第14話 僕にしか見せないで
「きらら先輩、さすがにグーで殴るのは痛いですよ」
「はぁ……はぁ……! 良かったねぇ! 生きてる証拠だよ!」
僕はきらら先輩の痴態を見て大変満足してしまった。
盛大に殴られた価値はあったと思う。
「きらら先輩の可愛い所が見れたし、そろそろお暇しますかね」
「あぁ、そうだね! 早く帰りたまえ!」
フェロモンの効果で酔っぱらってしまったことは、全部覚えているらしい。彼女は酒で失敗するタイプの人なのだろう。
「帰る前に、きらら先輩の連絡先を教えてください。スマホ手に入れたんで」
スマホを取り出し、連作先を表示する。
「あぁ……そうだねぇ、連絡が簡単に出来れば何よりだ……。慎太郎クン……それはもしかして、アヴァロンかい?」
「えぇ、父から入学祝に贈られたものです。何故きらら先輩がこれを……」
「やられた……! まさか光太郎博士がここまでするとはねぇ……!」
「どういうことですか先輩⁉ このアヴァロンにはどんな謂れが⁉」
「そのシステムはキミを守るために作られたものだ。盗聴、盗撮、プライバシー保護、詐欺、ウイルス、すべての犯罪系統から身を守るファイアウォール搭載の小型高性能パソコンだよ。もちろんスマホとしての機能も使える。周辺にキミを脅かす輩が居れば、特殊な電磁波で機械を破壊する防衛システム【ピッコロ】が備わっている」
「そんなに高性能なものだったのか……」
「あぁ、やっぱり……! ケースにはソーラー発電効率92%の【アマテラス】表面加工のカーボンと金属には物理メーカーの【ローアイアス】が使われている。キミのお父さんも体外頭がおかしいんだろうねぇ……」
「そんなに高いものなんですか……?」
「それ一台でスポーツカーのフルカスタムが買えるよ……。値段が高い理由として、アヴァロンは他人の端末を中継地点として乗っ取り、それを乗り継ぐ事でどんな場所でも電波を通す事が可能な頭のおかしい機能が付いている。この制御を行う電子板と半導体がかなり高級なものでね……」
「……考えるのを止めよう……。大変心苦しい……」
「わたしとおそろいという部分が本当に出来過ぎているよ……。ネクタル、キミと同等の存在に秘匿通信で私の連絡先を転送しておいてくれたまえ」
「きらら先輩の端末、名前がアヴァロンじゃないんですね。リンゴからの連想ゲームですか?」
「そうだね。そのままだと捻りがないと思って変えたんだよ。アンブロシアでも良かったけど、このAIにはわたし独自の手が加えてあるんだ」
『データをアヴァロンへと転送しました』
きらら先輩の端末が短く返事をすると、
アヴァロンへデータが転送され、自動登録が完了した。
『きらら様と、慎太郎さまのネクタル及びアヴァロンを秘匿回線でリンクしました。盗聴の心配はありません。どうか、存分に愛をお育み下さい』
「キミのはAIの癖に、かなりのお節介のようだねぇ……」
「いつでも電話してください!」
「わたしから掛けるのかい⁉ ……都合は
あれ? 随分しおらしくて可愛いな? あのネコ姿を見た後だと感動もひとしお。
「……なんだか邪な事を考えていないかい?」
「いえ、きらら先輩の可愛さに思考が停止しただけです。先輩グーはやめてくださいグーは……!」
「はぁ……! はぁ……! この天才をここまでコケにする輩がいるとはねぇ……」
「基本的に、夜の11時まででしたら十分な対応が出来ると思います。先輩の都合はいかがですか?」
「わたしは大体、夜12時までには寝るようにしているよ。夜更かしは脳にも良くないからねぇ……」
「メールやメッセージアプリ、というのは初めて使うので、返信が遅れると思いますけど、ご了承ください。なにせスマホデビューしたてなので」
「そうか、種我島での生活はそんなに監視が強かったのか……。キミも苦労しているんだねぇ……。何かあったら相談したまえよ?」
「なにもなくても連絡しますよ。これから深い関係になっていく訳ですから、それではこれにて失礼いたします!」
そう言って僕は、準備室をあとにした。
「……やれやれ……
きらら先輩と話を終えた頃には、時計は午後の5時を過ぎたあたりだった。今日は何としても7時までには帰宅して、ちゃんとした時間に夕飯を食べたい。
まだ時間があるので、今日こそは図書室で本を借りよう。あれだけの蔵書があるのに、借りないなんて損だ。僕は足早に図書室へと向かった。
「愛美慎太郎! 私達と勝負なさい!」
どうやらまたしても、図書室への道は閉ざされてしまいそうだ。僕の目の前に立ちはだかったのは、ピンクのハチマキと法被を着込んだ女生徒たちであった。
「あの、
「私たちは別派閥よ!」
「ファンクラブの統一くらいしてくれーっ! 政府に文句があるなら直接問い合わせをしてくださいよ! 僕には何の決定権もないんですって!」
「貴様ぁーっ! きららお姉さまを相手に出来るからって調子に乗りやがって!」
続々とファンと思わしき女性たちが登場する。いや、ギリギリ女性なのか? どうにも女性と呼ぶには妖しい筋肉量ムッキムキの存在が控えている。腕の太さが僕と同じかそれ以上の人間を、女性と呼んで差し支えないのか、疑問だ。
「えっと……あなた達も女性で間違いないんだよね……?」
「
それは女性と呼ぶには余りにも、強そう過ぎた、太く、大きく、大雑把過ぎた。
「ワシは身体はこんなんじゃが、心は清らかな乙女じゃい!」
「そうよ! 【
「ぐふふ……! 休日の過ごし方は庭先で育てているお花を愛で、紅茶をたしなみ、小鳥さん達と歌う事じゃい……!」
「すみませんでしたっ!」
思った以上に彼女(?)は乙女だった。この遺伝子改造社会で、人を見た目で判断してはいけない。これは良き戒めとなるだろう。
「全国女子柔道大会、無差別級の王者にして、熊や虎を素手で倒したこともある超人なんだから!」
名前も知らない女生徒から、とんでもない情報が飛び出す。
「何処が乙女じゃい! さすがに猛獣まで倒したらめちゃくちゃやんけ!」
「ぐふふ……! 愛美慎太郎よ、きらら先輩や政府が認めても、この豪街道愚乱怒が、貴様を許さぬ……! 遺伝子工学上最強を誇る乙女の力、見せてくれるわっ!」
「まて! どうするつもりだ! 戦うのであればせめてルールを設けろ!」
「貴様、我らの情報網に寄れば、【腰ぶつけっこの
「あぁ、通り名とかあったんだ……若本さん……」
「
「それなりに強いじゃねーか!」
「うむ……? 良く勝ったなと言ってもいい。校内トップ5の
「じゃあ君は何位なの?」
「24位じゃ!」
「四天王より弱いのかよ! いや、それでも結構強い部類だな! 人口がどれくらいの競技か知らないけど!」
「乙女を侮るな! 全校生徒の九割が
「マウンティング流行り過ぎぃ! どうなってんのこの学校!」
「【マウンティング】とは、単に力のみの競技にあらず! いかに相手より有利な立場でマウントが取れるかを競う、乙女の嗜みじゃい!」
「性格が悪すぎるだろ……!」
「黙れい! ワシはきらら先輩と一緒に下校した事がある‼」
「キャー! 素敵ーっ! エピソード語ってぇー!」
外野の女生徒が一斉に沸く。それほど珍しいイベントなのだろう。
「あぁ、マウントってそういう……!」
ルールは良く分からないが、いかに自分がきらら先輩と接点があるかという、マウントを取りたいらしい。
「そんなこと言ったら、きらら先輩と【政府公認で子作りを推進されている】僕はどうなるんだ?」
「「「ぐわーーーーーーーっっっ⁉」」」
この場にいる女生徒全員が吹き飛んでしまっている。
当たり前だろ、誰がこの環境の人間に勝てるんだよ……。
「スマホがおそろいで、連絡先を交換している」
「「「ぬわーーーーーーーっっっ⁉」」」
女生徒たちが軒並み地面にめり込んでいる。
「きらら先輩の弱い所を知って、グーで殴られた」
「「「うぎゃーーーーーーっっっ⁉」」」
「面白いくらいダメージ受けてるな……」
あまりの衝撃に耐えきれず、女生徒たちの心は粉微塵となった。
「ぐぬぬっ……! この
もう付いてるんよ。最初に吹き飛ばした時点で。
「こうなれば実力行使よ! くたばれい! 愛美慎太郎ーっ!!」
熊や虎を葬る、彼女の攻撃が放たれた。ここは防御に徹し、傷付けない様に酩酊フェロモンか何かで無力化するしかない――
「お前たちっ! 何をしているのっ!」
そう考えていた矢先、二メートルを超える身長の豪街道さんに対し、頭を押さえつけ、そのまま地面に叩きつける存在が現れた。
「うぉおおぉっ! おのれぃ!
140センチにも満たない
「ぐむむむっ! やはり仙人という話は
「あなた、両親から教わらなかったの? 『仙人には逆らうな』と……!」
潺さんがその場で相手の頭を押しつぶすと、そのまま地面にめり込んでいく。体積とパワーが明らかに比例していない……。仙人とは一体なんなんだ……⁉
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