第29話 不安の種
僕たちは無事にジャージに着替え、体育館で授業を受ける。最初に全体で体育委員指導の下、軽い準備運動が行われた。その後、二人一組になって互いを補助しながら体をほぐしていく過程に入るのだが、案の定。僕の体に合う女子はおらず、途方に暮れていた。
「しんちゃん! アタシ達とペアストレッチする?」
「御木本さん、それもうペアストレッチじゃないでしょ? 三人なんだし」
あぶれた僕を見かねて、あゆみちゃんが
「お心遣い感謝します。しかし、僕の体重はお二人の二倍はあるので……」
そう。僕の体重はもう100キロに近い。これで体脂肪率は12パーセントだから、太っているという訳ではないのだが、ペアには体重を預けるストレッチ種目がある為遠慮することにした。
「あの……。愛美くん……わたし、あぶれたので……一緒にぃ……!」
「
「ぐぬぬ……! そうだねぇ、アタシだと身長足りないし、鬼怒川さんに任せた! それじゃあ、また後でね、しんちゃん!」
留萌さんの言葉に納得し、あゆみちゃんも自分たちのストレッチに戻った。
「……。鬼怒川さん、その、大丈夫なの? 足の方は……」
僕は周りに聞こえない様、小声で耳打ちをした。
「はいぃ~。 サポーターがあれば、全力で走らない限り問題ないんですぅ」
「ならいいんだけど、なんかあったらすぐに知らせてね」
「ありがとうございます。愛美くん。優しいんですねぇ~」
こうして、僕たちふたりでペアストレッチが始まった。前屈などの種目は問題ないが、肝心なのは体重を預かる種目だ。【担ぎ合い】と呼ばれる、背中同士を合わせて担ぎ、背骨をストレッチさせるものだが、これが男女で上手く行くのか心配だ。
「それじゃあ行くよ。いちにーさんしー、ごーろくしちはち!」
最初に僕の方から担ぎ、十分にストレッチが掛かる様に伸ばしていく。
「んーっ……♡ んんっ……♡ んぐっ……♡」
背中越しに柔らかい感触が伝わる。筋肉は勿論あるのだが、全身に纏った女性特有の皮下脂肪が僅かな反発を生みながら、身体に密着する。体温も相まってとても感触が良い。そして、なんだか声が悩ましい様な気もする。
『ひそひそ……うわっ……鬼怒ちゃん、おっぱいすご……』
『なにあれ、デカ過ぎるでしょ……! いや、体全部デカイんだけどさ……』
やはり背屈を行うとボディラインが強調されてしまうのだろう。周囲の女生徒たちも注目する程に、鬼怒川さんは身体のあらゆるボリュームが優れている。懸命に体操を行う彼女からは、ミルク石鹸の優しい香りが汗に混じって漂う。
「次は、愛美くんの番ですぅ~。わたしこんなんでも、ちゃんと力持ちなので、安心して体重をかけてくださいねぇ~!」
「お願いします!」
僕の番になり、担ぎ合いからの背屈が行われた。自分で言うだけあり、鬼怒川さんは僕の巨体を平然と持ち上げるだけの筋力を備えている。全身の力をバランス良く使い、僕の身体は余すところなく伸ばされていく。
「いちにーさんしー、ごーろくしちはちっ!」
両手首が掴まれた状態で伸ばされるので、背骨から肋骨、腰から脚にかけて十分なストレッチが掛かっている。この練度は明らかにスポーツを経験している人の技だ。
続いて柔軟体操。開脚柔軟は得意ではない。僕の身体には殆ど柔軟性という機能が備わっていない。特に太ももから
「愛美くん、足回りがとっても固いですねぇ~。もう少し、強く押しますねぇ~」
最初、両腕で背中を押してくれていた鬼怒川さんだが、僕の身体が余りにも固い為、身体全体で押す事になった。もう、全身が柔らかい。押されるたびに顔に匹敵する大きさの胸が押し付けられ、柔軟性は益々失われていく。
「おかしいですぅ~。何かストッパーの様なモノがあるみたいに身体が固まっていますぅ~……。筋肉が阻害しているのか、もう少し、開脚の角度を広げてみましょう」
いやまぁ、筋肉というかチン肉というか……。ズボンの脚側に逸らしているので大事には至ってないが、鬼怒川さんのボディが柔らかすぎて反応してしてしまう。
「え~い! よいしょ~!」
「おああ……おあ……!」
ぎちぎちと宝剣が食い込む。これ以上上体を倒せば脚の穴に流した宝剣が引き延ばされてしまう。どうすればよかったんだ……! お腹側に逃がせばよかったのか!
後悔してももう遅い。既に決まったポジションを、今更変える事なんて出来ない。こんな事の為にジャージのサイズをふたつ大きくしたのに、収納するゆとりが余りにも少なすぎる。ひとりで確かめた時はこんな事にはならなかったのに、女の子と接触するだけでこんなに力を漲らせるなんて……!
「どうやら僕の柔軟性はここまでの様だ……! 鬼怒川さん。僕はここで諦めるよ」
「そうですね……。あまり無理をしてもストレッチは逆効果ですから……あっ!」
鬼怒川さんの視線は読めないが、どうやら僕の股間に注がれている様だ。
「す、すみませぇん! わたしの押し方が悪かったからぁ……!」
「大丈夫ですよ鬼怒川さんは悪くありません! 僕の身体が固いだけです!」
「いいえ! そんなに腫れているのに、気が付かないなんて! 治療します!」
「えっ⁉」
何を思ったのか、鬼怒川さんは僕のジャージを降ろし、宝剣を剥き出しにした。パンツごと一気に足首まで下ろされてしまった為、防ぐことが出来なかった。体育館の空気に、僕の宝剣が晒される。
「さっきの腫れている所は何処ですか⁉ 脚に異常が出たら大変です! ……あれ? 愛美くん……? 愛美くんには足が三本あるんですかぁ~⁉」
どうやら彼女は、僕の足側に流した宝剣の所為で、足が大きく腫れあがっていると勘違いした様なのだが、どうやら男性のものを見たことがないらしい……。
「大変ですぅ~! 先生ぇ~!」
「呼ばなくていい! 呼ばなくていいですから! 仕様ですからぁ~!」
鬼怒川さんの呼びかけに応え、即座に体育の先生が駆け付けた。生徒のピンチに駆け付ける教師の鑑である事は確かなのだが、今この場では勘弁してほしかった。
「先生! 愛美くんの脚が三本にぃ!」
「ど、どういうことなの⁉ 鬼怒川さん⁉ キャーッ⁉ 愛美くん⁉ どうしたのそれは⁉ 毒蜂か何かに刺れたの⁉」
先生は先生で、僕の宝剣が明らかに大き過ぎる事を異常事態だと思い込んでいた。
「いえ! ノーマルのサイズです! 多少の隆起はありますが、正常の範囲です!」
「そんなわけないでしょ⁉ 教科書には最大は平均値12センチから15センチと書かれているのよ⁉ 二倍以上あるじゃない! 何かの病気⁉ 良く見せなさい!」
この後、他の生徒に呼ばれた保険の先生も駆け付け、僕の宝剣の大きさについて議論された。毒や病気なのかも疑われたが、散々説明したが納得してもらえず、保険の先生の到着によって、この場における簡易的な検査が執り行われた。
「ご、ごくり……! 私も、医学研修の映像でしか見たことがありませんでしたが、ここまで立派なものは初めて目にしました……。愛美くん、本当に痛くはないのですね……? これだけ大きいのですから、血液が集中して体内の血液が足りなくなるのではありませんか? 頭痛はありませんか? 貧血は?」
眼鏡を何度も正しながら、保険の先生が僕の宝剣をまじまじと眺めている。もう見られるのは慣れた。慣れるしかない。
「ですから、問題はありませんって何度も言ってるじゃないですか……!」
僕は納得のいかない先生たちとギャラリーに囲まれ、体育館で下半身を晒した状態になっている。
『カシャ……!』
「誰だ! スマホを持ち込んでいる奴は! 愛美の人権を考えろ!」
体育の先生から物凄い怒号が飛んだ。その迫力に、写真を撮った女生徒はビビりまくっている。
「ご、ごめんなさい……! 初めて見たから……! つい……!」
「最悪、見るのは構わないんですけど写真は勘弁してください」
この言葉をどう受け取ったのか、女生徒たちは自分も見たいと前のめりになった。情報が規制されているのか、女性中心社会がそうしたのか、この場においてほとんどの女性は男性の股間を見たことがなかったらしい。
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