第26話 三人のサキュバス
いま僕は、御木本家のお風呂で全身マッサージを受けている。自分でも何を言っているのか本当に分からないが、これは紛れもない事実だ。
あゆみちゃんには頭と視界の自由を奪われ、そのあゆみちゃんのご両親には両足の自由が奪われている。先程から太ももに巨大な二組の山が接触しているが、これで反応しない男子はこの世に存在しないだろう。
僕のバベルも見事に天空を貫いており、
いつ天元突破してもおかしくない状態にある。
これ程の天国と地獄を同時に体験するのは初めてだ。目を閉じて施術に集中しようにも、柔らかい物体が懸命に僕の足へ摩擦を生み出している。無理だよぉ……!
相手は彼女のご両親で、両方現役の頃となんら変わらない美女という……。本人の努力も勿論あるだろうが、現代のアンチエイジング技術って本当にすごいなと感心してしまう。
「さぁ、これで脚も終わった。あとは股関節からお尻にかけてのマッサージだよ」
「こ、これ以上は流石に恥かしいんですけど……!」
「大丈夫よ慎太郎くん♡ あゆみのおっぱいを眺めていればすぐに終わるわ♡」
何処が大丈夫なのか何一つ理解できない。血流の改善と状況。目の前にある彼女のたわわな実りの効果もあって、僕の宝剣はいつまでも天を穿つ勢いである。
「まもるさん♡ この部分も、私が手伝っても構わないわよね?」
「あぁ、勿論だよ。その方が早く施術も終わるからね」
ご両親は、僕の股関節のリンパも丁寧に流してくれた。時折大事な部分が接触している様な気がするんですけど! というか、ダイレクトに当たってるんですけど⁉
僕の両足は持ち上げられ、まもるさんとあかねさんそれぞれの肩に担がれ、開脚も同然の恰好を強制された上に、念入りに股間をマッサージされる。
確かにリンパの改善によって血流が良くなるのは分かったが、もう何が何だか分からなくなっている。滅茶苦茶だ……! 僕は人間としての尊厳を失っている。
オムツを換えてもらっている赤ん坊の気分だ。この歳で経験するには辛い。
「あゆみちゃん、手が空いているなら、慎太郎くんの首元から大胸筋にかけて、手の平を押し付ける様にマッサージしてあげてくれ。筋肉の流れに沿ってやれば、リンパの改善が可能だ」
「それならアタシでも出来そう!」
ここに来て、今まで手の空いていたあゆみちゃんまでマッサージに参加し始めた。首元から大胸筋にかけて、ボディソープを纏った手が滑る。
「ひぅっ!」
「あっ! ゴメンしんちゃん。痛かった?」
「いや、くすぐったかった……!」
あゆみちゃんの手は僕の大胸筋をなぞる際に、乳首を経過したのだ。男でもここが弱点なのだ。彼女はそれを分かっているのかいないのか、大胸筋へとリンパを流す際に乳首を摩擦する様に経過する。
「あっ……♡ しんちゃん……♡ ここもなの……?」
あゆみちゃんは僕にしか聞こえない声で確認をしてきた。
「どうして固いの……? 男の子って、ここも大きくなるの……?」
あぁ~~~! バレた~! もうこの状況で一番バレてはいけない相手にバレた!もうおしまいだぁ~! それ以前にバッキバキの宝剣を見られている訳だが、乳首はまた別の話だ。マッサージで敏感になってるんです! 許して! 勘弁して!
股間も乳首も弄られ、今まで感じたことのない大きな波が訪れていた。前代未聞の大解放である。恐らくは天井まで届き得る高さまで到達するだろう。こんなところで暴発するわけにはいかない。僕のケツに力が籠る。
「ダメだよ慎太郎くん。マッサージはリラックスして受けなきゃ……!」
「そうよ慎太郎くん♡ はーい♡ リラックス♡」
まもるさんとあかねさんが肩にかけた脚に胸を挟んで拘束した。両サイドから柔らかな圧力が掛かった。いくらなんでもおかしい……! 今一度自分の状況を判断する為、あゆみちゃんのおっぱいを少し持ち上げて、周りを見渡した。
「酩酊フェロモンが出てるっ……!!」
お風呂場には既に薄いピンクの煙が充満していた。湯気の所為で発見が遅れたが、ご両親はとっくの間に酩酊の状態に入っていたのだ! ふたりは大人だから酔いに対して耐性があるものの、長時間このフェロモンに晒された場合、気分が楽しくなり、判断力が鈍って開放的な心持ちになってしまうのだ。
あゆみちゃんが素面だから油断していた。元々あゆみちゃんにはフェロモンの影響が少ない為、見落としてしまった。
開放的になった分、ふたりは本来の目的から外れ、僕で何やら楽しい事をしたい気分の様だが、何とか切り抜けるしかない……! あぁ! でも! 抗えない!
精神と肉体が、もう限界かと思われたその時――
【ギュッ……ギュルルルル……!】
僕のお腹から、猛烈な緊急警報が発令された。
「そ、そうか! リンパの流れが改善し、血流が良くなったことで内臓器官への負担が減り、腸の活動が活発になったのか!」
それに僕は消化を完全に待つことなく、ドカ食い気絶を行ってしまった。これにより不完全だった消化が再稼働し、腸運動によって物凄い便意を催したのだった。
こんな所での暴発は人間尊厳を崩壊させ、更には恋人及び両親の信頼関係に大きな傷を残してしまう事だろう。そんなことはあってはならない。そんな特殊なプレイはこの場に居る誰もが望んでいない!
「どうやら、マッサージの効果が存分に現れた様です! この場は一時中断し、一刻も早くトイレに向かいたいと思いま……! す、すごい力だ!」
三人は結託したかのように僕を拘束した。
「大丈夫よ慎太郎くん♡ これも施術の一環だから♡」
あかねさんから恐ろしい言葉が飛び出た。ま、まさかこの展開は予想の範疇……⁉
「あぁ、キミには健康になってもらわないとならないからね。ばっちり排泄用のおまるも用意したよ」
ダメだ! 酩酊の所為で頭がおかしくなっている! こんなアブノーマルなプレイを家族ぐるみで行うなんて世間も僕も許せる事ではない!
「あゆみちゃん! 君は普通に無事なはずだろ! なんで僕の腕を……!」
僕は思い違いをしていた。あゆみちゃんに対して、酩酊フェロモンは効いていないのではなく、【効きにくかっただけ】だったのである。彼女の目がハートの形に輝いている。それは僕が今まで受けた恐怖の中で一番強いものとなった。
「しんちゃん……♡ アタシ達、もう恋人なんだから、恥かしい所を見ても大丈夫だよ♡ マッサージして、スッキリしようね♡」
冗談ではない! 今はいいかもしれないが、フェロモンの効果が切れたら正気に戻り、本当の地獄が形成されてしまう! なんとしてもこの場を切り抜けなければ!
「そうか! 安息フェロモンなら酩酊フェロモンを中和出来るかも知れない……!」
『ギュルルルル……!』
しかし、このタイミングで再び腹痛が差し込んできた。こんな精神状態で母性と優しい心を必要とする安息フェロモンを出す事は不可能に近い。
「す、すみません! お三方ぁっ!」
僕はボディソープの潤滑性を利用し、その場で大きく回転の動きを行う事で、拘束を解除した。そして、一目散に風呂場を出て、バスタオルを纏い、トイレへと駆け込むことに成功したのである。
僕は幸せな家庭と、自分自身の尊厳を守る事が出来たのだった。
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