第25話 魅惑のマーメイド


 僕は家族団らんに巻き込まれ、御木本家総出のおもてなしを受けていた。以前に蓮花れんげさんのボディウォッシャーを経験していたおかげで、宝剣の三倍解放は耐える事が出来そうな心持ちだ。


 だが、そんな甘い幻想はものの数秒で見事に打ち砕かれる。


「家族風呂の為に大きく作っておいて本当に正解だったね。あかねさん」


「そうねぇまもるさん♡ 四人で入れるなんて最高よね♡」


 隣では幼馴染のご両親がイチャイチャと始まり、娘のあゆみちゃんは大変ご機嫌が優れない様子にあった。


「慎太郎くん、そんな隅っこで小さくなってないで、もっと足を伸ばしても大丈夫だよ? リラックスしてくれたまえ」


「そうよぉ♡ ほおら♡ 白い濁りの温泉の素も入れたから、もっと温まるわ♡」


 まもるさんもあかねさんも、年齢にそぐわない立派な身体をしているので、目のやり場に困る。本当に困る。何処を見てもむちむちのぷりぷり。触れようものなら肌に吸い込まれるのではないだろうか……。


「しんちゃんはこっち! お父さんとお母さんは離れて!」


 僕とご両親の間にあゆみちゃんが滑り込む。物理的な接触を回避するためだろう。


「あらぁ♡ ヤキモチだわ♡ あゆみったら慎太郎くんのこと大好きなんだから♡」


「私は、慎太郎くんなら全然OKだよ」


「どっちの意味で⁉ ねぇお父さん! どっちの意味なの⁉ 娘を任せてもいいって意味だよね⁉ まだ自分もいけるって意味ではないよね⁉」


 あゆみちゃんが初めて見る慌てぶりを披露している。僕は今一生懸命に宝剣を抑える事で必至だ。恋人のご両親で解放する訳にはいかない。


「十分に温まった所で、マッサージを行うとしようか……。慎太郎くん、マットに横になってくれ。洗いながら施術をしていくから……」


「は、はい……」


 僕は股間にタオル一枚を掛けるというなんとも頼りない状態で、マットの上に寝かされていた。まもるさんが、風呂桶にお湯を溜め、専用のボディソープと合わせてかき混ぜている。かなり慣れた手つきの様に感じる。マッサージ師の資格があるのか?


「ほぉら♡ あゆみちゃんも、マッサージ手伝ってあげて、頭の高さも重要なの♡」


あゆみちゃんは言われるがままに、僕の頭を膝枕してくれた。視界はあゆみちゃんのたわわな実りに阻まれ、半分以上が見えない。


 そんな中、まもるさんの準備が整ったのか、施術が開始された。僕の身体は所々にガタが来ているらしく、少しの触診で筋肉に大きなダメージがある事が発覚した。


「これは、治療の痕跡があるから後は自然治癒で治すだけだね。凝りもそれ程ある訳でもないから、私が出来るとしたらリンパの流れを改善する施術かな」


 最初はくすぐったい感覚があったが、自分にも血流の改善や筋膜の解放が実感できた。これは予想を大きく超える成果かもしれない……。


 そう油断していると、あかねさんが僕の右手を取り、洗い始めた。


「これは、何をしている所なんですか?」


「これはね~♡ 手に集中しているツボを刺激しているの♡ 手のツボは腕を通って肩や背中、首や頭などに大きく影響が出る箇所なのよ♡ 筋肉や骨だけでなく、神経にも気を付けないとね♡」


 あかねさんが力強くぎゅんぎゅんと手の平を押していくと、確かに神経の連動を感じた。手を触っているのに、腕や肩に反応がある。


「分かり易く言えば、神経は電化製品におけるケーブルみたいなものなんだけど、これがうまく機能しないと、脳から出ている命令系統にも影響が出るのね。だから適度に疲労を抜いてあげる必要があるのよ~♡」


「本当だ……! 神経の反射が良く分かる……!」


「あらぁ~♡ 感覚で認識できるなんてすごいわ~♡ 神経系反応が良いのね~♡」


 神経の伝達速度は戦いにおいても大きく勝敗を左右する重要な要因だ。今までの戦いの中で、損傷した神経が回復に向かっているのを実感する。


 しかし、その速度は常識を遥かに超えていた。本来であれば末梢神経はゆっくりと回復していく傾向を見せるが、僕の場合それが異様に早い。遺伝子を弄っていないにも関わらず、この反応は少し心に棘を残した。


 神経の伝達が促進されるという事は、もちろん感覚が鋭くなるという傾向もある。特に触覚に関しては反応がよく、身体のあらゆる感覚が鋭くなっていた。


「さぁ、足の先から順番に流していくよ」


 まもるさんが足の先から身体の中心に向かってリンパの詰まりを流していく。


「リンパの詰まりを、外側から内側に流しているという認識で良いんですか?」


「慎太郎くん、人間の老廃物をろ過する器官を知ってる?」


「腎臓ですね」


「その通り。老廃物はリンパを経て血管内を通り、肝臓、腎臓へと運ばれる。リンパには血管に対する筋肉の様なポンプ役が存在しないから、それをマッサージで補い、積極的に流してあげる事で、身体の負担を少なくする効果が期待できるんだ」


 まもるさんの手の形は握り拳を作った状態から、中指を突出させ、折り曲げた中指に全ての力が乗る状態を作り出している。この状態からリンパに沿って抉り込む。


「ああああああああっ!!」


 僕の悲鳴と同時に、リンパ内部にこびり付いた老廃物が一気に流れていく感覚と、激しい痛みが足から膝にかけて襲い掛かる。その間、あかねさんが手と腕にかけて同じようにリンパ流しを行ってくれる。とんでもなく痛い。


「はぁ……! はぁっ! こ、これ、本当にマッサージなんですよねぇ……?」


「相当長い間溜めこんできた様だね……。さっきので大体流れたはずだから、後二回程流せば完全にキレイになるだろう」


「ああぁあっ……! さっきよりは痛くないけど痛い……!」


「ここから太ももの内側にかけて、流し込んでいくんだ」


 かなりの痛みが続いたが、一度流れるとそれ以降は痛みが緩やかになり、両足の施術が完了した頃には、自分の足が生まれ変わったかの様な感覚に入る。次第に体温は上がり始め、心臓も落ち着きを取り戻していく。


「す、すごい! リンパマッサージがこれ程までに効果のあるものだったなんて!」


「私が水泳選手として現役だった頃、身体のメンテナンスとしてリンパマッサージ店を紹介してもらったのが、この施術との出会いだった。その時の先生が仙人だったらしくてね、頼み込んで技を教えてもらったんだ」


 思いの外仙人というのは何処にでも存在しているのだろうか? それはそれとして、この施術を受けてから、自分の宝剣に血液が集まるのを感じる。


「し、しんちゃん……♡ おっきくなってる……♡」


 あゆみちゃんに言われて確認すると、僕の宝剣は頼りないタオルを盛り上げ、塔のように聳え立っていた。


「マッサージによって血流の促進されたようだね……。そ、それにしても……この大きさは初めて見るよ……。ねぇ、あかねさん?」


「そうね……♡ この大きさは私も生まれて初めて見るわ♡ 慎太郎くんも、大人になったのねぇ……。ご、ごくり……♡」


 あかねさん、どうしてそこで生唾を飲み込んだんですか?


「慎太郎くん、足から膝にかけてリンパを流したからあとは、太ももから腰に向けて流していくよ。こうすることで、筋肉の働きも相まって、老廃物が良く流れるんだ」


 いかんいかん。あくまで僕の健康を改善する為、これ程大掛かりな施術を行ってくれているんだ。真剣に受けなければ……! お店で受けたらかなりの金額がする施術。心して向き合わなければ失礼と云うもの……!


 僕は宝剣をバッキンバッキンにしながらも、施術に集中した。まもるさんとあかねさんの両名が、太ももの施術に入る。膝から太ももを経過し、腰へと流す手筈だが、この際にふたりが僕の足に跨る形になる。両足にとんでもないボリュームのお尻が乗り、ムチムチプリプリの肌が呼吸するかの様に吸いついてくる。


 そして、この体勢から両手で脚を掴み、太ももへとスライドさせると、お二人の大きな胸が接触し、そのまま平行移動によって水着の生地と肌が摩擦を起こしながら滑っていく。


 最初のリンパ流しは痛みがある為、なんとか耐える事が出来たが、2回目以降は痛みが無くなり、血流が促進されていく。


 この様子はあゆみちゃんのおっぱいで視界を塞がれている為、半分しか直視する事が叶わないが、とんでもない接待を受けている事は明白であった。


 美女三人に囲まれているこのシチュエーション。女性経験のない僕にとっては天国であり、地獄でもある。ましてや彼女とそのご両親の前で暴発する事は許されない。


「しんちゃん……すごく元気だよ……?」


 何処がとはあえて言わないのだろうが、何処を示しているかは明らかだった。


 この生殺しと云える天国と地獄は、いつまで続くのだろうか……? 

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