第25話 さあ、デザートですよ!

 十二にんくろスーツさん。

 わたしはもぐもぐしながら、わいわい食事しょくじをしているみんなの様子ようす観察かんさつしてみた。

 もしかして――みんなおもったよりわかいのかな? 

 高校生こうこうせい大学生だいがくせい。わたしや犬上いぬうえくんくらいひともいる。

 ……男子校だんしこうみたいだ。

 くろふくのおかげで、ちょっとこわかったけれど、意外いがい中身なかみ普通ふつうなのかもしれない。


「――ん? りょうにい。ちょっと寝不足ねぶそくか?」

 突然とつぜん犬上いぬうえくんがはなをひくひくひくさせながらった。

「バレた!? ちょっとほんんでたら、あさになってしもたんや」

「ちゃんとなくちゃダメだぞ! よる警備けいび当番とうばんだろ?」

 さっきとうあにばれていたくろスーツさんその2がたしなめる。

「すんません、食事しょくじしたら仮眠かみんします」

 りょうにいさんとばれたくろスーツさんはあたまをかきながら苦笑にがわらいした。

惣領そうりょう体調たいちょう不良ふりょうかくすなんて、百ねんはやいんですよ」

 耀ようにいさんがわたしに耳打みみうちをしてくれた。

 一体いったい、この集団しゅうだんはなんだろう?

 犬上いぬうえくんは〝家族かぞく〟だ、ってってたけど……。

 

「ところでお客人きゃくじん惣領そうりょうとは〝どう〟なんですか?」

「ぶっ!」

 犬上いぬうえくんが料理りょうりした。

 いたのはくろスーツさんその2だ。


「ど、どうって……!?」

 わたしはどきまぎした。

小学校しょうがっこうからおなじクラスだったんでしょ?」

「え!? な、なにもないですよ――!」

本当ほんとうにぃ? このあいだ惣領そうりょう一晩中ひとばんじゅうさがしてたから、こりゃ大変たいへんだ、っておもってたのに!」

とうにい!!」

 犬上いぬうえくんがおこったこえさけんだ。

 一晩中ひとばんじゅう!?

 も、もしかしてあの、ガス爆発ばくはつ

 まさか!? 

「さあ、デザートですよ!」

 いつのにかいなくなっていた耀ようにいさんが、おぼんかかえてもどってきた。

「デザートまでかないのがわたしりゅうです。今日きょうはおきゃくひとるといて、いつもより気合きあいれてみました!」

 さらうえには、あまかおりのくろ物体ぶったい

濃厚のうこうガトーショコラです」


 一晩中ひとばんじゅう――たしかめたいけれど、たしかめるのがこわい。


 かなかったことにして、まえくろくてこっちりとした物体ぶったいをおくちはこぶ。

 ぉ、おいしすぎる……!

 ほどよい苦味にがみ。じんわりくる甘味あまみ。こってりとした舌触したざわり。

 三拍子さんびょうししっかりそろっている。

 この濃密のうみつさは、すこしずつフォークでっつくのが一番いちばんいい。

「おわりっ!」

 とうにいさんがさけぶ。

「ありません! ってか、あじわってべろよ、すえ!」

 耀よいうにいさんがしぶかお返事へんじをする。


 ――本当ほんとう男子校だんしこうみたいだ。

 気持きもちがゆるんでクスッとわらえてしまう。

 おなかいっぱい……。

 しあわせな気分きぶんでテーブルのはしをやったときだった。

 一人ひとりだけ、雰囲気ふんいきちがう、くろスーツさんがいるのにがついた。

 そのひとは、眉間みけんにしわをせて、犬上いぬうえくんのほうていた。

 高校生こうこうせいくらいのかんじ、かな?。

 どうして、あんなかおしてるんだろう……。

 ゆるんだ気持きもちになみつ。


「ごちそうさまでした!」

 号令ごうれいとともに、昼食会ちゅうしょくかいわった。


 みんな、用事ようじがあるのかそれぞれの食器しょっきって一斉いっせい解散かいさんする。

 がついたら、犬上いぬうえくんもいなくなっていた。

「ぁ、あの……あと片付かたづけ、手伝てつだいます」

 わたしは耀ようにいさんにこえをかけた。

 こんなに美味おいしい料理りょうりをいただいたけれども、いまできることはこれくらいしかない。


「……そうですね」

 耀ようにいさんはすこしだけかんがえるとにっこりわらってうなずいた。

「じゃあ、手伝てつだってください。台所だいどころまで、食器しょっきをおねがいします」


 おぼん一杯いっぱい食器しょっきを、耀ようにいさんとはこぶ。

「ゆっくりでいいですからね」

「はい。あっ……!」

 かどがったところで、わたしはだれかにぶつかりそうになってしまった。

 とっさのことにおぼんから湯呑ゆのみがこぼれちる。

「あぶないっ……!」

 わたしとぶつかりそうになった人物じんぶつがそれをキャッチした。


「す、すみません! ありがとうございます。あ……」

 わたしはおもわずちいさなこえをあげた。

 そこにいたのは、さっき眉間みけんしわせていたくろスーツさんだった。

「いや、もうわけないのはこちらです。大丈夫だいじょうぶですか?」

 くろスーツさんはわたしのおぼん湯呑ゆのみをもどしながらった。

「ぁ、ありがとうございます。大丈夫だいじょうぶです」

「そうですか。では、失礼しつれいいたします」

「あ、あの……」

 くろスーツさんがさきこうとしたので、わたしはおそおそめた。

「もしかして食事しょくじとき、わたしがいたのが、ダメでしたか?」

 くろスーツさんはすこおどろいたようなかおをしたあと、もうしわけなさそうにこたえた。

ていたんですか……失礼しつれいいたしました。あなたにはとくなにもありません。どうぞゆっくりしていってください。おなせき食事しょくじえたのですから。もう、あなたは一族いちぞく全体ぜんたいのお客人きゃくじんです」

 そううと、くろスーツさんは一礼いちれいをし、あるいてってしまった。

 一族いちぞく全体ぜんたいのお客人きゃくじん? ちょっと意味いみがわからない。

 

一族いちぞくあつまったせき一緒いっしょ食事しょくじをしたら、一族いちぞく同様どうようにあつかう。ウチの家系かけいのしきたりです」

 わたしの疑問ぎもんんだのか、耀ようにいさんがこたえてくれた。

「イヤなにあわせて、もうわけありません。アイツが〝ああ〟なのはべつ理由りゆうです。あなたが原因げんいんじゃあないです。にしなくていいですよ」

 耀ようにいさんが微笑ほほえみかけてくれたので、わたしはうなずいた。

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