第19話 颯くん!!

 そのときかがみ人影ひとかげ横切よこぎった。

 二ほんながみみ、ウサギくんだ!

まちてっ! っ、いたって――!」

 犬上いぬうえくんはウサギくんをいかけようとして、いきなりかがみにぶつかってしまった。

いま、そっちにったぞ! をつけろ!」

「は、はいっ! っ、つうった――!」

 今度こんどはわたしがウサギくんからげようとして、かがみにぶつかってしまった。

 こ、これ……いかけるのもげるのもむずかしい。

 はしってげるなんて、とてもできないよ!

「ヘンだな。コイツ、姿すがたえるけど全然ぜんぜんにおいがしない。それに近寄ちかよってこようともしない!」

 たしかにそうだ。うさぎくんはかがみにチラチラと姿すがたうつるだけで、わたしをつかまえようとしているようにはおもえない。

「こっちからフィンのにおいがする。やっぱりアイツ、なにってるとしかおもえない」

「じゃあフィンくんをさがすの?」

「ああ、それが一番いちばんだな。だけど、しんじちゃダメだ! コウモリはみみえるんだろ! オレにははながある。だったら!」

 犬上いぬうえくんはわたしにかって、した。

「えっ!? こ、こここれって、どどどどうすれば!?」

「いいから、くぞ!」

 犬上いぬうえくんが、いきなりわたしのをつかんだ。

「おれははなすすむ。みみいてぶつかりそうになってたら、この容赦ようしゃなく、いてくれ! いそいでフィンをさがそう!」

 そういうと犬上いぬかみくんは、わたしのきながら、さきすすはじめた。

 をつないでだれかをいかける――まるで『つなぎ』だ。

 まえには、犬上いぬうえくんの背中せなかとつないだわたしたちのえている。

 つないだ犬上いぬうえくんのはあたたかい。

 …………ダメ! 集中しゅうちゅうしなきゃ。


 わたしはじた。

 かがみ迷宮めいきゅうをつむれば、ただの迷路めいろにしか〝こえない〟。

 これならだまされない![#「これならだまされない!」は大見出おおみだし]

 犬上いぬうえくんは注意ちゅういしながらもスピードをげて、すすんでいく。

「くそっ! なんなんだコイツ!? いったいどこにいるんだ!?」

 ウサギくんはあいかわらず、かがみにチラチラとうつっているようだ。

 たしかに、これまでの追撃ついげきしゃ《チェイサー》のように直接ちょくせつつかまえようとはしてこない。

 だけど、絶対ぜったいなにかある! 

 そうおもったときだった――


「ひゃあ!」

 おもわずける。

 犬上いぬかみくんとわたしのあいだゆかから、いきなりかがみがってきていた。

「あぶない!」

 犬上いぬかみくんがとっさにってくれて、わたしはなんとかそれをえた。

 でも、着地ちゃくちしたところに今度こんど天井てんじょうからガラスがりてくる。 

 とっさに、あたまげてくぐりける。

 もしかして、めるつもり!?

はしるぞ!」

「はい!」

 犬上いぬうえくんにられて、わたしはもう一度いちどをつむってはしりだした。


 スピードはどんどんはやくなっていく

 かがみとガラスは四方しほうからせりしてきて、れつをなしていつめてくる。

 まるで、かがみとガラスの兵隊へいたいだ。

「もっとはやく、もっともっとはやく!」

 犬上いぬうえくんが自分じぶんかせるようにつぶやいている。

 わたしも必死ひっしだ。かがみかべのがしたら二人ふたりともぶつかってしまう。

 うえからしたからあらわれるかがみとガラスをくぐり、びこえながら、まえ犬上いぬかみくんがぶつからないようにぎりしめる。いきつくひまもない

 だけど、だけど……もうすこしでいつかれる。いつかれてしまう!

「くっそ……う!!」

 犬上いぬうえくんが、ぎりぎりとぎしりをした。

 草原そうげんをわたるかぜはさらに加速かそくし、あらしのようなかぜいろわっていく。

(えっ!?)

 わたしはおもわずいきをのんだ。

 じたくらやみのなかおとこえる犬上いぬうえくんの姿すがたわっていく。

 つめたくくらもりなかはし本物ほんもののオオカミの姿すがたに。

 銀色ぎんいろはりのようなかがやかせ、うめくようにさけんでいる。


 様子ようすが、様子ようすが、おかしい――。

 にぎっていたがするりとほどけて、わたしはおもわずさけんでしまった。 


そうくん!!」

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