第24話 君が好きだと叫びたい
御木本家でバーベキューをご馳走になり、デザートまで平らげた僕は、あゆみちゃんの優しい抱擁の中で、見事にドカ食い気絶を行ってしまった。
気が付いた頃にはすっかり日が傾いており、僕の顔面はあゆみちゃんの豊満なボディによって包まれ、体温はすっかり上昇しきっていた。抱き枕にされていたのだ。
「あゆみちゃん、大変心苦しいのですが、そろそろ放して頂けると……」
「ぐー……ぐー……♡」
「あの……あゆみちゃ……す、すごい力だっ……!」
引きはがそうとしてもビクともしない。抱き枕の様に頭を抱えられ、大きな胸で拘束されているのでロクに動く事が出来ないでいる。
「ぐっ……ぐー……♡ ぐー……♡」
めちゃくちゃに下手な狸寝入りだな……。少しイタズラをしてやろう。僕はあゆみちゃんの身体にしがみつき、お腹を揉んだ。程よくぽにぽにしていて良い。
「きゃはははっ♡ いやあっ♡ くすぐったいってしんちゃんっ♡ やめっ……♡ お、お腹を揉むのはやめろぉっ!!」
「ぎゃうっ!」
頭頂部に情け容赦のない衝撃が響く。げんこつが落ちた。
なんでおっぱいを押し付けるのは良いのにお腹はダメなんですかね……? 鉄槌で殴られた痛みは大したことは無かったのだが、とても納得できる内容ではなかった。
「あなた達ー。仲が良いのも結構だけれど、全身が煙臭いわよ。汗もかいてるみたいだし、一緒にお風呂入っちゃいなさい」
入浴を勧められたが、さすがに男女で入るのは体裁がよろしくない……。ここ百年以上、女性多数社会であったせいなのか、男女における性意識があまりにも低い。
「いやしかし、着替えも用意していませんし、今日はこの辺りで失礼いたしますよ」
いつの間にか背後に回ってたまもるさんが、力強く僕の肩を掴む。逃げられない。
「心配することは無いよ慎太郎くん。我が家の洗濯機は、自動乾燥機も搭載している最新型だ。お風呂に入っている間に洗濯と乾燥が完了するから、ゆっくりお風呂で疲れを癒すといいよ!」
「そうだよしんちゃん! さあさあ早く脱いで脱いで!」
手早く上半身を剥かれ、あゆみちゃんは僕のシャツを持ったままお風呂場へと向かった。慌てて取り返そうとするも、即座に洗濯機の中にブチ込まれた。
余りにも強引な導入であったが、僕もびしょ濡れになってしまったシャツを見て諦め、すべての衣類を洗濯機の中へと投入。全自動選択を開始した。
「しんちゃんも覚悟が決まったねぇ! 一緒にお風呂はいろ♡」
そんなエッチな身体の幼馴染とお風呂に入ってしまったら、僕の宝剣が三倍になって盛大に暴発してしまうだろうが……!
「あゆみちゃんは、男と云うか……。僕に裸を見られてことに抵抗はないの?」
あゆみちゃんはその場で衣服を全部脱ぎ始め、僕の方に全てを曝け出している。
「しんちゃんって……! 女の子にそんな恥かしい事言わせたいの……? それとも恥ずかしがる女の子が好きなの……⁉」
「僕はあゆみちゃんが大切だから……! 世間的なズレがあったら正そうと……!」
「アタシが! しんちゃん以外に裸見せる訳ないでしょ⁉ ほら! 見て!」
僕は手で自分の目を覆い幼馴染の方を直視出来ずにいた。見たら確実に宝剣が三倍になる自信があったからだ。まだ僕たちの関係は幼馴染から進んでいない。こんな浅ましい欲望を大事なあゆみちゃんに向けたくない。
「手で隠すって事はどういう意味なの……? あたしの裸、そんなに見たくない?」
「見たい! 見たいよ! でも僕の浅ましい宝剣は見せたくない!」
「もう見てるから! 実験室できらら先輩と揉み合った時に見た!」
僕とあゆみちゃんは現在、半歩分距離しか離れていない。心臓の鼓動が大きい。
「それでも! 男は! プライドで生きてる! 僕の男としての矜持が! あゆみちゃんにエッチな所を見せたくないと! 心で叫んでいるんだ!」
「アタシ達の間柄でカッコつけなくてもいいじゃん! しんちゃんの弱い所は散々見て来たよ。泣き虫のしんちゃん……、弱虫のしんちゃん……! 全部見て来たよ!」
「好きな子の前で! カッコつけたくない男なんて! いないっ!」
僕のこの一言で、脱衣所は静まり返っていた。
「……好きなの……? アタシの事……!」
「……ずっと好きだったよ……! 昔から……!」
「……アタ……わたしも、しんちゃんのこと……好き……」
お互いに真っ裸という、これ以上ない恥かしい状況のはずなのに、僕たちふたりは好きという気持ちを告白する事の方が、遥かに恥かしいと感じていた。
幼馴染としての環境に、子供の頃の楽しいだけの時代に甘えて縋り、今の自分の気持ちを大きく押さえ込んできた。僕たちはまだ、離れていた長い時間を取り戻していない。数年間の行き違いが、環境の変化が、気持ちも変えてしまったかもしれない。
それを確かめないまま、自分の気持ちをぶつけるのが本当に怖かったんだ。今まで整理しきれなかった気持ちが、パズルの様に組み上がっていく。あゆみちゃんが僕の手を掴んで下ろすと、僕の視線はあゆみちゃんの瞳に吸い込まれていった。
「それで……。どうするの? アタシも、しんちゃんが好きよ?」
「こ……。恋人になりたい……!」
「わ、わかった……じゃあ……恋人に……なろ……?」
顔があげられなかった。度胸は人一倍あるという自信はあったが、ここまで自分の気持ちに正直になれる自分自身に驚きが隠せない。
「恋人って……何するの……?」
「ぼ、僕もわからない……! 手を繋いだり、デートしたりしたい……!」
「他には……?」
「あゆみちゃんと……キスもしてみたい……! ほっぺじゃないやつ……!」
「あ、アタシも、キス……してみたい……!」
身体は密着している。互いの鼓動は恥ずかしい程に伝わっていた。自分に余裕がなく、今が精一杯なんだと宣言している様なものだ。
僕はあゆみちゃんの肩を優しく抱き、見つめた。僕が覚悟を決めたその時――
「片付けが終わったから、お父さんとお母さんも一緒にお風呂入るーっ!」
あゆみちゃんのご両親が水着で雪崩れ込んできた。僕たちは慌てて離れた。もう少しでご両親にキスシーンを見られるところだった。危ない危ない……。
「お父さん、お母さん、一体どういうつもりで乱入してきたの……⁉」
背中越しにあゆみちゃんの覇気が伝わる。顔は見えないがかなりご立腹だ。……僕とのキスを邪魔されたから怒っている……?
「ち、ちがうのよあゆみちゃん♡ 私達は慎太郎くんのリラクゼーションしようと思って、準備してきたのぉ♡」
「そ、そうなんだ。ほら、お風呂にも敷けるマッサージマットに、肌の潤いを閉じ込める専用のボディソープも用意したんだ! これで慎太郎くんを労おうと思って……!」
ふたりはあくまで善意の様子だが、それにしても恰好がすごい。Vラインがめちゃくちゃに鋭い競泳水着と、布地の少ない金のマイクロビキニだ。僕は企画ものでも見せられているのだろうか?
「お父さん、お母さん……ふたりとも現役時代の水着じゃない!」
「そ、そうだよ。安心してくれ。現役時代から少しも衰えていない。アンチエイジングもそうだが、たゆまぬ努力で細胞の老化も押さえ込んでいる。だからまだまだ美しいはずだよ!」
「きゃんっ♡ まことさんったらぁ! 引き締まったウエストなのにバストとヒップが最高に勤労意欲を駆り立ててっ……最高にエロい……♡」
「そういうあかねさんだって、グラビアアイドル時代からずっとキープ。それどころか胸とお尻に至っては未だ成長中じゃないか! 素晴らしいよ!」
「自分の親と同じくらいの歳のおばさん達の身体見たって嬉しくないわよ……」
あゆみちゃんは近親としての嫌悪感を見せてはいるが、僕の様な他人に対しては、むしろエロ過ぎて吐き気がしてきた。
「うちにいる間は慎太郎くんも家族の一員だよ! さぁ、余人で一家団欒しよう!」
『うちにいる間は家族だから』という理論は、美憐さんと一緒だ。僕は家族として迎えられている事に嬉しくなってしまい。納得してお風呂に入った。
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