第8話 夢の中身は風まかせ
買い物を終え、あゆみちゃんと
行動範囲を広げる為の『来た時とは別の道を通って帰ろう』という試みだ。
この通りには学習塾や、スポーツジム、アミューズメント施設などが多彩である。当然、賑やかな場所と言うものはトラブルの温床にもなりやすい。
「おい、コイツ総合の奴だぜ! しかも男だ! おい、みんな~! ここに珍しいのがいるぞ~!」
僕の知らないセーラー制服の女子たちが六人集まってきている。こちとら見世物ではないというのに、すごい早さでギャラリーが成立しつつある。一番最初に声をかけて来た黒髪ポニーテールの女の子が口を開いた。
「なぁ! 一緒に遊ばないか? ボウリングでもダーツでもいいぜ!」
積極的な彼女は、耳に大胆なほどピアスを開け、犬歯が鋭く尖っている。そういうオシャレが流行っているのだろうか……。
「お気持ちは大変ありがたいのですが、寮の門限がございまして、ご飯やお風呂を用意して頂いている身分なのです。皆様方は、門限大丈夫なのですか?」
腕時計を確認してみた所、もうすぐ夜の七時に差し掛かりそうになっている。走れば
「んだよぉ! お堅いなぁ……。じゃあ連絡先! スマホくらい持ってるだろ⁉」
「スマホ⁉ スマートフォン⁉ 高校生って持っていいの⁉」
「お前冗談だろ⁉ スマホくらい小学生でも持ってるぞ!」
「えぇーっ⁉ 島では必要なかったから大人しか持ってないものだと……!」
「どんな環境なんだよ……。遊びの連絡でも支払いでも、現代の必需品だろ」
『うんうん』という周りの女の子たちの反応からして、スマホは小学生でも持っているのは明白であった。僕はかなり落ち込んでいた。僕の認識は小学生以下らしい。
「香奈ぁ、この子めちゃくちゃ落ち込んでるじゃん。面白いね」
後ろで会話を聞いていた金髪の女の子が会話に参加する。タレ目が特徴でふわふわした印象の可愛い女の子だ。
「面白がるなよ
僕の手の平に、電話番号が書き込まれた。
「オレの名前は【
「香奈ぁ、そのマジックペン、バチバチの油性じゃない?」
「えっ⁉ あっ! しかもこんなデカデカと!」
「消えるよりマシだろ! よしお前らぁ! ボウリング行くぞぉ!」
「「イエーイ!」」
大盛り上がりを見せる女子高生集団。多少ノリが強いが、悪い子たちではなさそうである。手元にメモ帳があったので、そこに電話番号を書き写す。最初からメモ帳を渡せばこんな手間が発生しなかったのに……。
胸ポケットに刺さっていたペンを取り出し、書き写していると、突如として突風が吹き荒れた。書いていたページが風に煽られ――
「きゃっ!」「うわっ!」「や~ん!」
女の子たちから悲鳴が聞こえ、目の端が
「全然……見てなかった……」
僕の本心は相当悔やんでいたらしく、その言動は表に現れていたらしい。
「なんだよぉ、今の見逃したのか⁉ お前全然ツイてないなぁ! そんなにオレたちのパンツが見たかったのかよ⁉ アッハッハッハ!」
「香奈ぁ♡ 笑ったら可哀想だってぇ♡ キャハハ♡ パンツ見れなかったくらいでこんなに落ち込めるんだ~♡ 男の子ってかわい~♡」
うぅ……めちゃくちゃからかわれる……! しょうがないだろぉ! 男だらけの島で暮らしてきた純粋培養の男の子だぞぉ!
「よし、ちょっとこっちこい!」
僕は首根っこを掴まれて、ビルの隙間にあるちょっとした空間に引きずり込まれた。メモ帳をしまうのも程ほどに、首根っこは解放された。
「男ってのはこんなもん見たがるんだなぁ……? パンツなんか見て何が面白いんだ? ほら、見て良いぞ……!」
「えーっ⁉ 香奈ったら大胆~♡ わたしも見せちゃお♡」
「わたしも~」「わたしもみせる~」「たのしそ~」
それぞれが僕にパンツを見せびらかしてくる。七海さんはお尻を向けて、可愛い刺繍とフリルがある事を強調している。どうやら自慢の一品らしい。
僕の産まれた島にはこういう文化が存在していなかったが、女の子の間では下着を見せびらかすのが流行っているのだろうか?
そういえば、若本さん達も三人でスカートを捲り上げて見せびらかしてきた。
「ほら……♡ もっと近くでみたいだろ……? オレのパンツ見ろ♡」
「や~ん♡ エッチぃ♡ すんごく見てるぅ~♡」
僕は夢でも見ているのか? 目の前には秘密の花園が展開している。女の子がパンツ見せびらかしちゃダメだろ! 建前としては勿論そうなのだが、あぁ、でも目が離せない! 男の子だもん!
悶々とした気持ちが、ある一定のラインを越えた時、特別な解放感と共に頭の中が冷静になっていくのを感じた。
「あぁ、ありがとうございます。こんな機会が訪れる事は二度どないでしょう。貴重な体験でした。実に有意義な時間でした」
宝剣が完全に解放されている。余りにもデカすぎて制服の上着に辿り着いている。
「男ってのはさ……! こう、匂いとか嗅いだりするんだろ? いいぜ?」
いやいや、待て待て……初対面の女の子がここまで積極的なのも何かがおかしい。そう考えた時、僕の体から紫のオーラが駄々洩れていたことに気が付いた。
「しまった!
僕は慌てて、きらら先輩から貰った匂い消しを散布し、自分の匂いを消し去った。すると、彼女達は正気に戻ったようで、酩酊時の記憶がハッキリしていないらしい。
危なかった。これでは催眠術をかけて女の子に悪戯をする変態と同じになるところだった……。フィクションでしか見たことはないけれど……。
「本当にありがとうございました。スマホを購入次第、ご連絡させていただきますので、今日の所はこれにて失礼いたします!」
「ん……? おう、またな……!」
彼女達の意識が混濁している間に、僕は急いで寮へと足を速めた。脳裏に焼き付いた美少女のパンツが、頻繁にフラッシュバックする。本当に勘弁してほしい。
途中、目の前と頭の中が焼き付いたパンツでいっぱいになってしまい、電柱に激突してしまった。宝剣の痛みと合わせて二つの痛みが襲い掛かる。
「都会の女の子はエッチ過ぎる……!」
男ならば本来悦ぶべきことだろうが、頻度がおかしい。早い所この酩酊フェロモンのコントロールが出来るようにならなければなるまい。
明日にでもきらら先輩に相談してみるしかなさそうだ……。
それに伴い、一体どんな条件を付きつけられるのだろうか……。僕は未来への不安を抱えながら、寮へと辿り着いたのであった。
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