、【不正な助力】を生むものとして、原則禁止とされている。競技種目によってはそれらの制限がないものもあるが、鬼怒川さんの出場していたのはメジャーな陸上競技である為、該当しないという。
脚を支える為には、高反発素材を使用したサポーターを使わなければならないが、それによって能力が向上してしまうと出場できない。というジレンマは本当に厄介な問題であり、長年解決しなかったのも頷ける。
「脚から生み出される力を、上手く分散させて走る事が出来れば……」
「彼女の走るフォーム映像を見たことがあるが、まったく参考にはならなかったよ。ゼロからのスピードが尋常ではない。即座にトップスピードまで持っていける彼女の瞬発力には全人類が脱帽するだろうねぇ……」
「それじゃあ、今から脚を庇う走法を学ぶのは無理か~」
あゆみちゃんは、出て来た案をホワイトボードに書き記しているが、それの悉くがバツ印で消されている。実現するには問題が余りにも多過ぎるのだ。
「画期的な技術でパッと問題が解決してくれればなぁ~……」
「そんな都合よく行くわけがないねぇ……。むしろ鬼怒川こみちクンの筋力を下げる方向で動く方が、遥かに健全だとわたしは思うんだが……」
「フィジカルを下げるか……。それならば大会側は文句を言ってこないだろうけど、本末転倒も良い所なんだよな……。不動巻きの一種にハンデ戦を行う時に使用する、
「愛美慎太郎クン、どうやら何か思いついだようだねぇ」
「きらら先輩! バンテージやテーピングの項目に規制ってありますか⁉」
きらら先輩はルールブックを開き、確認をする。
「特に巻き方などについては規制はないみたいだよ? あくまでテーピングは怪我を予防する行為だからねぇ……。一応選手に無理をさせて競技を続行させる様な非人道的な行為に関しては禁止されているが、それに該当する事をキミはやらないだろう」
「出来るかも知れません。鬼怒川さんの筋力問題をクリアする事が……!」
希望を見出すのは一筋の光。いや、迸る白銀の雷光だった――
あまり長居するときらら先輩に迷惑が掛かる為、程よい所で解散となった。あゆみちゃんとは駅で別れ、僕は寮へと歩き始めた。そこで重要な事を思い出す。
「こっちから連絡する方法は無いんだった!」
玉藻君には僕の電話番号と住所をメモして渡してはあるのだが、こちらから連絡を取る手段はない。猫猫さんのバーには電話は設置されていないし、誠心会の件もあってか、わざわざ闇の世界に関わらない様に気遣いまでしてもらったのに、どの面下げて会いに行けばいいのか……。
そう悩みながら寮へと帰ると、玄関に見覚えのある靴が置いてある。白に紫のラインが入ったゴツイスニーカーだ。
「しんたろ~おかえり~! お前の友達が遊びに来てるぞ~!」
出迎えてくれたのは
「シンタローくん、おかえり~!」
「ただいま。というか……玉藻くん、猫猫さんに追い出されたの?」
「ちゃうねんて、大太刀のおっちゃん、どうやら一週間近く温泉旅行や~云うて店を閉めとったんよ。結局会えずじまいでな? 一日くらいなら24時間営業のファミレスとか漫画喫茶とかで耐えようかと思ったんやけど、一週間は無理やろ。だからシンタローくんを頼って来たんよ」
「まぁ、事情があるなら仕方ないよね……。急な事過ぎて全然話通してなかったよ」
僕は改めて
「そういうことなら泊っても構わないわ。ただ、あゆみちゃんはこの事を知っているの? 彼氏が知らない子とお泊りなんて知ったらびっくりするんじゃないかしら?」
「美憐さん、玉藻くんは男の子ですよ」
「「ええぇーっ⁉」」
「こんなに可愛いのに⁉ 男の子なの⁉ 長い銀髪で小さくて⁉ 無駄な毛も生えてないのに⁉ おねーさん女の子だとばかり……!」
蓮花さんは玉藻くんを目の前にして信じられないものを見ている様子だ。確かに、彼は紫に輝く瞳を持ち、銀髪の長髪で身体の線も細く、小さくて可愛い顔をしている。僕も初見は普通に見間違えた。しかし、首元や肋骨骨盤の作りなんかは確かに男の特徴をしている。
「こっちに来てからは間違えられてばっかりや……。桃郷だと男は本当に珍しい存在なんやなぁ……。これで信じてもらえる……?」
玉藻くんがシャツを捲り上げ、胸と腰を見せる。胸は小さい女の子も居ない訳ではないが、腰にくびれが無い所は男性的な特徴として見受ける事が出来る。
「だだだ、ダメよぉ! 玉藻くん! 大事な身体をそんな簡単に見せちゃ……!」
美憐さんが顔を手で覆うが、その指の隙間は余りにも大きかった。小柄なりにも鍛え上げられ、前鋸筋や腹筋などがしっかりと浮き出ている身体に美しさすら感じる。
芸術品の様に整った身体のバランスとしなやかさ、この身体で破壊力抜群の雷靭脚が繰り出されている事を考慮すると、僕の考えは確信へと変わった。
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