第3話 生まれた意味を知る


「本当の意味……⁉ それは一体どういう――」


「短絡的に言えば、キミが優秀な遺伝子として求められているという事だよ」


「そんな、男なんて島にはいっぱい……!」


種我島たねがしまの事だろう? そりゃそうだよ、あそこはこの国で唯一、政府監視のもと、【優秀な男子を育てる為の場所】なんだからねぇ……」


「そ、そんなことって……!」


「キミ、ここに来るまで見た男女の比率を憶えているかい? 全校生徒の前でスピーチを行った時、どうだった? 爆裂龍の校長以外、全員女だったはずだよ?」


「いや、まさか……!」


 肝心な時、僕は自分への目線で緊張しない様に野菜に見立ててスピーチした。ゆえに、圧倒的な違和感に気が付かなかったのだ!


「現在この国における男女の比率は、1対49999と云われている」


 五万分のいち⁉ 確かに、女性同士で結婚したり、子供を作ったりすることは国が承認したけど、そんなにも男性の数は減っていたのか⁉


「えっ……! つまりあの論文に書かれていた災厄というのはつまり……!」


「そう! もはや女性同士では、子供が生まれなくなってきたんだ。計算上、あと二世代か三世代を重ねれば、完全に遺伝子異常が明確なものとなり、交配が不可能となる。やり過ぎたんだよ人類は……! あまりにも都合のいい人間を作り過ぎた!」


「不妊治療の技術を応用して、一時期は生まれ過ぎて人口爆発とまで言われた出生率が、今後低下し続けるという事ですか⁉」


「そう云う訳だ。 ちなみにこの情報は一般的に知られておらず、関係者以外に漏洩した場合、発信源は死刑となる。わたしは例外だが、キミは言いふらす事が出来ない。その場合は研究機関で一生精液を搾り取られるモルモットになるだろうねぇ」


 それを聞いて僕の脳裏には、拘束され、血液を搾取され続けている可哀想なカブトガニの映像が浮かんできた。そんな人生まっぴらごめんである。


「貴女は! 何が目的なんですか⁉」


「答えは明白だよ!」


 彼女が何かのスイッチを押すと、首元に痛みが走った。更に、何処からともなくアームロボットが登場し、僕の腕に掴みかかる。




「愛美慎太郎クン! キミの使命は真の愛する人を見つけ出し、清い恋愛交際の末、濃厚な性行為により子孫を残すことにある! さあ、誰でもいいぞ! なんなら私でも構わない! 政府により正式に認められているキミであれば、何人でも孕ませ放題だ! 覚悟したまえ! これから私とキミは恋仲となるのだ!」


 白衣を纏った美少女JKによる跳躍強襲が行われた。僕の制服は懇切丁寧に剥ぎ取られ、すぐさま上半身が露わになる。必死に抵抗するも、その力は強い。


「おぎゃーっ! きらら先輩! 気を確かに! おぉおっ! すげぇ力だ!」


「すまない愛美慎太郎クン! 私も特待生の身でね、半年に一度の研究成果を上に報告しなければならないんだ! なぁに、この研究室には誰も来ない! それに天井のシミも沢山ある! 数えているうちにすべてが終了しているよ!」


 非常に自分勝手な理論を展開し、襲い掛かってくるきらら先輩だが、このままやられっぱなしと云う訳にはいかない。多少怪我も込みで力を籠めるがビクともしない。


「嘘でしょ⁉ 僕はベンチプレス200キロの記録保持者ですよ⁉ なんでこんなに押し負けてるの⁉」


「キミの力は力学を完全に使いこなしていない! 自らの才能であるフィジカル頼りのものに過ぎないのだよ! 観念したまえ! そうだ! キスをしてやろう! どうだい⁉ 美少女天才科学者JKからの濃厚な接吻だよ? 自慢じゃあないが私にはファンクラブだって存在する! ファンが知ったら羨ましがるだろうねぇ!」


「それなら猶更、ファンの為に清らかでいてくださいよ! うおぉお! 強いっ!」


「ハハハハハ! なかなか粘るじゃあないか! 多少強引だが、私の様な美少女であれば言わずもがな、濃厚な遺伝子が排出されるだろう! キミと私の子だ! さぞかし可愛いベイビーが生まれて来る事だろうねぇ!」


「うわーーーっ! 誰かーーー! 助けてくれーーー!」


「無駄だよ! もうすぐ筋弛緩剤と麻酔薬が効いてくる頃だろう! ついでにスムーズな導入の為に、血管拡張薬も仕込ませてもらった! 見せてくれたまえ! キミの素直で実直なご子息を!」


 きらら先輩の手が、制服のズボンに差し掛かる。チャックは下ろされ――


「舞鶴さん! 今年度の予算案について……ぴっ⁉」


「深雪ちゃーん! 愛美クン見なかった? ほら、私が手を繋いで……た……あ!」


 最悪の状況が生まれた。ロボットに拘束され、上半身は乱れ、下半身に至っては丸出しである。そのうえ、きらら先輩が足を押さえつけた状態で股間を凝視している。


「せ……――」


「――性犯罪ーーーーーーーーッ!」


 生徒会長、富山深雪の絶叫が部室棟に響き渡った。そこに居合わせた御木本あゆみも、愛美慎太郎の股間から目が離せないでいる。


「これが噂に名高い……! 宝剣……ポコティーン!」


「言ってる場合か! お二人ともお助け下さい! 薬を盛られました! 如何に僕が強靭であろうと徐々に体が動かなくなってきています!」


「キミ達も一緒にどうかね? 今なら愛美慎太郎クンの清らかな一発目を譲ってあげても構わないんだよ?」


「きらら先輩! ファン会員000028番! 御木本あゆみ! 右足を押さえます!」


「こらこらこらーっ! 一瞬で幼馴染を裏切るなーっ!」


 あゆみちゃんが、きらら先輩に寝返った。

この展開、余りにも早過ぎる。僕じゃないと見逃しちゃうね。


「そうよ! 御木本さん! 早く助けな……キャーッ! なんてものを出しているの愛美くん! そんなもの見せびらかして、どうするつもり⁉」


「どうするもこうするも、現在の僕に主導権はないんですよ! 早くきらら先輩をなんとかして止めてください!! 校内での不純異性交遊どころか、強制わいせつ罪が適応される水準ですよこれは!」


「うぅ……! でもぉ……!」


「諦めないでください! 富山生徒会長!」


「口では嫌がっているが、身体は正直だねぇ……! これ程の大きさは私も文献でしかよん……だ……ことが……? な、なんだ、この酩酊感は……!」


「しんちゃんの宝剣ポコティーンが……! どんどん大きくなっていく! 二倍、いや、最初の三倍大きくなった!」


 股間の太陽宝剣が力を増していく。次第に薬の効果が抜け、ロボットアームもねじ伏せる事が可能となった。僕の体からは紫の煙が発生している。


「こ、これは……! フェロモン……! 女性を酩酊させるフェロモンだわ! 余りにも効果が高い為、可視化されている男の匂い! なんて濃度が高いのかしら……! マスクを用意していなければ死んでいたかもしれない……!」


 富山深雪生徒会長は、どこからともなく取り出した毒ガスにも対応しているガスマスクを装着していた。もはやギャグの速度と対応力である。


 この騒動の引き金となった舞鶴きらら先輩は、僕の放出したフェロモンを高濃度で浴びてしまったらしく、【酩酊】つまりは酔っぱらった状態となってしまった。


「撃ち込んだ薬の効果が……! 愛美クンの能力を目覚めさせたか……! これ程まで早いとは……! 博士の事を見誤った様だ……な……がくっ!」


 自分で力尽きる音を付ける人初めて見た。


「おぉ、この香ばしい感じ……! しんちゃんの匂いって感じだ……!」


 あゆみちゃんは僕のフェロモンに対して反応を示していない。どうやら酩酊の作用は然程効いていない様子である。拘束も解け、きらら先輩も気絶している。僕を止めるものは何もいない。


……! 幼馴染を速攻で売り飛ばすとは、どういった了見なんですかねぇ……?」


「あれれぇ? そ、そうだったかなぁ~? 助けようと努力はしたけどぉ?」


 真っ先に右足を拘束した人が良く言う……。さっさと起き上がってパンツとズボンを履き直さないと……!


 そう思って立ち上がろうとした瞬間、僕の宝剣がいつもの大きさとは異なり、三倍であることを考慮していなかった――


「うぉべっ⁉」


 先程まで僕の右足を押さえ込んでいたあゆみちゃんの顎に、三倍宝剣がアッパーカットを放ったのである。勿論そんなつもりは毛頭なかったのだが、目測を見誤った。幼馴染、御木本あゆみは僕の所為で脳を揺らされ、気絶してしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る