第23話 あの人は……素敵な……ゲフン!

 がさめた。

 まぶたがおもい。

 |おおかくしている前髪メカクレしたで、ぬれたまついている。

 まただ。

 わたしは時々ときどきいてめてしまうことがある。

 たぶん、おなゆめているのだとおもう。

 どんなゆめなのかは、おぼえていない。

「は──」

 鼻先はなさきがつままれたようにいたい。

 うでをのばして、ティッシュを一枚いちまいるとおもはなをかんだ。

 今日きょう土曜日どようび学校がっこうはない。


 昨日きのうばん、お世話せわになっている犬上いぬかみくんのいえかえると、すぐに部屋へやのベルがった。

 やってきたのは犬上いぬうえくんだった。


『おまえ、もしかして……』

 

 中華街ちゅうかがいのビルの屋上おくじょう最後さいご犬上くんオオカミわたしコウモリいかけた言葉ことば

 その言葉ことばつづきをわれるのかとおもってドキドキしたけれど……。

 てきた言葉ことばはぜんぜんちがうものだった。


月澄つきすみこといえのみんなに紹介しょうかいしろ、だって」

「え?」

耀ようにいだよ! 明日あした土曜日どようびひるめしにおまえべ、ってかないんだよ!」

「ぇ? ええええっ!?」

おどろくだろ? おまえがそういうの苦手にがてなのはってるよ、でも一応いちおう絶対ぜったいけって」

 犬上いぬうえくんは不満ふまんそうにった。 

「イヤだったら、ことわってくれていい! ってか、確認かくにんするまでもないよな?」

「…………」

 わたしはあせをかいた。

 ひとがたくさんあつまる場所ばしょ。たしかにわたしが、一番いちばん苦手にがて場所ばしょだ。

 それに、わたしを紹介しょうかいするのが目的もくてき、ってことは目立めだたないわけにはいかない。

 いままでならおことわり――のはずなんだけど。

 部屋へやしてくれただけじゃない。

 学校がっこうとおえるのも、よるおにごっこでげてこられたのも。

 みんな犬上いぬかみくんと、このいえひとたちのおかげだ。

 でも、いまはまだ、なにかちゃんとしたおかえしができる状態じょうたいじゃない。

 だったら――――

「だ、大丈夫だいじょうぶ! わたしなら」 

 わたしは勇気ゆうきをふりしぼってった。

「え? マジかよ!? っとくけど、ウチ、家族かぞくおおいぞ、いいのか?」

 ううっ、おおいのか……。

 でも、ここでくじけるわけにもいかない。わたしはうなずいた。

「おれいいたいの。みなさんに」

「そうか……。わかった」

 犬上いぬうえくんもうなずいた。

家族かぞく――って、おとうさんとおかあさんはいらっしゃるの?」

「……ちちはいない。ははは――明日あした参加さんかしない」

 犬上いぬかみくんは言葉ことばえらんで返事へんじをした。

 しまった。ちょっといちゃいけないことだったのかも。

 わたしは、こころなか犬上いぬかみくんにあやまった。

「じゃあな。明日あした昼前ひるまえにむかえにくるよ!」

 そうって犬上いぬうえくんは部屋へやていった。

 

 そんなこんなで、午前ごぜんちゅう時間じかんごしたわたしは、部屋へやのソファーでドキドキしながらっていた。

 かない気持きもちをしずめるために、あらためて部屋へや見回みまわしてみる。

 ここは犬上いぬうえくんのおねえさんがんでいたという部屋へやだ。

 白壁しらかべのあるおおきなおおきなお屋敷やしきのすぐとなりにある、一軒家いっけんや。そのなかの一部屋へや

 そこがこの部屋へやだ。

 コンクリートのかべに、くろてつとびら部屋へやのしきりはガラスでできている。

 よくはわからないけど、とにかく都会的とかいてきかんじ。

 かざられたギターや、ならべられたレコードがとにかくロックっぽい。

 いったいどんなひとなんだろう……。

 ピンポン♪

 油断ゆだんしてた!

 いきなりドアのチャイムがって、けてた気持きもちがしめつけられる。

「おむかえにました!」

 ドアをひらけてはいってきたのは、れいによってくろいスーツのおとこひとだった。

 ――耀あかるにいさんじゃない。たぶん、初日しょにち運転手うんてんしゅひとだ。

「ありがとうございます」

準備じゅんびはいいですか?」

「……は、はい」

 わたしはがった。

 ん? このひとなにしているんだろう……?

 部屋へやはいってきたくろスーツさんその2は、はなうえけヒクヒクさせている。

 もしかして、においをいでいる?

「し、失礼しつれいしました。ここ、きなんで……」

 わたしがのぞきんでいるのにがついて、くろスーツさんその2はあわてた様子ようすであいそわらいをかべた。

「カッコイイ部屋へやですね、ここ」

「でしょう!!??」

 くろスーツさんその2が、ぐいっとからだまえした。

犬上いぬうえくんのおねえさんの部屋へやですよね?」

「そ! そうです! ソウリョウのおねえさん。いやあ、んでたひとのセンスがにじみてるっていうか、最高さいこうですよね!」

 なんだか、鼻息はないきあらい。

 くろスーツだからわかりにくいけれど、もしかしたらこのひと結構けっこうわかいのかな?

「ぁ、あの。おねえさん、どんなほうなんですか?」

「そ、そうですね! あのひとは……とても素敵すてきな……ゲフン。失礼しつれい面倒見めんどうみい、おやさしいほうですよ!」

 くろスーツさんその2はとおをしながらった。

 うーん。もっといてみたいもするけど……。


「じゃあ、きましょうか! ソウリョウがってます」

 くろスーツさんその2が、ドアハンドルにをかけた。

 わたしは、ごくりとつばをみこんだ。

 このドア。いつもここから、犬上いぬうえくんがやってくるドアだ。

 このこうに犬上いぬうえくんたちがいる。わたしはドキドキした。 


 ――まぶしい! 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る