第11話 AIし愛される事で
「はっ! 僕はっ! 生きてるっ⁉」
圧倒的な顔への圧迫によって呼吸を奪われ、気を失っていた様だった。心配してくれた蓮花さんと美憐さんが僕の顔を覗き込んでいる。僕の身体が重すぎる所為で風呂場から動かす事が出来なかった様だ。
「慎太郎さんも目を覚ましたことだし、蓮花ちゃんも着替えたらどうかしら? それよりも、お風呂で温まり直した方がいいかしらねぇ?」
「温まり直した方がいいなぁ。みーちゃん。悪いけどしんたろーの事頼むわ」
「わかったわ。慎太郎さん、起き上がれる? 出来るだけ、そのおっきなのを隠してくれると、私は助かるなぁ……」
「おわっっ! すみません!」
通常サイズに戻ったとはいえ、僕の宝剣はタオルの上からでもくっきりと形が分かるため、かなり見苦しい大きさをしている様だ。気を付けねばなるまい……!
熱湯で一通り泡を落とし、すっきりとした。
「蓮花ちゃんの話では、頭は打ってないみたいだけど、調子が悪くなりそうなら早く教えてね? この近くには病院もちゃんとあるから」
「えぇ、問題ありません。ちょっとしたアクシデントで、窒息しかけただけですから。安心してください。島ではよくあった事なので!」
「全然よくないわ。いい? 種我島での出来事はあなたを強くしたかもしれない。でもね、大事な危険管理意識を阻害してしまっているわ。あの場所で辛い事がいっぱいあったと思うけど、試練を乗り越えたからといって超人になる訳ではないのよ」
美憐さんが真剣に叱ってくれている。僕が大丈夫というと、彼女はそれを正してくれる。一般的な乖離がどれ程あったのか、少しずつ正されて行く感覚がある。
「命はね、大事なものなの。呼吸ひとつでも将来に響くことがあるかもしれない。あの島で、どんな事が行われてきたか、私には詳しく分からないけれど、自分の事を大事にしてあげて。本当の意味で、それが出来るのは慎太郎さん本人だけなのだから……自分を蔑ろにしないで……!」
彼女の事情は分からないけれど、言葉には不思議な重みがあった。自分を軽んじるのは良くない事だと、はっきりと教えられた。女子供を守り、その幸せの為に死ねと教えられた島での出来事は、どうやらこの地では異常だったらしい。
「美憐さん、ありがとうございます。僕はここに来て初めて、家族というものに触れる事が出来たと思います。僕の非常識を正して頂き、感謝します」
感謝の意を示すも、美憐さんは心苦しそうに僕を見ている。自分の存在が、それ程世間とかけ離れているのだろうか、僕は、正しく生きられるのだろうか。
「大丈夫よ。私と蓮花ちゃんがあなたを守るわ。責任ある大人として……!」
美憐さんの眼は慈愛というよりも、僕自身を、気の毒な少年として見ている様に思えた。僕は、そんなに哀れな存在なのだろうか……。これまでの努力が、生き方が、すべて否定された様な気持ちになってしまう。虐待を受けて保護された犬の様な……そんな扱いを感じる。
これ以上は、上手く表現できない。
その後、美憐さんから手荷物を受け取り、部屋で開封を行う。この手の機械は今まで小型ゲーム機くらいしか触れたことがない。説明書を読むが、これだけで一日が終わってしまいそうな感覚がある。
同封された手紙には、入学祝いの言葉と、携帯電話の説明について書かれていた。
『このスマートフォンは、私がガワと独自のOSを開発して制作した。もちろん既存の電波局やキャリアなんかにも対応している。人工知能搭載の最新式だぞ。支払いはこちらでするので、気にせず使うと良い。課金はほどほどにしておけよ』
「遺伝子工学だけでなく、電子工学と情報工学まで……! お父さんはどれだけ僕に七光を背負わせるつもりなんだろうか……」
父親からの贈り物は純粋な好意であると思いたいが、知れば知るほど父の背中は大きい。僕自身が何を成し得るのか、どうなりたいのか、何をするべきなのか、漠然と勉強だけをこなしてきた人生。重圧は知らないうちに増えていく。
届いたスマートフォンを起動すると、オペレーションシステムが作動する。画面には指紋認証と、顔認証。網膜認証が備え付けられており、防犯対策はばっちりだ。付随していた特殊合金と合成カーボンの頑丈なケースを装着すれば、ダンプが踏んでも壊れないという。
「すごいなぁ……。これだけのものが個人で作れるのか……!」
AIの説明に従って必要事項を記入していく。タッチ操作は慣れていないけれど、覚束ない操作でなんとか初期設定が完了した。備え付けられたスピーカーから女性の音声が流れる。
『慎太郎さま、この度はわたくしを起動してくださり、ありがとうございます』
「流石は最新のAIだ。喋るんだな」
『サポート特化型新世代AI【アヴァロン】と申します。光太郎さまより、構築された独自のプログラムによってわたくしの人格は形成され、慎太郎さまの使用方法によってより深くカスタマイズされるようになっています。以後お見知りおきを』
「ごく自然な会話の流れ、話には聞いていたがここまで進化していたのか……!」
『お褒め頂き恐縮です。つきましては、アプリなどを通じて、電話番号を始めとした連絡先を登録しておくことをお勧めいたします』
「メモ帳には知り合いのアドレスが書いてあるけど、手作業するのはなかなか大変だなぁ……」
『問題ございません。カメラを通してアドレスをスキャンすれば、こちらが自動的に登録が可能です。是非お試しください』
「それはありがたい、では早速……。
僕は、メモ帳に記した連絡先をカメラ越しに撮影。それをアプリがスキャンして、アヴァロンの中にアドレス帳として登録される。
「便利ぃー! この調子でどんどん入れておこう。あとはお婆ちゃんとあゆみちゃんくらいだけれども……」
『慎太郎さま、健康状態判別のアプリを起動して、あなたの身体の状態をカメラでスキャンさせる事をお勧めします。カラダにある傷の状態や、姿勢改善など、様々なサポート機能がご利用可能となっております。同封されていた三脚をお使いください』
「ケースがごついから、アヴァロンがデカいカメラみたいになってるな……。縦画面で写していいの?」
『はい、そのようにお願いいたします。背景はなるべく無地の場所で撮影し、前面、左右、背後を撮影してください』
「全裸で撮った方がいい?」
『下着でも構いませんが、全裸の方が精度を高まるので、周囲環境に注意しつつ、ご利用をお願いいたします』
説明の通り、全身を撮影し、スキャン。しばらくして身体の詳細な情報が画面に掲示される。
『主に腰の部分に内出血と擦り傷、背中に打撲が確認されました。数日で改善する程度のものですが、清潔な衣服で身を包み、傷が痛むようでしたら絆創膏などで保護を行ってください。なお、身長体重などのデータも読み込ませる事が可能であり、無線機能が備わっている体重計であれば通信による自動入力も可能となっています』
「すごいなぁ……! これで自己管理が捗るというもんだ」
アヴァロンの高性能に驚いた僕は、説明を受けながら徐々に操作を身に着けていく。
「しんたろ~! おねーさんがきったよ~!」
蓮花さんも交えてスマートフォンの操作をきっちりレクチャーしてもらった。日付が変わる手前までそれは行われ、より詳細な部分はまた日を改めて行う事となった。
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